BSIAシンポジウム2018講演「エンタープライズアジャイルって何だろう」

2018年8月29日に開催されたBSIAシンポジウムのランチセッションで講演しました。終了後、多くの方からよかったとコメントをいただけたので、安堵しています。
有償イベントのため資料は事務局から参加者向けにのみ配布されますが、その概要をお伝えします。なお聴講対象者はユーザー企業の情報システム部門です。

www.seminar-reg.jp

"エンタープライズアジャイル” というキーワードから連想すること

私が調べた限りでは、エンタープライズアジャイルとはこうである、という定義は「ない」という見解です。その代わり、立場によっておおむね4つの見方があるのではないか、と整理しました。

f:id:ynie:20180829095332j:plain

1. SoRとSoEという関係性からの対比

まず前提知識として、SoR と SoE は同じ IT といっても内実は大きく異なります。

f:id:ynie:20180829095643j:plain

ところで今、流行の「DX」(デジタルトランスフォーメーション)は、すべての企業が SoE へ踏み出さなければ Amazon に蹂躙されますよ、という恐怖感が背中を押しています。そのため、どの企業も、自社の情報システム部に、SoE 分野に踏み出してほしいと考えています。

そこで「エンタープライズアジャイル」というキーワードに惹かれた、という見方です。つまり「エンタープライズ」な経験しかないチームが「アジャイル」すなわち SoE の開発ができるようになるための何かがあるのではないか、という興味です。

私見では、それはいわゆる「アジャイル」分野でよく語られているお話で、これをわざわざ「エンタープライズアジャイル」と言い換える必要はないと考えています。ですので、この視点から特に語るべき知見はなく、普通に?「アジャイル」開発を実践していただいて OK です。

2. “アジャイル” 的アプローチを取り入れたいという視点 (1) 下流工程

あまり下流という言葉は好きではありませんが、発注側のポジションにいる方々にはわかりやすい区分かと思い、そのように分類しました。

変化を好まない開発現場に、JUnit、Selenium、Git、CI、Slack、Maven を導入すると何かが変わるのではないか、という化学変化を期待する視点です。
効果は限定的でしょうが、最初のアプローチとしてはいいかもしれません。ただ実際には、続く「上流工程」が本命と考えています。

3. “アジャイル” 的アプローチを取り入れたいという視点 (2) 上流工程

アジャイルには「思想」があります。それは「利用者(発注者)と開発者が密にコミュニケーションをとって、必要なものをつくっていく」ということです。これがエンタープライズへのアンチテーゼになっているのは「不要かも知れないものも計画してしまったら作るしかない」という無力感への批判が含まれているためです。

これについては多くの人が納得するところです。では、この思想を活かした形で「大規模開発」に適用できるのか。つまりエンタープライズアジャイルの冠である"エンタープライズ"という言葉には、大規模開発で、という意図が含まれているという見方です。

しかしこれも私が調べた範囲内では、大手 SIer におけるアジャイル事例は小規模案件への適用にとどまっています。一方、ユーザ企業による内製で大規模の成功が発表されていますが、これは SoR ではなく SoE 案件です。つまり SoR 分野かつ大規模でアジャイルというのが未開拓であり、かつ最後に残った課題といえます。

仮にこれを new SOR と呼びます。こういうことでしょうか。

f:id:ynie:20180829102101j:plain

では何のためにこの体制を求めるのか、といえば、SoR なので答えは自ずから定まっています。

  • 開発費と保守費の削減。システム開発費のほとんどは人件費である。少人数で大規模開発という体制は費用削減に大きく貢献する。
  • 開発スピードアップ。エンタープライズはますます SoE を支えるために変化することが求められている。
  • ユーザによるシステムイニシアティブの確保。「動けば中身はなんでもいい」ではない。「どういう仕組みで動いているか」を語れる必要がある。

最後の文は少し補足します。エンタープライズ分野が「旧システムの延命」と「パッケージ導入」に席巻された今日、アーキテクチャを語れるユーザ企業は少なくなってしまったと感じています。一方で、SoE をリードするユーザ企業は、流行のアーキテクチャを知っています。私はユーザ企業(の情報システム部門)の方は、ある程度の技術要素習得は必要だという立場であり、むしろ外注管理能力が不要にならなければならないと考えています。

4. システムアーキテクチャ的な視点

実際のところ、流行のアーキテクチャは SoE が牽引しています。これからの SoR には、SoE のノウハウが反映されるようになるでしょう。オブラートにつつまずに言えば、SoE が SoR を飲み込むのです。

では、これまでの SoR 主体のエンジニアはどう関わっていくか。「データベース設計能力」「業務要件の見える化能力」そして「システムアーキテクチャの理解力」を手放してはなりません。プログラミングはツールに任せるか、外注でかまわないでしょう。

ということで私の講演の主旨をまとめると、次のようになります。

  • エンタープライズアジャイルとは、SoRとSoEの垣根をなくすムーブメント(運動)である。
  • SoRがなくなるわけではない。しかしSoRは抜本的な改革が必要な時期にある。この改革は SoE との統合化によって実現できる。
  • SoEによる、SoRの統合を積極的に行なった企業が、デジタルトランスフォーメーションを成功させることができる。両者がばらばらの状態ではうまくいかない。これには文化面および技術面の両方がある。

講演では、この主旨に沿った形で、かなり具体的な提言も盛り込んでみましたが、このブログでは割愛します。( 興味のある方はお声がけください。個別にお話しします。)

Wagby Developer Day 2019