IT投資を先延ばしにし続けると、最後はどうなるのかを思考実験してみる

企業内で利用するエンタープライズシステム開発への投資(IT投資)が進まないという話は、もはや珍しいことではないでしょう。10年以上も前に開発したシステムを、それこそバグも含めて今も使い続けている。運用という名目で多くの人件費が無駄に使われているのですが、それでも再開発に比べると安いという判断です。しかしこの方針は同時に自社の競争力を損ない、強みを活かす機会を逸するという状態につながっています。その行き着く先は価格競争であり、そうなってはますます、IT投資を行うことができないという悪循環に至ります。

 

「そうは言っても実際にIT投資の余力がない。」という事実を直視し、思考実験をしてみました。今後、日本の景気が改善し、業界全体が潤う... というバブル的状況は発生しないだろうという仮説の下、業務フローを変えずに原価(人件費を含む)のさらなる圧縮という戦術で経営を継続する、というシナリオです。その間、現行システムへの保守以外は行いません。つまり "投資" は発生しません。

 

多くの企業で、このシナリオでは、もってあと5年から10年、というのが経営陣の本音ではないでしょうか。最終的には、その時点の経営陣の判断で会社を売却するか、あるいは会社そのものを閉めるという撤退戦略しか選べないという状況 - いわゆる「詰み」の状態に至るでしょう。つまりIT投資の延期の果てに、現行システムの寿命と、会社の寿命が一致する可能性が高まるということに気付きました。

 

IT投資とは、現在のエンタープライズシステム開発の保守延命コストではありません。会社を継続・発展させるための経営戦略を支える基盤そのものを常に改善するプロセスのことです。これが自社の強みの源泉です。よってIT投資を避けることは、自社の短命化につながります。

 

この視点で改めて企業のIT投資を見直したとき、必要なのは金額の多寡ではなく、自社を(市場の中で)どういうプレーヤーとして位置づけたいのかという経営者の気持ちを見える化することだ、と考えるようになりました。"IT投資をしない" のは "中長期の経営ビジョンで、価格競争以外の自社の強みを再定義できない" ことの裏返しではないかという仮説です。

 

もちろん今の経営環境を考えると、ずばぬけたアイデアによるヒット商品・サービスの開発で他社に先行するというアプローチをかけられるのは、一握りの会社です。多くはそのようなホームランを狙うのではなく、既存顧客をしっかりフォローし、信頼を得るためのきめ細かい対応のために自社のITを強化するという地道な活動を継続することが大切です。

 

IT投資とは新しいビジネスを行うだけではなく、現在の顧客をつなぎとめるためにも有効であると考えれば、いろいろなアイデアが出てくるのではないでしょうか。顧客をつなぎとめるために他社より価格を安くするという発想をまず止める、という勇気を持つことが出発点になるのではないかと思います。