3回目となる超高速開発コミュニティ総会の基調講演で ”SEは死滅する” を考える

さった4月21日に、超高速開発コミュニティの第3回目の総会が無事に終了しました。会員も200を超え、超高速開発というキーワードへの認知度は高まっています。さらに普及させるための次の一手は何か、というマーケティング指向で今年度も運営に携わりたいと思います。

今回の総会の基調講演は、ITProの人気コラム「極限暴論」で著名な木村 岳史 様にご登壇いただきました。お願いにあたっては、"超高速開発” について暴論でよいので、忌憚のないご意見を賜りたいとお伝えしていたので、とても楽しみにしていました。どのようなご意見だったかは最後に書きますが、おかげさまで大変盛り上がりました。このブログの場で、改めて御礼申し上げます。

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当日の参加者全員に、最新の著作 “SEは死滅する” がプレゼントされました。ITProのコラム + アルファを一気に読めるので、自分の考えや立ち位置を整理するにはもってこいの一冊です。

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木村氏の主張をどう解釈するかは、人それぞれに異なることでしょう。以下、私の解釈をまとめてみます。

本質的な問題は人月制度や多重下請け構造よりも、もっと根深いところにある

木村氏のご指摘にあるように、人月制度は技術者の価値を上げづらいですし、多重下請け構造はブラック企業の温床になります。欧米では雇用の流動性が高い(つまり、開発プロジェクト解散とともにレイオフできる)が、日本はレイオフが難しいため下請け構造は必要悪である、という擁護もあるでしょう。私自身もこの業界に身を置いてからずっと考えてきましたが、この総会で直接お話しする機会をいただき、その会話の中で改めて気づいたことがあります。本質的な問題は「SEとプログラマーを分けた職能制度」にあるのではないか、ということです。突き詰めていうと、「SEが上で、プログラマーは格下」という潜在意識が問題の根元ではないか、ということです。

その理由もわかります。ITではなく電算機と呼ばれていた1960年代では、プログラマとはフローチャートの翻訳作業という位置付けで普及したのでしょう。もちろんその時代でも、アセンブリ言語で OS を開発した技術者は存在しますが、それはハードウェアの一部と位置付けられていたのかもしれません。そうであればハードウェアが主で、ソフトウェアはおまけ、という意識にもつながります。日本はコンピュータの黎明期にそのような文化を欧米から吸収したあと、今度は欧米がソフトウェア主流(プログラマは翻訳作業ではない)に移行していったにもかかわらず、古い体制を維持してしまったのかも知れません。

しかし今、世界中でおこっている「デジタル化、つまり本業のIT化」とはソフトウェアが中心となる時代であるため、プログラマーを格下と位置付ける現行制度は破綻せざるをえないです。それが木村氏の主張の根幹であり、また、私も完全に同意できる、というのが、私なりの解釈です。よって、現行制度を維持する仕組みとなっている人月制度および多重下請け構造は “もう、もたない” と考えるのが自然であり、本業の IT 化のスピードが加速していることを考えれば、2020年あたりを目安に、現体制(ヒトを売るというビジネスモデル)は崩壊してもおかしくありません。特に SIer の主戦場であるエンタープライズシステム開発分野においては、積極的に現体制の “次” を模索しなければ早晩、死滅するということを共通認識としてもった方が健全といえます。

超高速開発はどこに位置付けられるのか

木村氏の提言によると、エンタープライズシステムは ERP をカスタマイズせず、そのまま使うのが良策です。現場の「使い勝手」よりも組織全体の仕組みの「標準化」を優先すべしということですが、これは一理あります。経営者にとってITを活用するとは、おおざっぱにいうと次の二つしかありません。

  • コスト削減に貢献するもの。
  • もうかる仕組みを提供するもの。

これまでエンタープライズシステムとして開発・運用されたのは前者です。しかし実際にはコスト高となって経営者にとって不満になっていました。今、注目されている本業のIT化は、後者です。こちらは投資に見合うメリットがあるかという判断もそうですが、経営者にとってみれば、これに着手しなければ会社そのものが消えるという危機感の方が強いでしょう。

ところで前者は「汎用性を高めること」がコスト削減に直結します。つまり共通基盤を多くの組織で再利用することが求められます。一方で後者は「独自性を高める」ことが他社との差別化、すなわち競争優位性につながります。よってここはアジャイル型開発で "まずは、やってみる。” 文化との親和性が高いと思います。

超高速開発はどこに位置付けられるか、というのは私の中では明白で、前者(コスト削減)に存在意義があります。ただし木村氏のいうように、カスタマイズしない ERP 利活用が普及すれば、開発プロジェクトそのものが減っていくでしょう。それでもゼロにはなりません。少なくともエンタープライズシステムをスクラッチで開発する、という時代は終わり、ノンカスタマイズで ERP を使うか、あるいは超高速開発手法を取り入れるかのどちらかになります。いずれも人月制度と多重下請け構造は不要になります。ですので “SEは死滅する” のは新しいビジネスチャンスの到来と捉えられる、というのが私にとっての未来志向です。

木村氏からのアドバイス

ご講演の最後で、アドバイスをいただきました。超高速開発という言葉そのものはマーケティングとしてはある程度使えるかも知れないが、なぜベンダーは(当社も含めて)これを「ツール」と位置付けるのか?という指摘でした。これには、はっとしました。

超高速開発とはツールではなく思想であり、また利用する組織にとっては環境でもあります。そこまでの広がりを見据えて説明しないといけないのですが、ツールといって自分の殻に閉じこもっていないか?と直言されたように感じます。

そういう視点では、むしろユーザーの方が一歩も二歩も先を見ています。このコミュニティはユーザー、SIer、ベンダーの三者が揃っているので、こういった議論も行えるかも知れません。今の活動では足りない、まだまだ、やることはある、と気づかされたことも収穫でした。