“ポモドーロテクニック” の使いどころ

「SOFT SKILLS ソフトウェア開発者の人生マニュアル」というタイトルに惹かれて、購入しました。
https://www.amazon.co.jp/dp/4822251551/

ソフトウェア技術者にとって知っておいた方がいいアドバイスということですが、プログラミングの話ではありません。採用に向けての面接のハッキングや採用後の組織での出世方法、フリーで独立することやスタートアップ企業の起こし方、果ては給与の交渉方法や株・不動産の活用など、多岐にわたるテーマでした。学生時代もしくは IT 業界に就職して数年以内に読んでおくと、人生を長期的に考えるきっかけになるでしょう。ベンチャー企業の社長とかスーパープログラマーといったポジションではないが、「私はこうやって自立している」というライフハックネタは、これまであまり公になっていませんでした。今後は日本でも盛り上がるかも知れません。私は不動産にも株にも縁遠いので、この著者のような生き方は難しいですが、プログラマにとってのゴールには多様性があることを示したことは良いことだと思います。

さて本題です。本書で語られていた生産性向上というテーマで、私が知らなかったのが「ポモドーロテクニック」というものです。これは、その日にする仕事の予定を立てて、25分を1単位として仕事に取り掛かるというものです。1ポモドーロには、必ず1つの仕事だけを割り当てます。その間、電話はもとより、メールやSNSには一切触れず、集中を決して途切らせない、というルールを(自分に)課します。25分たったらベルを鳴らし、5分休憩します。つまり1ポモドーロは30分となります。また、4ポモドーロごとに15分の長い休憩を入れます。仮にタスクが早く終わってしまった場合の残りの時間の使い方はさまざまなようで、著者の場合はすぐ次のタスクに取り掛かっているとのことです。

(ちなみにポモドーロとはイタリア語のトマトのこと。トマトの形をしたキッチンタイマーが販売されています。)

ポモドーロテクニックとはこれだけのルールなのですが、その真価は「1日に何個のポモドーロを実行したかをトラッキングすること」にあります。すると1日にどれくらい仕事をしたか、自分の本当の能力を計測できるようになる、というのです。計測値がわかれば、それを高めようというモチベーションが生まれますので、できる限りポモドーロ実行数を増やしたい = 生産性を高める、ということにつながります。

私が納得したのは、ポモドーロテクニックを使うと、1週間をポモドーロ何個分かの限りある資源として考えられるようになる、という説明でした。平均的な労働時間を8時間/日とし、1ポモドーロ30分とすれば、理論的には16ポモドーロ/日をこなせるはずです。しかし著者は6ポモドーロをこなすことさえ難しいことに気づいたそうです。確かに、私自身、SNS を閉じて25分間集中するということを5から6回こなすことは案外、大変かもしれないと感じました。ちなみに著者の目標は50〜55ポモドーロ/週ということです。

1日8時間ではなく、週50ポモドーロという考え方

これはプログラマーに限らず、現代のオフィスのさまざまな部署で使えそうです。週50ポモドーロを個人の目標とし、ポモドーロ単位で何をしたかという業務報告でチームを運営することができれば、出勤や退勤時間をもっとフレキシブルにできそうです。さらに、これはリモートワークとの相性も良さそうです。(なおメールへの返信はポモドーロに含めないということです。著者はメールのやりとりをする時間を決めており、それ以外の割り込みを避けることでポモドーロ実行数を上げる努力をされています。)

週50ポモドーロの実践を目標とすることで、例えば出席すべき会議の数を厳選したり、出勤時間や休憩時間をずらすといった工夫につなげられるかも知れません。"生産性の向上"というと漠然としていますが、"いかにして業務に集中できる時間をつくるか"、という目標に置き換えると、行動を変えやすいでしょう。さらに実績値が数値化できれば、モチベーションアップにもなります。

ポモドーロテクニックの使いどころ

管理職の立場にある人は、ポモドーロ達成数と人事評価の関係に着目されるかも知れません。確かに達成数は能力の指標の一つになりえますが、それを評価基準に組み込むのは避けた方がいいと感じました。本当に集中していなくても、単に25分を区切りとした報告にしてしまえば、見た目上、ポモドーロ数は上げられます。しかしそのような運用に意味はありません。ポモドーロは、あくまでも自己を律するためのテクニックと考えた方がよさそうです。

リモートワークは、この自己を律するという点で、強い意志が必要です。その一つとして、自分の仕事をポモドーロで管理するアプローチは、ありでしょう。オフィスに出勤しようがリモートワークしようが、運用できるポモドーロ数に差がないことがわかれば、リモートワークに対する不安を払拭できます。

リモートワークではない、通常のオフィス環境でも、例えば自分の机の上にポールを立て、その上にポモドールタイマーを設置することで、自分は今集中していることを他者に理解してもらう、というようなアプローチを(チーム内で)認め合う、というような使い方であれば効果を期待できます。もちろん上司の特急指示も遠慮してもらいます。上司にとっても、生産性の向上は割り込みをしないことだ、という意識付けにつながります。

これらはいずれも個人のモチベーションアップにつなげるためのものです。組織としては、このような手法を強制することはしないが、やってみたいという社員がいれば、それを認める、という緩めのアプローチの方が効果的ではないかというのが私の所感です。