日本式 SI のアジア進出についての考察

日本の大手 SIer が中国を中心とするアジアへ進出し、オフショアセンターを設立して数年が経過していますが、興味深い話をいくつも耳にします。

  • 現地の人件費は一部では東京と変わらなくなっている。これは、大型の開発案件をほぼ現地で対応できるようになったという意味でしょう。
  • "逆オフショア" の事例が出ている。日本は不況のため、日本の技術者の人月単価が相対的に安くなってきた。日本での開発案件を中国の会社で受注し、製造を日本の技術者が安く請け負うという構図です。
  • 30代から40代の管理者層が、中国法人にリクルートされている。これはNHKのニュースで実際に見ました。現地の若手技術者に対する指導を行うようです。生活は中国で行うことになりますが、年収は日本と変わらず、権限が大きい分、やりがいもあるというインタビューでした。

これらの話を総合すると、オフショア開発が今後、SIer の標準になるだろうと予想できます。一時期、日本の IT 産業は大手を頂点としたピラミッド構造となっており、底辺部に従事する技術者は 3K と呼ばれているという話がクローズアップされましたが、その問題はそのままに、ピラミッド構造をアジア全体に波及させていくということです。

企業は経済的な合理性で動きますので、現状は「システム開発は大人数で行うしかなく、そうであれば、より安くするためにはプロジェクト管理の徹底と、製造賃金が安価な国で実施する」しかない、ということです。他の業界でみても、車の製造拠点は今やタイであり(日産マーチの逆輸入化が象徴しています)、ソニーの復活も国内工場から海外のEMS(専用の製造工場)に委託することで実現されました。国内で製造する=高品質という神話に頼っては、モノが売れなくなっています。

その大きな流れの中で、いかにして国内に製造部隊を残すか、ということがどんどん難しくなっています。腕に覚えのある技術者は SIer を離れ、SNS 系(現在はゲーム開発が主流になっています)に移られるようです。または B2C サービスを実施している企業も人気があります。8 月は SNS 系企業による、高額の入社一時金支給が話題になりました。スーパープログラマはいつの時代でも大切ですが、その勤め先は企業向けシステム開発ではなくなってきつつある、ということにある種の衝撃を感じます。そして、いわゆる一般的なプログラム開発は(国内では)着実に減っていきます。

これまで IT 業界は、功罪はあれど雇用の受け皿として文系・理系を問わず受け入れてきたという面がありました。しかし今後は、その状況も変わっていきます。この時代において企業向けシステム開発を主体としてきた私たちのような存在はどう再定義されていくのか。これを悲観的に捉えるのではなく、チャンスとして捉える企業しか残れないのではないかという危機感をもっています。