業務アプリケーション開発案件の停滞を打開するポイントは何か

多くの同業他社様で新規開発案件の受注が厳しい状態がここ数年、続いています。私なりに、この状況を振り返ってみました。

  • 本来、再開発の段階にある業務アプリケーションが長引く不況のため、延命利用されている。
  • 基幹系の多くは ERP 導入が終わり、再開発のテーマにならない。
  • ERP 化できない大型業務(金融、保険系)開発はオフショアの活用が進んでおり、国内での開発は減少している。
  • 昨今、伸びている Webサービス、SNS、ゲームといった分野は IT 技術者による内製主体であり、SIer が入る余地は少ない。
  • 中小規模の開発案件は、20年前とほとんど進展がない。いまだにIT化されていない業務は多く存在する。

そのため、開発側の現場では次のような動きが進みました。

  • 技術者が本来チャレンジすべき開発テーマが仕事として出てこないため、業務アプリケーション分野から別の分野への転職が加速している。Webサービス、SNS、ゲーム、組み込みなどが受け皿になっている。
  • その結果、業務アプリケーションに関わる技術者層の保守化に至る。新しい技術分野を学んでも使うところがないため、学習意欲が乏しい。

私たちはこの流れに対して、Wagbyという開発ツールを切り口に、(SIerではなく)エンドユーザ様向けに「小中規模の社内業務アプリケーションを、これまでより安く、早く作る方法がある」と提案してきました。これによって進展がなかった中小規模の案件を開拓しようとしたのです。

ところがこの数年の営業活動の中で、「価格が安く」「開発も容易で」「すぐに使える」という(本来、望まれていたはずの)環境があっても、顧客側はすぐに開発に着手しない場合があることがわかってきました。その理由は次のとおりです。

  • システム化されていない業務(紙ベース、Excelベース)への業務アプリケーション適用は難しい。1990年代にはじまったクライアントサーバシステムから20年余、ここまでシステム化対象から漏れている現場は、現状の(非効率的に見える)業務スタイルに馴れている。システム化とは多くの場合、部門をまたぐ調整が必要であり、そういうことができる(お客様側の)担当者が少ない。
  • 曲がりなりにもシステム化されていた場合、それが10年以上前の技術がベースになっているものであっても、そのシステムの UI に馴れてしまった。現行システムへの追加ならよいが、新規システムとなると UI が変わるということだけで現場が抵抗する。

この二つには共通点があります。それは「馴れたものを変えたくない」という心理です。価格や品質といった表層的な課題をひとつずつ取り除いたあと、最後に残ったもの。現行システムが不具合だらけで業務に支障がある、という状態であれば(新システム移行を)諦めてもらえる?ようですが、そうでなければ最後の最後で抵抗されます。

この壁を超えるために、私たちツールベンダーに何ができるでしょうか。営業面からいえば、キーマンとのパイプを太くして、社内を説得していただくという政治力を駆使することもできるかも知れません。トップの号令は心強い援軍です。最初は抵抗していた人達も、次第に新システムに「馴れる」ことはわかっています。よってこの方法は妥当な選択肢です。

しかしツールベンダーとして真っ正面から乗り越える方法はあるでしょうか。現場の方々がこれなら...と納得していただけるもの。それは「魅力的なUIの提案」ではないか、と考えます。今、お客様にとって業務アプリケーションの再開発に必要なモチベーション、それが UI です。

ここで問題になるのは、美しくデザインされた UI はコストがかかるという事実です。現場が喜ぶことがわかっていても、経営層は「安い UI」を求めてきます。ここで現場に活用してもらうため、UI への投資を理解していただければよいのですが、IT 投資が削減対象となる中で、認めてもらうのは困難です。しかし最大の問題は、どういう UI を欲しているのかは現場も知らないということです。その結果、何度も作り直すハメになり、開発側と険悪なムードになってしまいます。これだ、という UI パターンはどういうものかを提案しなければなりません。

そこで私が気付いたもう一つの視点があります。それは Facebook です。この UI は決してデザイン的にコテコテしているわけではありません。ボタンは少なく、アイコンとリンクで構成された、シンプルな画面です。しかし多くの情報がバックグラウンドで更新されるというアプローチ、そして一つの画面でさまざまな処理を一通り完了できるということが一つのポイントではないかと思います。

これまでの業務アプリケーションはイベントドリブン - つまりユーザーの操作に応じて画面描画が行われてきました。登録、更新、検索画面などは常に再描画されていました。しかし次世代の業務アプリケーションは一つの画面上で操作が完結し、かつユーザーが操作しなくても随時、画面上の業務データが自動的に書き変わっていくイメージです。しかも Web ベースで端末を選ばず、操作する場所も選ばないことがポイントです。(PCではなくスマートフォンやタブレットで動作することが求められます。)

このような UI を実現するためのキーとなる技術が HTML 5 です。この 2 〜 3 年で、ゲーム分野などで HTML 5 を駆使する方法を学んだ技術者が、業務アプリケーション分野に舞い戻ってくることになるのではないか。これも一つの仮説です。