学生への講義「経営組織論と情報メディアと創造性(共通)2011年版」事前質問への回答

今年も本講義に登壇させていただくことになりました。ありがとうございます。明日、よろしくお願いします。

学生からいただく事前の質問は毎年、鋭い切り込みで、自分を見つめ直すよい機会です。(なお、過去のブログに書いたことも含めた類似の質問はスキップ、または、まとめて回答していますので、ご容赦ください。)

沖縄の経済が自立するためにIT企業ができること、または可能性を聞かせて下さい。

一つは世界を相手に自社製品・ソリューションを提供する企業が登場すること。もう一つは県内企業の IT 化を支援して、沖縄の産業界全体の競争力強化に貢献すること。いずれも大切です。

去年の琉球大学での講演からジャスミンソフトが変わったところを教えてください。

今年最大の嬉しいニュースは、「Wagbyユーザー会」が発足したことです!
http://wagby.com/users/index.html

設立から11年かかりましたが、ようやくこのような会を企画できるようになりました。

昨年の事前質問の回答の中で「社長として苦労していることは何ですか?」の問いに対し、「人徳を高めることです。」と回答をなさっていますが、人徳を高めるためには何が大切で何をすべきだと考えていらっしゃいますか?また、ご自身で人徳を高めるために実際に何かやっていることがございましたら教えていただけると幸いです。

毎日、手抜きせずに生きようと心がけています。簡単ではないと痛感しています。

OISTについて質問です。短絡的に考えてみたとき、OISTには世界中から優秀な学生・教員が集まり研究などを行いますが、外部からきた人間を受け入れたがらない節のある県民にOISTは浸透できるのか疑問に思います。また、OISTについて学生(中高大)により興味を持って貰うにはどのような働きかけが必要だと思いますか?それをきっかけに沖縄の学力も上がれば良いなと私は思っているのですが。

私は OIST に期待しています。こちらのブログに書きました。
http://d.hatena.ne.jp/ynie/20111124/1322136398

"外部から人間を受け入れたがらない県民性" は、一部ではないでしょうか。それはどこの県、国、民族にもいます。しかし歴史的にみれば、沖縄は外部とのパワーバランスをよくみて、うまい舵取りをしながら生き残ってきた賢い小国だと思っています。

HPの「ご挨拶」に、プログラムの完全な自動化ではなく、一部の作業をサポートすることによって顧客のプロジェクト成功に役立ちたいとありました。他の場面で「人の創造する力」を尊重していることは、具体的にどんなことがありますか?

他社と差別化できる、その組織独自の業務ノウハウをプログラミングするような部分などです。他社でもやっていることは汎用化されます。広く浸透する代わりに価格は安くなります。そこは勝負どころではありません。

起業するまでに、どのような過程を踏んで今の会社に創ることができたのでしょうか?特に、どうやって人を巻き込んでいったのか、どうのようにして共感を得て、事業を達成していったのかが知りたいです。

コツのようなものはないと思います。ひたすら自分の考えを発信することです。そのうち、同じような考えをもった人が集まります。

沖縄の学生と本土の学生は比べて、有利での何で、不利での何です。

有利というか、私が評価しているのは素直なところ、ごまかさないところ。不利というか、足りないなと思っているのは現状よりもっと上を目指そうという向上心のようなものです。

今は10年前より沖縄の平均収入が更に低くなりました、卒業後、どこで就業するのはもっと良いです。沖縄の現状について何の感想がありますが。

全国、もっというと先進国はみな、同じ状況です。若者の就職率が悪化しています。回答にはなっていないと思いますが、世界中の先進国が同じように苦しんでいるのは何故か、は一つのヒントになります。講義の中でお伝えしたいと思います。

今後の沖縄において、IT業界がどのように発展していくのか、またどのように発展させていきたいのかお聞かせ下さい。なかなか観光以外の主要な産業が沖縄には確立されていないと感じていますが、IT業界の方たちはどのように沖縄を見ていますか?

これは各社の社長それぞれで異なる意見を持っていらっしゃいます。沖縄県としての統一見解としては、これまでの県の政策をみれば方向性がわかります。基本的には "技術力を高め、人件費を安くすることで競争力がつく。これで本土から仕事を受注しよう。" です。しかしその政策には一長一短があります。個人的には限界にきており、次のブレークスルーが求められていると感じています。

私は贄さんと同じで、沖縄が大好きな地元っこです。社会人の諸先輩方に、「一度は沖縄を出て仕事してみたほうがいいよ」とよく言われます。全国相手の仕事をされている贄さんはどう思いますか?

沖縄が大好きなことと、沖縄にずっと住み続けるのは、必ずしも同じではありません。ですので私は沖縄を出て、さまざまな経験をする、ということに賛成します。

私はパソコンに苦手意識があります。インターネットやoffice等の基本的な操作はできますが、IT技術などの知識は全くありません。贄さんの会社では、入社後に技術を身に着ける人も多くいらっしゃるのでしょうか?

当社では毎日、新しい技術の習得に余念がありません。この技術を学べば10年やっていける... というほど、ITの世界は安定していません。もしIT業界にいらっしゃるなら、現役時代は毎日、新技術の勉強をしていくという気持ちをもってください。

良則さんの具体的なお仕事はなんですか。

会社の進むべきビジョンを示し、リーダーシップを発揮することです。

何歳で退職しますか。

まだ、考えたことがありません。まわりがおべんちゃらを使う人ばかりになったら引退すべき、と聞いたことがあります。

今後の将来の目標、夢はなんですか。

Wagby という自社製品を世界中で使ってもらうことです。

最近の沖縄県の就職率はとても低いといわれています。この現状の中で、大学生のうちにやっておいた方がいいことが何かあれば教えてください。また、おススメの本が何冊かあれば教えてください。

「これをやっておけば就職できる」というものが、私自身もわかっていません。ただ厳しい状況の中で、逆に皆さんは当時の私たちよりも遥かに高い意識で社会と関わろうとしていると感じており、就職活動という経験そのものが(結果的にどこに就職するかというよりも)皆さんの力を高めているのは間違いありません。

最近、お薦めの本は「ちきりん」さんです。
http://www.amazon.co.jp/dp/4781605176
http://www.amazon.co.jp/dp/4478017034

この二冊は大きなヒントになるのではないかな、と思います。

贄社長さんのお返事の中で、「13歳の時、IT 企業業界は、素晴らしい世界だと圧倒され、憧れました。」と お答していらっしゃるのを読ませて頂きました。すばらしい!すごい!と思います。(私は、13歳の時、「クラブ活動」や「遊び」や「時々学校の勉強」の毎日でした。)贄社長さんご自身を奮い立たせてきた「座右の銘」が、おありでしたら、是非教えて下さい。できれば、ご説明も頂きたいです。

見方を変えれば、単純な性格なんです。いろいろなものに感動し、憧れます。たまたまパソコンが自分にとって強烈だったのです。座右の銘といっていいのかわかりませんが「継続は、力なり」は真実だと思っています。(諦めがわるい性格です。)

去年、おそらく情報メディアと創造性の講義で一度お話をお伺いしたと思います。その時に大学向けのソフト開発を行うというお話を伺いました。出席をとったり成績管理のできるそのソフトは今、大学等でどれくらい使われていますか?

よく覚えていますね、ありがとう!今年、全国の学校に営業活動を行いました。あいにくと現時点での本採用は少ないのですが、製品のコンセプトには賛同してもらうことが多く、この分野は継続して対応していこうとしています。

沖縄でのIT企業立ち上げで、苦労したことや大変だったことは何ですか?

沖縄で立ち上げたのはスタッフに恵まれたという意味で良かったと思っています。一方で、当社の場合は最初から全国展開を視野に入れていたので、東京を中心とする営業活動の比重が増えています。私自身の生活は今や東京中心です。

また、IT事業が沖縄県では積極的に誘致されていますが、その際の競争や、優位性を出すための差別化などはどのように行っていますか?

基本はどこも同じで「高い技術力」と「安い賃金」が競争力の源泉です。しかし、さらに上を目指そうと思ったら、これだけでは十分ではありません。ここで知恵を絞ったところだけが生き残ります。受け身のままではいけません。

前回の質問の回答から、悔いのない学生生活を過ごされたそうですが、どんなことをされたのかと贄さんが求める人材や働きたいと思う人について詳しく伺いたいです。

サークル活動で部長をやっており、リーダーシップを経験したことがよかったです。なぜリーダーシップが求められているのか、面白い考察がこのブログにあります。
http://d.hatena.ne.jp/Chikirin/20110927

燃え尽きないことが大事だとおっしゃっていましたが、贄さんのモチベーションの維持の方法などがあればお伺いしたいです。

回答になるのかどうかわかりませんが、だめだと思ったら正直に言って、助けてもらっています。どれだけ助けられていることか...

ITとはやはり理系のひとが有利ですか。ITについて深く知識がない人でも興味があれば就職しても構わないですか。

理系にこだわらず、興味があることが大切なのでもちろんOKです。ただ、必死で勉強するという気持ちを忘れずに。やればやるほど面白いと気付いた人には最高の職種です。

贄社長のブログでプログラミングを独学で勉強したとあり、それを読んで私は努力をして諦めなければ夢やビジョンは達成していくのだと思いました。次回の講義楽しみにしています。

はい、学校の勉強よりも楽しかったです。

私はIT化が進むことで人件費削減も進むと思います。企業には良いことなのかもしれませんが、失業者が必ず出ると思います。ジャスミンソフト社の会社案内を見て、人件費削減のためのサービスを提供するとあったので、どう思われているのか気になります。

削減される仕事とは、主にルーチンワークのことです。人間の本来するべき仕事は、創造性を発揮する類いのものです。文章を書く、デザインする、何かを組み合わせる、... まだまだ、私たちにはやるべきことがたくさんありますので、ルーチンワークはとっとと自動化して、はやくそういう分野に人類の能力を集中させていきましょう。

沖縄県におけるIT産業の課題についてあげていましたが、沖縄の特性を活かした解決策のうち、どれか1つに最も力を入れるとしたら何に力を入れたいですか?また、なぜそれに最も力を入れたいのか、具体的な考えと理由を教えてください。

以前は、スーパープログラマーを輩出することが大切と考えていました。しかし現在は少し変わっており、起業家を増やすのが先ではないかと思っています。よい起業家のまわりに、よいプログラマーも集まるという仮説です。

琉球大学のOBということが分かりました。同じ大学の先輩として、聞きたいのですが、私は3年生です。今からでも遅くないことで、大学生が今のうちにやっておいたほうがいいことは何だと思いますか。

社会の問題に対して自分の意見をまとめ、なぜ、そう考えるに至ったかを人に説明できるようにするという活動は自分を鍛えてくれます。沖縄の基地問題、年金、TPP、消費税、どれをとっても人によって意見が別れます。いろいろな人の意見を聞いて自分の考えをまとめるという訓練は、就職活動にも大いに役立つと思います。

ブログに“人脈は企業が喉から手が出るほど欲しい”と書かれていましたが、贄さんは人脈を広げるためにどのような行動をしていますか?また、どのようなことを意識して初対面の人などに接するようにしていますか?

今はネットの時代なので、この人は面白い、この人の考え方に共鳴する、と感じることが増えました。もし講演会などがあったときは積極的に参加して、話をするようにしています。

これから社会に出ていく大学生に求められる能力はなんだと思いますか?

難しいです。時代によって求められる能力が変わるというのが納得できずにいます。いつの時代でも基本は同じではないかと。それは「現実を直視して、自分なりにどう生き抜くかを考える力」とでもいいましょうか。抽象的でごめんなさい。

個人的にITにはあまり関心がなく専門的な質問は考えきれないのですが、FacebookgoogleドキュメントなどのSNS,cloudの上手い使い方などありましたら教えてください。

難しいです。私もまだまだ達人ではないので...。以前どこかで「Facebook を楽しんでいる人はリア充」という意見を聞いたことがあって、なるほどと思いました。ツールの使い方だけではない、ということですね。

昨年の講義での質問に対して全て回答されておりすばらしいと思いました。その中で、気になる回答への質問です。『実をいうと県外の大学に行きたかったのですが、経済的事情で、かないませんでした。しかし結果的には琉球大学で最高の学生生活を過ごすことができました。』この中の、最高の学生生活とは具体的にどんなことですか?

サークル活動で仲間と出会ったことです。今でもそのつながりに支えられています。妻とも出会いましたし、当社にはそのときの私の後輩が3名もいます。

システムのことは、あまり知らないが自分のイメージシステムによる効率化は日本的感性、細かなサービスで差別化して中国とか巨大市場に売り込んでいけば、潜在的なニーズはあると思うので成長産業だと思います。

素晴らしい意見です。日本的感性のニーズはとても高いと思います。クオリティの高いアニメやゲームなどは、まさに典型。他の業種でもすべて、この感性が求められています。

起業資金で沖縄振興開発金融公庫に出資したもらったとありますが、沖縄振興開発金融公庫はどんなベンチャー企業にでも、出資してくれるものなのでしょうか。やはりIT系だと出資してもらいやすい、などの方向はありますか。

いえ、可能性があるところには出資されていらっしゃいます。是非ともアタックを!

思いしろそうというのが素直な意見です。また、ジャスミンという名前の由来が、さんぴん茶からというのも、素敵です。人生にとって自分の信念はなんですか?プライベートと仕事をしているときの自分はどう違いますか?教えてほしいです。お会いできるのを楽しみにしています。

信念は "人生の達人" になることです。この言葉は学生のころ、マスターキートンという漫画で始めて知りました。成功、失敗ではなく、達人です。

ちなみにプライベートと仕事の自分の違いはとても曖昧です。デート中でも10分だけ仕事モードに切り替えるなど、普通です。そしてインターネットの時代、どこでも仕事できるようになりました。ありがたい。

前回の質疑応答等を読んで感じたのですが、贄さんは非常に沖縄を推していらっしゃると感じました。それは沖縄県民としては幸せなことではありますが、「沖縄に良い人材がたくさんいる」などの沖縄のメリットだけでなく、沖縄だからこそのデメリットなどお考えでしたらお聞きしたいです。全てのものにはメリットとデメリットがあると考えているもので…。

沖縄のデメリットの一つは、外に出ない、または理由もなく外を怖がる閉鎖的な人も少なくないということです。すべては人です。県民のレベルが上がることが、沖縄の自立、発展には欠かせません。誰かが沖縄を良くしてくれる... と受け身であれば、いつまでたっても変わりません。

下手に技術があるよりも、技術は知らなくていいからコミュニケーション力の高い学生の方が企業では使いやすい、という話を聞いたことがあるのですが、ITに関してはどうなのでしょうか?

その企業のビジネスモデルによります。各企業での面接時に教えていただけると思います。しかし個人的には「技術は知らなくていい」IT 企業が存在するというのは不思議です。

沖縄のIT企業の問題点の話になると、「受託開発」や「下請け」といった言葉をよく聞くのですが、受託開発や下請けの場合は具体的にどのような流れで開発を行うのでしょうか? また、どの部分に問題があるのでしょうか?

お客様の顔が見えるのであれば、受注形態に関わらずやりがいがあります。もちろん問題もたくさんあるのですが、IT 業界に限らず、すべての業界で何らかの問題は抱えています。そしてビジネスチャンスは、問題解決にあります。

私は将来起業する予定があるのですが、ITとはあまり関係のない食品の会社をつくろうと思っています。このような分野でもこれからはITと関わる必要があると考えていますか。また、起業する際にもっとも大切なものは何ですか。

どのような業種・業態であっても IT の活用は必要不可欠です。IT を "使う" という視点で積極的に関わってください。起業するのでしたら、何がなんでもやりとげるという気持ちと、儲かれば何をやってもいいという誘惑に勝つ心を持ってください。是非、いっしょに成功しましょう。

活動の中で、苦労したことや、これから起業しようとしている学生に注意しておきたいことなどを、実体験を交えた内容で教えてほしいです。

起業したときは32歳でしたが、東京ではどんどんIT企業が上場するのを見て、すごいと思う反面、本当か?という気持ちもありました。あとでわかったことですが、結構無理していたところもありました。そして当社はといえば、なかなか波に乗ることができず、ひたすら地道な開発と、一件ずつお客様を開拓するという下積みを続けています。自分たちの提案する世界が革新的であるほどに、時間がかかるのだと納得するようにしています。皆さんには、短期的成功ではなく、社会に貢献するという長期的視点で仕事を捉えてほしいと思います。

ホームページ上でWagbyという製品が開発され、実際に沖縄工業専門学校で導入されているという風に書いてありましたが、その他の学校からも実際に依頼などは来ていますか。また、こういった製品はとても競争がすごいというイメージを持っているのですが、製品の類似品なんかが出回ることとかはないんですか?

依頼はありますが、思ったほど多くはないというのが実感です。知っていただくための営業活動がまだまだかかります。一方、競合は必ず存在します。それは市場があるということなので、むしろ望ましいことです。

県経済は3Kに依存していて、県内で今注力を注いでいる分野が観光産業です。現在様々な施策を県全体で取り組んでいます。観光産業を他産業を巻き込みながら一体になっていくことが重要だと思います。IT業界で活躍されている贄さんにとって、観光産業でのITの位置づけはどのようなものと捉えていらっしゃるのでしょうか。

観光産業はカジノをはじめ、大きなハードを求めているように見えますが、いますぐできる目線からの取り組みで、IT を活かせる分野は大いに残っていると感じています。もっと一緒になって仕掛けることができれば...と思います。

学生自体を沖縄の琉球大学で過ごしたそうですが、沖縄で過ごした事でITベンチャー企業を興す時に役に立った事や沖縄で育まれた独特の価値観などは何かありますか。今自分達は沖縄にいるのですが、いまやっていた方がいいものはありますか。

"地方から中央をみる" という視点が常に自分の中心にあります。地方と中央のどちらにもメリット、デメリットがありますが、単に羨むのではなく、交流を通していくことがいいですね。

あとこれは私の反省なのですが、せっかく沖縄で育ったにも関わらず、地元文化の芸が何もできません。三線でも空手でも、ネタとしてもっておけばよかったかな、と思います。もちろん今から学んでも遅くないと思いますが、まだ時間の余裕が...(言い訳)

私はプログラミングに興味はありますが、どこに興味があるのかが分からないでいます。贄さんはどうしてプログラミングが好きなのでしょうか。

目の前のコンピュータが自分の思った通りに動いた、という小さな成功体験を積み重ねていってください。テキストを読むとか試験対策をするとかではなく、実際に動かしてみることがお薦めです。動いたプログラムを少しずつ修正し、ここを変えたらどうなるんだろうと実験を繰り返すと理解が早まって好きになっていきます。いまだとロボットを動かすなどもいいかなと思います。