日本のソーシャルゲームが儲かっている本当の理由は、納得できる意見でした。これに触発されて、私もかねて感じていたことをまとめてみます。
数年前から、SIer(独立系の受託開発会社および、親会社から独立した情報システム開発を担う子会社を含む)の第一線で活躍されていた技術者が SNS・ゲーム開発系へ移籍する傾向が続いています。今では若手プログラマーは最初から SIer への就職を検討していない人もいます。また IT ベンチャー系も業務アプリケーションではなくSNS・ゲームで名を馳せるのがブームになっています。
この原因について、いろいろ語られています。私が見聞した意見はおおむね次のようなものです。
- SIer は古い技術で面白みがない。手続きも面倒。
- 業務アプリケーションで主流の Java(.NET も?)は、最先端の技術者には敬遠されてしまう。
- デスマーチや 3K など、受託開発分野に悪いイメージがついてしまった。
- 多重下請け構造やオフショアなどの台頭で、お客様と直接、接する機会がない現場ではモチベーションが上がらない。
いずれも妥当な理由と思いますが、しかし本質ではないと考えています。新しい技術に常に取り組んでいる SIer もありますし、Java 自体もまだまだ進化の途上にあります。デスマや多重下請けの問題は見落とせませんが、これはSNS・ゲーム業界に限らず、多かれ少なかれ存在する課題です。
最大の違いはビジネスがスケールするかどうか
では私が本質的な違いと考えているものは何か。それはずばり、給与待遇です。SNS・ゲーム開発分野では "当たれば" という前提があるものの、若くして高い給与を受け取れる可能性があります。ゴールドラッシュの雰囲気が今のSNS・ゲーム開発業界にはあります。それが実現できたのは、冒頭のブログ記事にあった「課金」の仕組みに支えられていることは言うまでもありません。さらに深堀りすれば、一つのソフトウェアがスケールする可能性があるということです。
残念ながら SIer にはそのような可能性が見当たりません。SIer はお客様のシステムの受託開発を行うため、いただけるお金は「人月単価 x 工数」で決まります。スケール性は工数の部分が担いますが、さまざまな理由でそうなっていません。
- 一括請負契約:お客様が最初に予算を組み、この金額の範囲ですべてやってほしいという "丸投げ" の構図。ほとんどの場合、契約後に仕様が膨らみ、プロジェクトが赤字になることが多い。
- 保守で稼ぐ:大手 SIer は一時期、数億円規模の案件を "1円" で受注し、二次開発以降の保守でビジネスを行った。このモデルは長期間に渡る安定収益に貢献するようにみえるが、スケールしないという問題がある。
これは日本における B2B では "最初は損をしてでも、長期間のお付き合いを重視する" という思想が土台にあることも影響している可能性があります。受託開発はスケールしにくいのです。それでも開発案件が山のようにあった10年以上前は、人月単価を上げることで何とか解消していました。これがオフショア開発時代になって、給与アップが事実上不可能な消耗戦に突入しています。これが現場の不満につながっていることは言うまでもありません。
スケールする受託開発を提案できるかどうかがポイントになる
「IT 業界の魅力を高めよう」という運動もあちこちで展開されていますが(沖縄でもやっており、私もその片棒を担いでいます)、SNS・ゲーム業界も IT 業界の一部であり、そこはしっかりと人が集まっています。慌てているのは B2B を主体とする SIer ですが、スケールしない以上、魅力ある人材が入りたいと思うことは難しいという状況は続くと思います。
「パッケージ開発」で成功することがスケール性を高める方法と知られていますが、実際には取り組むところは多くありません。リスクが高い(売れなければ開発コストを回収できない)ためです。よってどの会社でも手がけられるテーマではありません。
それでも SIer は真剣に「スケールする受託開発の仕組み」を考えないといけません。それは従来のビジネスモデルと根本的に変わるものになるでしょう。一つのヒントは Amazon 社の AWS にみられる従量制の課金モデルです。圧倒的な低コストで開発し、かつ従量制の枠組みをつくれるかどうか。どの会社も模索中のところですが、ここが勝負所になるでしょう。