日本のSIerの特殊性を進化させることで、海外展開へのチャンスにつなげる

2012年8月号の日経SYSTEMS特集記事「ここがヘンだよ 日本のシステム開発」を読んで、当社のスタッフが次のような感想を述べました。

"日本のSIerの位置づけは特殊だろう。欧米のシステム開発では、ステークホルダーに利用部門が入っていない。つまり現場の意見によって仕様の揺り戻しが起こりにくい。日本は利用部門の発言力が大きい。利用部門は完成版を触ってはじめて気付いたことを指摘するが、これが仕様不備として扱われることで予算超過、納期遅延が構造的に起こりやすい。SIerはこのようなステークホルダー間の調整が大きな仕事になっているが、欧米ではそもそも、そういう調整業務が生じない。"

その通りだと思います。日本で現場の意見を重視するのは、業務フローが定式化されておらず、さまざまなケースが存在するためという側面もあるでしょう。平たくいえば「お客様の都合に合わせて、何でもやらせていただきます。」ということです。よって、業務のIT化という段階で、情報システム部(または外部のSE)が理解できない例外パターンが頻出します。欧米ではまずビジネスモデルを定め、それにそぐわないルールは認めないのでしょう。そして、お客様もそういうものだと割り切っているのだろうと想像します。つまり欧米型とは現場の意見を聞かないのではなく、そもそも聞く必要がないという構造になっているということです。

つきつめていけば、日本のシステム開発を複雑にしている要因は、お客様毎に異なる要望をすべて受け入れようとした結果である、という仮説に行き当たります。これは営業面でみればアピールしやすいですが、システムは高コストにならざるを得ません。

そして多くの企業では、「営業面の融通を利かせたまま、他社よりコストも安く、品質や納期も優れている」方法はないかと模索しています。とはいえ簡単に見つかるわけもないので、「システムではなく(特定の)人に頼り続ける」とともに「総人件費を抑えることで価格競争力を達成する」ことにならざるを得ません。かといって業務フローの見直しは、一部顧客に対してこれまでの利便性を損なう可能性があるため、営業部隊は反対の声を上げるでしょう。

この状況でエンタープライズシステムを作ろうとすれば、"SIer は業務に詳しいから、丸投げで自社の業務フローをそのままIT化できるはず。ただし業務フローの改善は、社内(お客様)の抵抗があるため実現しにくい。よって例外事項も含めて対応し、現場が使いやすい(さまざまな例外処理も取り込んだ)システムを開発してほしい。" となります。これでは、システムが完成したとしても複雑で、変更が難しく、保守コストも膨大になるのは必定です。

業務フローを変えずにIT化を行ってきたこと。これが日本のSIerを特殊化した遠因ではないかということです。

しかし今の時代、過去のしがらみを捨てたビジネスモデルの再設計を目指す企業も登場しています。「自社のビジネスルールを決め、それに応じられないお客様との取引はしない。」と割り切る企業は、お客様から「融通が利かない」と難色を示される一方で「他社よりコストが安い」という評価も得られるはずです。このような企業はまだ少数派ですが、ベンチャー企業を中心にさまざまな業種・業態で台風の目となります。そこで成功した企業はおおむね、高い利益率を誇っているという印象です。また、この方向性を指向する企業は自社エンタープライズシステム開発の内製化に取り組んでいるように見えます。

このように二極化するエンタープライズシステム開発ですが、日本全体が衰退期に入ろうとする中で、業務フローの見直しは避けられないという状況が迫っています。クラウドだ、スマートフォンだ、ビッグデータだ、というシステム基盤の視点ではなく、ユーザ視点で「新しいビジネスモデルを一緒に考え抜く」SIer が必要です。

今後、お客様から "SIer のこれまでの知見をもとに、一緒になって新しいビジネスモデルを構築したい。これを支えるIT基盤が必要だが、そもそも仕様が固まらない。よって仕様変更を大前提とした開発を行ってほしい。" というパートナー関係を求められてくる、ということです。この実現のためには SIer はこれまで培った業務知識に加え、超高速開発を支える技術基盤を持つことが求められます。おそらくオフショア開発体制では実現できません。何層にも渡る指示系統ではなく、お客様の側で直接、かつ迅速にビジネスモデル設計とシステム開発を並行して行える技術者集団の出番です。

一例をあげてみます。お客様とSIerの間で「毎週一回リリース」という契約を行うのです。かえって現場が混乱するという意見もあるでしょうが、現場を巻き込むことに成功すれば、大きな盛り上がりにつながることは想像に難くありません。そしてシステムの成長とともに売上が伸びるという体験を通して、会社組織そのものが活性化することを経営陣も実感できるはずです。

私はこのような取り組みの先に、特殊と揶揄されがちな日本の SIer の未来があると思っています。丸投げ式の受注関係でもなく、かといって欧米のようなドライなシステム開発でもない。開発と運用が一体となって、お客様と一緒にビジネスモデルを組み立てていくパートナーとしてのSIer。それはSIerのビジネスモデルが変わることも意味します。二次請け、三次請けといった開発者派遣のビジネスモデルは縮小することでしょう。しかし一次請けとして残ったSIerは超高速開発技術に裏打ちされた精鋭集団であり、お客様から頼られるパートナーです。会社の規模ではなく、実績と技術力が問われます。このようなSIerへと進化した暁には、日本のノウハウを海外に展開することも夢ではないと思います。