エントリーシートに何を込めるか

先日、母校である琉球大学にてベンチャー企業に関するお話をする機会がありました。毎回、お声掛けいただいている大角教授に、改めて感謝申し上げます。

講義後のアンケートを読むのが楽しみなのですが、今回はさらに粋な計らいで、当社への入社を志望するという学生からの「エントリーシート」を送っていただきました。ひとつひとつがユニークで想いが伝わり、嬉しくなりました。せっかくの機会なので、私なりの「エントリーシート」の読み方を紹介しようと思います。わずか数百文字でその人の採用基準を決めるのはとても難しいことは承知しています。以下は「私は」どこに主眼を置いて読んだのか、ということであり、他の企業の採用担当者はまた、別の視点を持っていらっしゃいます。

企業には成長のステージがある

同じ「ジャスミンソフト」であっても、企業の成長ステージによって求める人材が変わるということを知ってください。技術者が必要なのか、経理が必要なのか、営業が必要なのか、海外進出のためのグローバル人材が必要なのかは、毎年異なる、ということです。

つまり例え貴方が将来、活躍できる優秀な技術者であっても採用されなかったとき、それは貴方の技術力が足りない(またはジャスミンソフトに自分の力量を知ってもらえなかった)ということと同義ではない、ということです。

植物を育てることに似ているかも知れません。水や太陽が必要な時期に、土作りのための肥料をまいても効果がないでしょう。繰り返しますが、採用されなかったとしても、貴方のせいではない、という気持ちをもってください。企業側でも「今」必要な人材は常に変化しています。

このあたりは公開されている企業のWebサイトだけでは読み取りづらいので、社長を含む経営陣にアタックするか、知り合い(先輩など)にヒアリングするといった下準備が必要になるかも知れません。私はそのような工作はアリだと考えます。それは「マメさ」であり「気配り」につながる活動です。

自分を使ってください、ではなく、自分が会社に貢献できることを知りたい

次に認識すべき事実は、同年代の学生が、いずれ劣らず真剣に自己アピールしているということです。よって次のような記載は、自らにとっては魂を込めた特別なものであっても、他の人もまた、同じように行っているのだと自覚するとよいでしょう。

  • 私は気合い(根性、リーダー力、企画力、その他...)があり、必ず役に立ちます。
  • 私にはプログラミングのスキル(英語のスキル、その他...)があり、必ず役に立ちます。
  • 私は御社の社風(会社の考え方、会社の製品)に惹かれました。その発展のお役に立ちたいです。

では、これらの文章とは異なる「差別化」の表現とは何か。それは具体的な数字を含めることです。以下に例を挙げました。

  • 部活(またはその他のコミュニティ)のリーダーとして、○○大会でこれまでの最高記録だった○位を超え、○位を得た。そのために○○のような施策を立案し、何ヶ月、実践した。大会後は○○パーセントの部員が満足だと表明した。
  • 自らのスキルで全国○○大会で入賞した。表彰式で知り合った全国のハイレベルの方々○○名と現在も交流が続いている。
  • アルバイトで、自らの提案が採用され、○○ヶ月で売上を○○円アップさせることに貢献し、○○という社内表彰をいただいた。
  • 私は大学卒業までのあと○○ヶ月で、○○資格を取得する。そのために今、○○を実践中であり、予定の○○%まで達成している。この力で、御社が今後、進めようとしている○○という分野の先頭に立って活躍する。

具体的な表現とは、読み手に対して「退路を断ち、自らを追い込むことで成果を出す」という印象を与えます。これによって雇ってもらうではなく、自らの力をその会社の成長に投資する、という逆転の立場をつくります。

そのようなことが書けるのは、ほんの一握りの人材で、私には無理... と感じられる人もいるでしょう。しかし実際に社会人になったとき、そのような人材がさまざまな会社にいて、切磋琢磨していることがすぐにわかります。競争とは、とても大変なことなのです。ちなみに当社の例でいえばWagbyのライバル製品は市場にたくさんあって、当社より優れたところを皆、お持ちです。その中で製品を鍛えるためにプログラムを改良するということは、生半可な努力ではありません。当社がどれだけがんばっても、他社がさらにその一歩先を実現すれば、競争力は「なくなる」のです。私たち(を含むベンチャー企業とは)そういう激烈な生存環境で、一緒にやっていく人材を探しているわけです。

常に自分の実力の「上」に目線を向けているか

もちろん、ごく一部に高い能力をもった人はいるでしょうが、どの企業もそういう人材は希有であることは、わかっています。よって学生には現在の能力ではなく、伸びしろ(将来の成長の幅)を注視します。私自身は、伸びしろとは「自分は今、このくらいだが、より上のここを目指しており、そのために具体的にどのような努力を日々、着実に、実践しているか」で判断しています。

漢字のミスには注意

最後のアドバイスですが、誤字脱字は本当に気をつけてください。優劣付け難い二人のうちの一人を採るという局面で、私は誤字脱字の有無で決定します。たったこれだけで採用を決めるなんて、ではありません。社会に出て、お客様に提案する企画書の文章に誤字脱字が一つあっただけで、不採用になるという世界を私たちは経験しています。それを大したことがないと考える人とは、価値観が違うので一緒に仕事ができないということです。グローバル時代になれば、英単語のミスも同様に命取りです。

起業とほとんど変わらない

私がエントリーシートに求めていることが、「自分で起業することと大差ないほど無茶な?こと」だと感じた方は、鋭いです。私は先日の大学の講義で「起業しても就職しても、人として生きることは、人格を磨くということ。手段はさまざまだが、皆、同じ山の高みをめざしている」と話しました。学生のうちにその事実に気付いて自分に覚悟をもつ人もいれば、いくつになっても自分の仕事は退屈で不遇だと思い続ける人もいるのが現代社会です。エントリーシートは厳しい側面もありますが、成熟した先進国社会においては早めに自らの覚悟を決めるという、きっかけにつながっているのかも知れません。

今回の講義と、エントリーシートの記述体験を通して、皆さんの中に何かの火がつけば、こんなに嬉しいことはありません。このような時代だからこそ、一緒になって厳しさを乗り越えていく仲間が必要とされています。そのつもりで自らが活躍できる場を探してください。卒業後は皆さんが大いに活躍され、またできれば当社とも何らかの関わりが持てるようになることを、心から楽しみにしています。