新聞記事「県のベンチャー投資 成果上がらず」から考えたい、プレイヤー視点での支援体制

2012年12月26日沖縄タイムス朝刊7面(経済)に、興味深い記事が掲載されていました。以下、一部を引用します。

県のベンチャー投資 成果上がらず 企業育成 体制に課題


(沖縄)県が過去に実施した投資2事業で出資を受けた20社のうち9社が倒産や民事再生、M&Aとなり、本来の企業育成効果が得られていないことが県議会11月定例会で明らかになった。(中略)専門家は、公的投資を軌道に乗せるには「専門的人材をほかで確保するなど、VCが不足している知識やノウハウを補う必要がある」と指摘している。

記事には詳細な投資金額や関係者のコメントも掲載されていますが、ここでは割愛します。

当社自身は記事中にある投資は受けていませんが、2004年に沖縄振興開発金融公庫からの出資を受け入れています。それから8年が経過しようとしていますが、まだ大きな成果を上げていませんので、現時点では成功事例としてカウントされないでしょう。投資から10年となる2014年10月まで、あと1年半。それまでにもう一段階、飛躍したいと願っていますが… ここでは当社の事情とは別に、ベンチャー投資についてプレイヤーとしての立場から、のぞましい支援体制についてコメントしたいと思います。

「長期的な視点で育成する大切さ」を具体的に捉えてみる

記事では県内で投資事業を運営していらっしゃる方のコメントとして「長期的な視点で育成する大切さ」が重要であるとまとめられています。総論では良しとして、それが具体的に何を指すのかがポイントです。

そもそもベンチャー企業は「他社がもっていない何かを自ら創りだし、それが当たれば成功する」という特色をもっています。つくることも大変ですが、実際には販売先(市場)そのものがないということも珍しくなく、市場開拓という使命まで背負っています。経験上、市場開拓は数百万円程度の金額でできるものではありません。1社が瞬間的に目立っても、持続しなければそこで終了です。

ベンチャー企業を中・大企業へと育成するための第一ステップは最初に市場に投入した製品が売れるかどうか、です。にもかかわらず、ほとんどの場合、ベンチャー企業へ出資されたお金は、製品開発に投入されます。それだけでは足りず、創業者が借金を抱えてようやく第一号製品が出来上がることも珍しくありません。そこから市場開拓するためのお金(余力)は残っていないのです。ここで第二、第三の資金投下が欠かせないのですが、それは出資する側からすると難しいことも理解しています。

ではどうすればいいのか。一つの案は、県や市町村が第一号ユーザーになることです。ベンチャー企業の製品を購入することで次の運転資金が入り、かつ実績にもつながります。営業展開にも、はずみがつくでしょう。つまり投資するときは、その製品が完成したときの第一号ユーザーまで想定して投資することが望ましいということです。

しかし使いもしない製品を購入しても仕方ありません。税金の無駄遣いをしてでもベンチャー企業を守れ、という意図はありません。

私が考える「長期的な視点で育成」とは、投資するという入り口についてのみならず、投資先と地元(県や市町村)がその製品を購入し、自分たちで活用するという出口まで見つけることができるのか、ということです。できあがった製品を使うという気持ちがなければ、そもそも投資対象とすべきではないかも知れない、というニュアンスを含みます。

もしこの新聞記事を読まれた関係者が、ベンチャーキャピタルの強化が必要だから専門家を育成して…と考えられるのであれば、ここでの専門家は高度な知識や経験ではなく、泥臭い営業を支援できる情熱を持った方であることを伝えたいと思います。繰り返しになりますが、ベンチャー企業にとって必要なのは購入先、すなわち「第一号ユーザー」です。製品の特性を理解し、それを活用することで自らのプラスにもなるというお客様(県や市町村)を紹介し、かつ実際の購入まで結びつけていただけるような支援を行っていただける人が欲しいのです。

必要な支援から見えてくる課題

しかし私がここに書いたような支援策の実現は、非常に困難だろうということもわかっています。投資する部署と、製品を採用する部署の論点は異なります。採用する部署単独でみると「実績のある製品を採用したい。ベンチャー企業の採用で失敗したら責めを負うのは、こちら」という理屈があるためです。

ここでベンチャー企業の製品を紹介する場をつくろう、とか、積極的な購買を呼びかけるポスターをつくろう、という案が行政サイドからでてくるぎりぎりの支援策かも知れませんが、このレベルでは残念ながら効果なし、と考えています。さらに踏み込む、とは例えば次のような施策です。

  • その製品を採用することでメリットを享受する(だろう)実際の現場、担当者を直接、探し出して紹介する。紹介者が同席できるのがベスト。
  • 「今年、推奨するベンチャー企業の製品」といった枠組みを設定し、メディアに露出させる。かつ購入先に対して補助金を出す。
  • ベンチャー企業の製品を採用して成功した部署に対して首長が直接、表彰する。盛大な表彰式を行い、ベンチャー企業ならびに採用の予備軍育成へつなげる。

次のステップは、地元全体で成功を支援する枠組みを構築できるかどうか

これまでのベンチャー企業支援は「手を挙げられる人材を発掘する」「最初の投資を行う」「投資先と定期的に接触し、状況をヒアリングする」「出展会を紹介し、出展料の一部を負担する」というところまで進んでいる、と理解しています。(私が知らないだけで、もっと細かい支援もあることでしょう。)つまり入り口から途中までは十分、追えています。あとは出口ですが、これが最も難しく、踏み込みにくいところです。

といってこのまま放置してしまえば、沖縄県におけるベンチャー育成は一過性のブームとなってしまい、多くの人に「ベンチャー企業はやっぱり危ない。採用するものではない。」というネガティブな印象だけを残しかねません。仮に成功事例が出たとしても、それがレアケースのようなものであれば「あそこは特別で、普通は無理。」と判断され、やはり大きな潮流をつくることは難しくなります。無理に成功事例をつくりあげることはありませんが、少なくとも「ベンチャー企業が成功するよう、関係者がどこまで踏み込むことができるのか」という出口部分の支援体制についてはまだ議論の余地がある、と思います。

私は沖縄県経済の発展には、ベンチャー企業がもっと登場し、さまざまなチャレンジを行うことが必要という立場です。今回の新聞記事をきっかけに、関係者がさらに知恵を出し合って、次の支援策へつなげられることを願っています。そして2013年に新しい風が巻き起こることを期待しています。もちろん、当社も引き続き全国での販売実績を重ね、成功事例の一つとして数えられるよう、努力していきます。投資者・支援者・プレイヤーといった関係者全員で、引き続き、沖縄を盛り上げていきたいと思います。