SIer を再び人気職種にするためには、これだけ変えればいい

私が就職活動を行っていた20年前、SE は花形職業の一つでした。しかし今は 3K として敬遠されるようになり、力のあるプログラマーは SIer を避けるという状況となっています。

この業界で骨をうずめようと考えている身にとって、なぜ今日のような状況になったのかという原因を探ることは責務と感じます。また、これを解決するために自身(と会社)のエネルギーを注ぎたいと思っています。

まず次の二点は、私が同業の方と話をしていて、よく話題になる事項です。

  • 人月制度に代わる見積手法が確立されていないこと。人月による見積が妥当なのはコンサルタントなど、上流設計の一部のみ。例えば製造で1,000人月という数字は、根拠があってないようなもの。
  • 階層構造によるコミュニケーションストレスの存在。階層構造の下部に位置するSE/プログラマが仕様の矛盾に気付いても、直接確認することができない。また、お客様との接点がないため、達成感に乏しい。

しかしまだ本質ではない。これらが20年(以上も)前から維持されている理由にヒントがありそうです。

なぜ維持されているのかといえば、それを支持するお客様がいらっしゃるからです。SIer は、お客様が望むものを提供します。なぜ支持するかといえば、ある種の合理性があるためでしょう。現時点での私の結論は、「(お客様による)システム開発の丸投げ要求と相性がいい」です。

単純化していえば、多くのお客様(IT利用の発注者)にとって、未だに経営と IT は別物なのです。IT は必要だが、どちらかとえば消極的必要性。経理業務を中心に、手書きの文書がワープロ化され、電話がメールに代わった。情報収集ツールとしての Web は便利だが、一方で社内情報の流出という危険性もある。これらをお守りするために社内に IT 部門を抱えているが基本的には保守業務中心であり、安定運用こそが命題。新システム開発といっても社内の業務フローを変えるとなると抵抗が激しいので、できるだけ穏便に進めてほしい。しかもそのために IT 部門の人員を増やすことはできないので、勢い開発は外注主体で SIer に丸投げとなる。発注側(お客様)でもシステムの仕様を決めることは難しいので、一次請けの SIer のみを窓口とし、おおまかな仕様を伝えてあとはお任せ。出来上がった新システムを使ってはじめて業務フローの改善の必要性を関係者が痛感するも、後の祭り。使えないと嘆きつつも投資回収のため運用側に負荷をかけ、それでいて IT は結局、役に立たないものだと評価を下げる。

つきつめるとお客様の経営層が望んだ結果なのです。"IT の活用" という言葉が、具体的に自社の経営戦略と重ならないことこそが問題の本質です。それを直視せずして今またクラウドだ、ソーシャルだ、スマートフォンだという時流に乗っても、うまく活用できないのではないかと懸念します。

経営と IT が一致する、とはどういうことか

経営と IT の一致とは、経営戦略を達成するために IT が必要不可欠な状態にあること、といえます。ここで、私が認識している経営戦略とは、売上や利益目標とは異なるものです。(売上、利益目標は経営戦略達成の成果であり、そもそも戦略ではない。)戦略とは自社が生き残るために何を強みとし、何を捨てるかの判断です。5年後、10年後の自社はこうありたいと願う姿といってもいいでしょう。

企業の存続と発展は、それを支えるお客様がいて成立します。今の時代、お客様自身が IT 活用の先駆者です。よってお客様とのパイプを強化するためには、お客様が使いやすい「仕組み」を提供することですが、その仕組みは IT に立脚しています。つまり経営戦略とは、* 自社のビジネスの IT 化 * をどういうロードマップで進めていくか、ということになります。

つまり

  • 総務を中心とする、間接部門の IT 化
  • 営業を中心とする、お客様との接点の IT 化
  • 製品開発を中心とする、商材そのものの IT 化

の 3 点すべてにおいて、大局的に IT 化のロードマップを描くことが経営陣の仕事です。これは各社が自分のあたまで考えることなので、丸投げには不向きです。発注側がこの段階に至ることこそが、現在の SIer の諸問題を解消するスタートになるのではないかと考えています。(すでにこのレベルのお客様とビジネスを行っている SIer は、とてもやりがいのある状況になっていることでしょう。)

IT 化とは、誰かの真似をしないこと

法律に基づいた業務(代表的なものが財務会計)は、どの企業でも同じように機能することが求められます。これは市販されている ERP パッケージが得意とする分野です。しかし、それ以外のすべての分野の IT 化は、自社がこうなりたいという戦略に基づいたシステムであることが望ましいでしょう。経営戦略を立案するためにコンサルタントに相談することはありえます。ロードマップを策定するためにスペシャリスト(ITアーキテクトと呼ばれる専門家)に相談することもありえます。しかし出来上がったロードマップの実現は従来どおりの丸投げではうまくいきません。なぜならそのロードマップは業務フローの改革と強く結びついているため、現場の中に入って「なぜ変化が必要なのか」を説得することのできる SE が主体となって動く必要があるためです。これが SE の仕事であり、SE に求められるコミュニケーション能力の意味です。

昨今注目されている「システムの内製化」を、外注コストの削減などという視点でみると見誤ります。その目的は「他社とは違うシステムを作り上げていくこと」です。これは試行錯誤を伴いますので従来方式の見積手法や発注方法ではうまくいかないのですが、そこに SIer の活路があります。二次請け、三次請けの人派遣ビジネスからソリューションビジネスへというかけ声は多いですが、お客様のシステム内製化の真意を理解して、そのお手伝いができる SE を育成することが急務です。試行錯誤を前提とした開発では、いかに素早く実装し、運用し、それをさらに改善するという PDCA サイクルを高速に回す体制が求められます。プログラム開発工程の自動化がこれを支えます。

自動生成技術の意味も変わる

多くの SIer は、自動生成技術を受託開発の利益率をアップさせるツールと捉えています。しかしその意味も変わってきます。これから自動生成技術はお客様の経営戦略を実現させる「高速な開発体制」を支える重要なツールになることでしょう。私たちはこの流れを意識して Wagby の改良を続けたいと思います。