祝・超高速開発コミュニティ1周年

ちょうど1年前の今日、超高速開発コミュニティの発足記者会見が催されました。あっという間の1年でしたが、多くの種を蒔いてきたと思います。関会長をはじめとする幹事・事務局そしてすべての関係者の皆様に感謝です。

発足当初は13社でしたが、1年後の現在は150を超える法人・個人が参加する規模になりました。ユーザー企業、ツールベンダー、SIer、個人がまんべんなく参加しており、情報交換や提携などが活発化しています。旧・Wagbyユーザー会も合流しました。参加企業の最新リストはこちらに公開しています。
http://www.x-rad.jp/list/

この機会に私の視点で、同コミュニティ活動の成果をまとめてみました。

採用動向の調査

自らを超高速開発と位置づけているツールは国内で20を超えていることがわかります。コミュニティに参加していないツールを合わせると30から40は存在するのではないでしょうか。現在のシステム開発方式では今後のニーズ増加に耐えられない、なんとか改善したいという思いをもち、かつ、市場もあると判断して参入している企業が増えているということが明らかになりました。

また昨年11月にはコミュニティ主導での第一回採用動向調査を行い、日経BPセミナー「超高速開発ソリューションフォーラム2013」で発表しました。このときは調査に参加した企業がまだ少なかったので、継続して第二回の調査も実施したいと思います。

さらにJUAS (日本情報システム・ユーザー協会) が行っている「ソフトウェアメトリックス調査」に、はじめて超高速開発に関する調査が盛り込まれました。ツールベンダーがうたう営業トークではなく、ユーザ企業による実績値に基づく生産性を調べたところ、従来手法に比較してコストが3分の1から4分の1になっていることがわかってきました。ただし調査母数が少なく、規模もばらばらであるため結論ではなく、あくまでも中間値です。それでもインパクトのある数字だと思います。この調査にも引き続きコミュニティとして協力していく予定です。
http://it.impressbm.co.jp/articles/-/11050

営業トークで終わらせないセミナー

2013年12月より開始した月一回の定例セミナーでは、正会員ツールベンダーが登壇して製品のアピールを行っています。ただし一般的な製品紹介は自社セミナーでやってほしいということで、コミュニティ主催セミナーでは「類似競合製品との違いがわかりやすいようにする」「得意な部分だけでなく、カバーしない部分も伝える」「製品間の連携がどこまでできるかを明らかにする」という視点を盛り込み、聴講者に比較しやすいように心がけています。

個人的に、セミナー後のアンケートが好評だったと感じているのは「GeneXus, Wagby, Web Performer 徹底比較 – 自動生成ツールの効果的な使い方」と「上流工程ツールとの連携事例報告」です。前者は異なる3社の製品が壇上で実際にアプリを(超高速で)開発する様を実演し、各ツールの開発方法の違いを明らかにするという試みでした。後者は製品連携事例の報告を通して、一口に設計情報といってもその扱いはツール毎に異なるため、その共有化には課題も多いが可能性も高いことを示すことができました。いずれも私の過去ブログに詳細を記載しています。

http://yoshinorinie.hatenablog.com/entry/2014/02/12/093632
http://yoshinorinie.hatenablog.com/entries/2014/07/21

書籍「超高速開発が企業システムに革命を起こす」の出版

"超高速開発" という言葉をはじめて世に出しだのは、日経コンピュータの特集記事でした。その言葉を預かり、育てたいということでコミュニティが立ち上がりましたが、さらに書籍まで刊行されました。
http://www.amazon.co.jp/dp/482229627X

執筆の主体は「ICT経営パートナーズ協会」で当コミュニティではありませんが、関会長が両方の団体のトップということもあって両者はこの点で一体となって活動しています。"超高速開発" とはプログラムのコード量を削減する技術のことではない、という思想がわかりやすく書かれている良書です。出版記念パーティは多様な方々が参加され、これも記念すべきイベントでした。

他団体との連携

SIA (システムイニシアティブ協会)やJUAS (日本情報システム・ユーザー協会) をはじめ、さまざまな会で発表させていただく機会をいただいています。もちろんコミュニティとして発表するので、個別製品の話はしません。思想・哲学や技術動向、それによってSI業界はどのように変わると考えているかなどをお話し、意見交換を重ねています。参加者はユーザ企業やSIerの管理職、マネージャ層が多いです。

コミュニティが毎月二回、発行しているメールマガジンでは、著名な方々の「一言」を掲載しています。乱暴に集約すれば、個々のツールの善し悪しの前に、つくる側とつかう側の間によこたわる溝を埋めるために、できることは何でもせよ、という叱咤激励を頂戴しています。溝はあまりにも深く、これを埋めることは到底無理と諦めがちです。それでも少なくない人が、さまざまな方法で埋めようと努力しているし、それがビジネスチャンスにつながると考えています。超高速開発コミュニティのアプローチは、あくまでもその手法の一つですが、実践的であり、目にみえて結果が出るというのが強みです。このような外部の声を意識しながら、コミュニティの活動の方向性を考えていけるのはプラスになっています。

"若い技術者は参加していないよね?" という指摘

この1年を振り返って、大いに盛り上がっている層は40代後半から60代という熟練の方々のようです。さまざまなプロジェクト経験を踏まえた上で、超高速開発という思想を支持されています。一方で現場で活躍する若い技術者層(20代から30代)は少数派です。

定例セミナーは午後に行うことが多く、現場の人は参加しにくいのではないかという意見から、さった6月には初のナイトセミナーも開催しましたが、参加者層の比率は(日中のセミナーと)あまり変わりませんでした。こちらも3ヶ月に一度のペースで継続する計画ですが、期待どおりにはいくかどうかは今後の企画次第です。

しかしこの傾向について私自身は焦らないことにしました。自分自身が20代の頃を振り返れば、業務の流れを把握するより、プログラミングテクニックを磨くのに夢中でした。ツールによる自動化より、自分で四苦八苦して設定ファイルを操るのに夢中でした。それは仕事なのか趣味なのか線引きができないほど、楽しい時間でした。しかし現実には納期とコストがあります。お客様の仕様変更があり、こちらの業務理解不足による作り直しがあります。そのような経験を重ねる中で、安定した品質で、コストを削減しながら満足度を高めるためは自動生成技術を核としたジェネレーティブプログラミングという方式がのぞましいという発想に至ったのですが、それは一朝一夕に気付いたことではなく、時間がかかりました。そう思えば、むしろ若いうちからこのコミュニティの意義に気付いて情報収集する人というのは、とんでもない逸材です。いや会社命令?それでもOKです。私たちがこの業界で半生をかけて気付いたことを短時間でフィードバックできるなら嬉しい限りです。今は参加者数が少ないことに気をもむのではなく、コミュニティの目指す方向性を継続的に発信し続けることに注力します。コミュニティ活動はまだ1年であり、基盤も脆弱です。若手の参加は活動の継続性という視点で重要ですが、それは目的ではなく、日々の活動のごほうびだ、という気持ちでいきます。

次の1年はどうするのか

幹事会では、きたる11月にコミュニティとしてのイベントを開催できないかという意見が出ています。分科会活動もはじまったので、個人的には(学会の)研究報告会のようなことができると面白いのではないかと思います。ツールの提供側と、利用側(ユーザ企業)の溝を埋めるためのアイデアを出し合う場、さらには連携の場としてコミュニティを位置づけています。さらに妄想すると「設計情報の標準化」といったことに興味があります。(まだそういう分科会は立ち上がっていませんが...どなたか、どうでしょう?)

幹事の一人として、次の1年も大いに盛り上げられるよう企画を立案していきます。是非、企業または個人でコミュニティに参加し、企画や分科会活動に関わっていただけると頼もしいです。入会案内ページはこちらから、どうぞ。
https://www.x-rad.jp/registration/admission/

宣伝:システムイニシアティブ2014

当社も加盟している「システムイニシアティブ協会」恒例の夏のイベントが、きたる8月29日に東京で開催されます。
http://system-initiative.com/HTML/index.html

私も少しだけお時間をいただき「10分でわかる超高速開発ツールの選び方」として発表します。本協会もまた、ユーザ企業が主体となるためにはどういう手法があるのかを明らかにしており、超高速開発コミュニティの思想に近いため、興味ある内容が多いです。私はこちらの参加も絶賛、推奨中です。