「システム志向」経営をやってみて感じること

「ICHIROYAのブログ」に投稿されていたこの記事について。

年商100億円などという具体的な数値目標は捨ててしまえ!? 成功にいたる「システム志向」とは
http://kyouki.hatenablog.com/entry/2014/12/04/072219

私がこの数年、意識してきたことは「システム志向」というのか、と、うまく定義づけられたことに感心しました。「指向」ではなく「志向」なんですね。

ちなみに創業から13年が経過したジャスミンソフトですが、創業時は「ゴール志向」でした。当時はベンチャー企業というのはそういうものだと思っていました。それが紆余曲折を経て、上のブログにある「システム志向」に変わっていきました。売上目標がなくなったわけではありません。ただ売上目標は、私の中では会社存続のための最低限の経費という位置づけに変質しました。それよりも重視したのが、会社ならびに製品の継続性です。どれだけ顧客の要望を取り入れ、製品の不具合を取り除いてきたか。どの会社で、どのようなシステムに活用されているか。大きな商いはなかなかありませんが、導入先の担当者から「Wagbyでつくったシステムが社内で表彰された。」という話を伺ったときは、スタッフと喜びをわかちあっています。

しかしシステム志向は、綺麗事でやっていけるものではない、ということも痛感しています。これについて思うところを書いてみました。

技術をお金に変える方法は一つではない

技術者にとってわかりやすいのは、顧客からこういうシステムをいくらで開発してほしいと要望され、納期・品質・コストの要求を満たしながら目的を達成することです。その一部が給与に反映される、とてもシンプルです。

ただ、この反復プロセスの中に

毎日の仕事を、前日より、前年より、良いものにして、それをひとりでも多くのひとに届けたい
(上記ブログより)

というエッセンスを盛り込むことは難しいです。現実には古めかしい技術しか使えない職場、同じようなコードの再作成、そしてさまざまなトラブルの発生という状況があり、それに輪をかけて価格競争があります。IT の 3K 化、という批判には、人材を交換可能にしたことで、ここにあるエッセンスを実践する機会が減ったことと関係があると感じます。

(ちなみに私は人材の交換可能化という流れに反対ですが、開発工程の自動化に賛成です。両者は異なる概念ですが、それは今回のテーマとは異なるので割愛します。)

一つのパッケージ製品またはネット上のサービスを継続的に開発する仕事に長く関わる、ということができれば、このエッセンスを体験できる機会が増えます。しかしこのアプローチの問題点は、

  • 使ってもらえる程度の機能・品質を作り上げる最初の数ヶ月は、一円もお金が入らない。
  • 作り上げたとしても、市場に受け入れられなければ、やはり一円もお金が入らない。
  • 受け入れられたとしても、競合他社に、より価格競争力のある新製品を投入されれば、一気にビジネスが縮小する。

という、つまり経営者にとっては投資行為になっていることです。だからスモールスタートだ、という話になるのですが、最初の段階では企画立案から開発、運用、マーケティング、営業、顧客サポート、スタッフへの適切なケア、そして資金繰りといったすべてを一人か二人でこなさないといけないのがスモールスタートです。外部から手伝えるのはせいぜい税理士の紹介と、一部事務作業の外注化支援、資金繰りの相談(お金を出すわけではなく、ここにアタックしたらいい、というアドバイスまで)でしょう。そういった何でも屋の状態がしばらく続く中においてもなお、システム志向を維持するのは強い精神力が求められます。もちろん、だからできない、とは思いません。ただ、シンプルなエッセンスを求めているだけなのに、その実践には相当の覚悟がないといけない、というのが私の実感です。

システム志向は、競争と無縁ではないどころか、競争のまっただ中にいる

ゴール志向こそが競争であり、システム志向なら競争とは無縁ではないか、と感じる人が多いかも知れません。しかしシステム志向といっても、ビジネスであることには変わりません。売上を倍々にするという目標ではないにせよ、製品・サービスを継続的に開発し、サポートするためには、顧客からの支持が必要です。そして支持されている、という分野に対しては必ず競合が存在し、新規参入組が登場します。技術革新のペースが上がっているため、今の強みが数年で弱みに転じるのが珍しくありません。そして顧客とは、うつろうものです。この先何年も、気持ちだけで弊社と取引していただける、という保証はありません。つまり支持され続けるには内部で常に革新を続ける必要があり、それは競争に身を投じることでもあります。決して、ゆるい世界ではない、というのも私の実感です。

では両者の一番の違いは何か

ゴール志向は「売れるものを売る」ビジネス向けだと思います。売れるものを、他社より多く売るというビジネスには、それなりのやり方・ノウハウがあるでしょう。

一方、システム志向は「売りたいものを売る」ビジネスではないかというのが私の理解です。売りたいものを売れるようにするために努力が苦にならない、しかり売れないかも知れないというリスクも負う、という気持ちで、一歩一歩着実に進むのが、こちらです。

そして前者に必要なトップの資質は「経営者」であり、後者に必要なのは「創業者」です。同じ社長という役職でも、求められる資質が異なります。

ちなみに私は以下の記事を試したとき、思いっきり創業者寄りで、経営者の能力は、からきしでした。

【投資家?起業家?】あなたに適した「お金持ちタイプ別」診断
http://curazy.com/archives/48700

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両方を兼ね備えるのは難しいとわかったのはむしろ安心です。迷いなく、システム志向で行きます。