超高速開発を前提とした、SIビジネスモデルの構築が始まっている

さった4月24日に開催した、超高速開発コミュニティ第二回総会&記念講演会は、140名を超える申し込みをいただきました。記念講演会のテーマは「国内大手SIerによる、超高速開発の取り組み」ということで、4社のご発表を頂戴しました。ご発表いただいた皆様ならびにご参加いただきました会員様と、内部の関係者すべてに感謝します。

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会社名 ご発表者 タイトル
株式会社エヌ・ティ・ティ・データ 冨安 寛 様 NTTデータにおけるソフトウェア生産技術革新
日本電気株式会社 大場 彰夫 様 アプリケーション開発の高度化 〜AP開発近代化への挑戦!〜
株式会社富士通ミッションクリティカルシステムズ 高橋 広 様 富士通が考える大規模システム開発のあるべき姿
SCSK株式会社 根本 世紀 様 ”Fast” “Easy” “Flex” FastAPP!!

このコミュニティが立ち上がる2年前(正確には1年と9ヶ月前)、大手SIerの取り組みは噂には聞いていましたが、全容はわかっていませんでした。
今回、各社の発表を揃って伺えたのは貴重な機会でした。実は国内初です。その証拠に、4社の発表担当者がそれぞれ名刺交換をされていました。互いに各社の取り組みを聞いてはいたものの、実際の担当者とお会いするのは初めて、とのことでした。

それだけに、各社の発表は熱い思いが込められていました。例えば冨安様のご発表は超高速開発を実践されているからこその問題意識と改善ポイントが具体的で、ここまで内部では効果を測定されていらっしゃるのかと驚きました。(講演資料は非公開とのことですので、詳細は書きません。)いずれのご発表者様も、労働集約型ビジネスモデルからの脱却を本気で目指しており、エンタープライズアプリケーション開発は「自動生成SI」に至ることは必然と思わせる内容でした。

そこで、少し気が早いですが、現時点でSIerはこの流れをどう受け止めるか(あるいは、かわすか)について私見をまとめてみました。

真正面からツールに取り組む

NTTデータ様をはじめとする何社かは、ツールそのものは販売せず、自社案件でサービスとして使う、というビジネスモデルを指向しています。そのプロジェクトに参画することができるSIerであれば、このツールの使い方を習得することがビジネスになります。ただしユーザー企業による内製とは、ならないでしょう。既存の SI (ただし「自動生成SI」)という分類です。

一方、自社で自動生成ツールをもたない多くのSIerは、市場にある超高速開発ツールの一つ、あるいはいくつか、を自身の武器として使えるようになることが求められます。安くはない投資ですが、それだけに「早めに着手することで、差別化につなげる」チャンスになります。ちなみに、もし私がツールを選定する側のSIerだとすると、次の点を重視します。

  • ツールベンダー自体が直販をしているか、または受託案件を手がけているか。そうであれば案件が競合したときにツールベンダーと勝負することは不利です。
  • ツールベンダーが、そのツールに「我が社流」を加えることを認めるか。当然、他社が簡単に真似できないレベルの「我が社流」の実現を目指します。それを認めないとなれば差別化が難しいので、ビジネス上のメリットを出しにくいです。
  • そのツールを開発している開発者との接触が容易か。いざというときの対応は、技術者同士が顔をつきあわせて話ができるかどうかにかかってきます。年に一回、会えます程度では、あまり効果を期待できません。

超高速開発という方向性を支持するものの、ツールを使わない

超高速開発というのはツールがなければできない、ということはありません。例えば要求分析の段階で顧客としっかり意識合わせをして、開発する量を減らせば、同じような効果を見込めます。全部つくろうとするという発想がいけない、というのはアジャイルを推進する立場の方がよく主張されることです。

他にもプログラム言語を最新のものにして生産性を高める、少人数開発でコミュニケーション負荷を下げるなど、いろいろなアプローチがあります。ツールによる開発生産性が10倍だといっても、意味のないソースを吐き出していることが問題であり、人間の方が優れているという意見もあるでしょう。数は多くないにせよ、このようなアプローチで会社を経営できるところはあるでしょう。

超高速開発という市場をさけ、別の分野を開拓する

超高速開発が主流になるエンタープライズアプリケーション開発から抜け出し、新しい分野にチャレンジする経営方針もあります。IoT、ビッグデータ、クラウドインフラ、人工知能など、2015年時点で私たちを取り巻く環境には、面白そうなテーマがたくさんあります。そのような市場で名を馳せるのは楽しそうです。

また、超高速開発がそもそも馴染まない分野もあります。スマートフォン向けには、独自性をアピールするユーザインタフェース開発です。AppleWatchや、ロボット(Pepper)などの新しい環境も登場しました。いずれもこれからノウハウを蓄積する必要があり、自動化はまだ先、と考えられます。

超高速開発とは一線を画す、エンタープライズアプリケーション対応

マイクロソフト社の .NET や、オラクル社の Java EE は超高速開発とは一線を画しています。プログラミングが前提ですがコーディング量を減らすためのフレームワークを整備し、統合開発環境を進化させることでプログラマの能力を最大限に高めます。もちろん現時点では、このアプローチが主流です。

一方で、このアプローチは原則として労働集約型ビジネスであり続けます。オフショア開発、多重下請け構造が維持されるビジネスモデルです。新しいプログラム言語、新しいフレームワーク、クラウドといった技術が解決するものではありません。

未来を決めるのは、発注側(ユーザー企業)

今回の記念講演会で発表された大手SIerの(超高速開発の)リーダーの方々は皆、このビジネスモデルを変えたいという気持ちが共通しています。大規模なエンタープライズアプリケーション開発を、労働集約型ではない形で実現する、というのが基本的な発想です。そして私自身は、この発想は規模を問わず(大規模から小規模まで)適用できると考えています。

なお、労働集約型ではない、とは、開発のピークになっても一定人数で対応できる体制を意味します。他所から技術者を調達する必要がなくなるため、オフショアや多重下請け構造は自然に解消されます。ユーザー企業の希望によっては、ユーザーの内製を支援するというビジネスモデルへとつなげることもできます。

この発想が受け入れられるかどうかは、発注側となるユーザー企業の気持ちひとつです。

これに関連して、大変興味深いレポートが発表されました。
「ウォーターフォールとアジャイル開発はどちらが優位か? “超高速開発”を含めて、JUASが3手法の分析結果を公表」
http://it.impressbm.co.jp/articles/-/12284

日本情報システム・ユーザー協会(JUAS)は2015年4月15日、「ソフトウェアメトリックス調査2015」の概要を発表した。今回は、開発生産性を高めるものとして関心が高まっている、アジャイルと超高速開発のアプローチについて、その実態を明らかにする試みをしているのが特徴だ。

同調査は毎年実施されており、国内でもっとも参考にできる指標の一つとなっています。超高速は母集団が少ないですが、異次元ともいえる数値に見えることでしょう。この調査が継続され、計測精度を高めることで「労働集約型からの脱却」はユーザー企業にとってもメリットがあることを示すことができるかどうかが鍵になると考えています。

まとめ

超高速開発とはツールのことではなくビジネスモデルのことだ、と捉えるところは着実に増えています。コミュニティを設立する前と状況が変わってきました。しかし、現時点ではまだ掛け声が先行している面も否めません。

超高速開発コミュニティも3期目に入ります。超高速開発という言葉そのものの普及・啓蒙活動から一歩進んで、より具体的な成果を示すことが次の活動の軸になります。このような気持ちで、今期も引き続き関わっていきたいと思います。

おまけ

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