「投資対効果」という言葉を味方につける

私が会社を興す前、苦手な言葉の一つが「投資対効果」でした。"御社のためにこういうシステムを提案させていただきます。開発費はこのくらいです。” "その開発投資に対する効果をわかりやすく説明してもらえないか。” というやりとりに対して、有効な切り返しをどうすればいいか悩みました。トップという立場にたってはじめて、質問する側の意図を理解できるようになりました。この視点を変えるという経験をとおして学んだことを書いてみます。

法人がお金を使うということ

お金を使うのは「人」ですが、人は「個人」と「法人」に区分されます。ここでは法人を企業として扱います。(公的機関は話の対象外とします。)

両者はお金を使う目的が異なります。個人の場合は、主に自己の欲求を満たすためにお金をつかいますが、企業はそうではありません。企業がお金を使う目的はただ一つ、「より多くのお金を得るため」です。つまり企業は原則として消費目的でお金を使うことはなく、常に投資しか行いません。社員の給料も広義には投資の一部です。支払った給料以上の見返り(売り上げ)が発生することを期待しているためです。

私の本業であるシステム開発という分野にも目的があります。同じシステムであっても、その目的は立場によって変わります。単純化すると次のようなものです。

  • 経営者からみたとき、そのシステム導入によって「いくら儲かるのか」が目的になる。(経費の削減も、儲けとみなします。)
  • 情報システム部からみたとき、その情報の付加価値の高さが目的になる。ある部署にとどまるのではなく、全社的に再利用されることで付加価値を高められる。
  • 現場からみたとき、その情報が業務の役に立つかどうかが目的になる。ただし情報を手にいれるための負担は軽い方がいい。

つまり「正確な情報が、時宜をえて入手でき、それを全社で共有・再利用されることで、企業の売り上げに直結する」システムがもっとも投資対効果が高いのです。例えば銀行のオンラインシステムは運用されることでお金を生みますので、どれだけ投資しても開発費は回収されるという目処が立てばよし、ということになります。

技術力をお金に変えるということ

ここで技術者を悩ませるのは、企業は技術力を求めているのではなく、そのシステムを運用することでいくら儲かるのかというストーリーを求めているということです。最新の技術にお金を出すという意識はありませんが、そのストーリーの実現のためにはこの技術を使うのがよい、という説明は受け入れることができます。

近年、登場した DevOps という言葉は、開発チームと運用チームを仲良くすることが目的ではないこともわかります。個人(消費者)と直結し、常に我が社のサービスを(競合会社に比較して)有利な状態に保つことで売り上げを確保するためには、日々のサービス改善が必要不可欠と理解したのです。銀行のオンラインシステムのように、運用することでお金を稼ぐシステムに対しては、企業は投資します。お金を増やすことが企業の存在意義だからです。

技術者が自分のスキルを高く買ってもらえるところへ転職するということは、より迅速にお金を生み出すシステム開発に従事することになります。この10年ほど、エンタープライズシステム(基幹系)からゲームやサービス会社へ人材が流出していますが、それは自然なことといえます。

さらに昨今のビジネスモデルは、ソフトウェアそのものは無料とし、サービス全体でお金を生み出すことができるように高度化・洗練化されてきました。個人が喜んでお金を払うような仕掛けこそが価値の源泉です。そのようなビジネスモデルの企画とセットでなければ、技術者は自身の能力をお金に変えることは難しくなっています。

エンタープライズシステムも変わらざるをえない

何十年も前に構築され、現在はトラブルがないように運用され続けるエンタープライズシステムに従事する技術者だけが、この流れに取り残されているようにみえます。しかしいずれ、この変革に巻き込まれるのは必然です。

これまでのエンタープライズシステムの目的は、経費削減が主でした。単純にいえば、業務に携わる人件費を圧縮するということです。伝票事務に関わるミスをなくし、法定帳票を整え、正しい売り上げと経費を確定させて税金を納めるための一連の業務を自動化したともいえます。

これによって「いつ、何が売れたか」は把握できるようになりました。しかし「なぜ売れたのか」「売るためにいくらの経費が発生したのか」「どの製品・サービスを重点的にアピールすれば会社全体の売り上げが伸びるのか」には踏み込んでいません。これまでは、現場感覚に依存してきましたが、結果として業務改善も経験からの推測の域を出ず、それがある種の手詰まり感を生んでいます。

私たちは超高速開発ツールをこのようなテーマに適用することが最適だと考えています。システム化に対して明確な仕様が存在せず、試行錯誤しながらシステムの形を変えていくことが求められているためです。しかし現実には、まだここまで意識された取り組みは多くありません。逆にいえば、SIerにとっては手付かずのフロンティアが残っているのです。

SIerから、"超高速開発ツールの普及によって自分たちの仕事(工数ビジネス)が変質してしまう"、という懸念の声を伺うことがあります。しかし工数ビジネスは、ウォーターフォールモデルという前提があり、さらにその土台となるのは、開発する前に仕様が決まるという世界観です。それが変わって、エンタープライズシステムであってもビジネスの変化に迅速にあわせていく、つまり仕様は日々、変わり続けるという世界観になれば、SIerのビジネスモデルそのものが変わります。発注する企業にとってみれば、工数に対してお金を出すのではなく、変化に即応できるエンタープライズシステムが投資対効果が高いと判断する、ということです。そのときは一転して「作らない開発」をどう実現するかということが勝負どころになるでしょう。

超高速開発ツールの投資対効果は、そのような変化に対応できるエンタープライズシステムの基盤を提供するということです。ここまではわかっているのですが、それを具体的に数値で示せ、ということが難しく、今の私の悩みの種です。このような新しい基盤の導入によって具体的にいくら儲かったのか、というのはツール単体の効果というにはあまりにもおこがましく、組織全体の努力の結晶です。目下、そのストーリーづくりをどうするかを思案中です。

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