理想の上司は、自分の出世より、部下の成長に価値を置く人

最近読んだビジネス本で、ぐっときたものがあります。「アメリカ海軍に学ぶ最強のチームの作り方」

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著者はアメリカ海軍で艦長を勤めたあと、そこで培ってきた自身のリーダー論を民間企業に応用するため、現在は企業コンサルタントとして活躍されています。

本書ではたまたま、実例がアメリカ海軍となっていますが、一読してその内容は、さまざまな企業でも適用できることがわかります。組織は巨大であろうが小さかろうが、同じような問題を抱えています。そして組織を動かす中間管理職の役割がいかに重要か、ということも同じです。一言でいえば、

自分の出世より、部下の成長に価値を置く、という哲学をもった組織人になっているか。

ということを読者に問います。著者(当時は艦長)は決してスーパーマンではなく、機嫌のよくない時のミスなども告白されていますが、それでも自身に課した一貫した行動指針を次のようであったと述懐しています。

「もし、このことが全米中に知られることになったら、それを誇りに思うだろうか?それとも、恥ずべきことだと思うだろうか?」

明らかに目が組織の中ではなく、外を向いています。これは自分の行動の結果、組織にいられなくなったとしても、それが倫理的に恥ずべきことではないといえるなら、そうするという覚悟を持って日々の業務を遂行したということです。

本書では著者のこのような哲学から生じた具体例として「部下を道具ではなく、チームの一員として扱い、納得するまで議論する」「情報は秘密にせずオープンにする」「ちょっとしたことでも褒める、しかしやってはならないミスを犯したときには、チームに迷惑をかけたと心から反省するよう、自覚させる」「艦内のチームに負け組をつくらない」といった(実際にあった)出来事を記しています。これらは特に目新しいことではなく、私自身、読みながら "そうあるべき" と思う内容ですが、これらを手抜きせずきちんとやっている、ということに大いに感銘を受けました。考えることと実践することには雲泥の差があります。著者は日々の実践をとおして、習慣化できたようですので、素晴らしいと思います。

多くの中間管理職が、部下とのコミュニケーションに悩んでいると思います。そして部下は、上司が「いざとなったときに、チームの盾となって部下を守るか?」を冷静にみているものです。思えば、私が組織の一員で部下だったときも、やはりそういう気持ちはあったと思います。口先だけでなく、日々の行動にその考え方をみてとれる上司であれば、多少の無理も引き受けたものです。本書を読みながら、自分が部下だったときに上司にやってほしかったことを忘れず、自身がその立場になったとき、そのように日々を実践できているだろうかと内省するきっかけになりました。

お客様第一と、部下の成長が第一、は同じ哲学がある

私は数年前、中島セイジ先生の講演会で教えていただいた「先義後利」という考え方に共鳴しました。それは決して自己犠牲(自己満足)ではなく、ビジネスという目線から合理的であると感じたためです。花火のような短期的売上のあと消えるようなものではなく、サステイナブル - 持続的成長 - な関係性の構築を重視できる哲学である、と解釈しています。

本書を読んで、部下の成長が第一という上司の哲学も、同じ目線なのだと気付きました。部下の成長がチーム全体の成長になり、その成果によって自分の直属の上司が出世するのであれば、結果として自分自身にもプラスになるというのは実に合理的です。これに反するものとして、例えば部下の手柄を自分の手柄としてしまうような行為は、長期的には、かえって自分自身を損なってしまうことでしょう。

私たちは「成果主義」という言葉に「短期的な」という時間軸を設定しがちです。しかし今、改めてこの言葉を再定義し、「長期的な」時間軸で考えるとどうなるのか、という思考実験を試みると、どうなるでしょうか。自分自身および組織の哲学として「先義後利」を基軸とすることで、まわりまわって自分自身の*成果*につながるということはストーリーを受け入れたとき、目の前の課題への対処方針が変わる可能性があるなら、本書は一読の価値があるかと思います。

経営者の辛さ、中間管理職の辛さ、部下として最前線で働くことの辛さ、それぞれ質が異なるのですが、部下の成功が自分の喜びとなり、それがひいては経営者の喜びになって、組織全体の力になると考えれば、まんざらでもありません。私も、そういう視点をもった組織人になりたいと考える一人です。