WDD2017基調講演で語る、"AI時代を迎えることと超高速開発との関係性"について

11月28日の「Wagby Developer Day 2017」の基調講演でお話しする導入部を、先行して書きました。当日いらっしゃる方は予習の感覚で、お読みください。

前提となる知識

企業にとってのITは、インターネット登場前と後で二面性をもつようになりました。インターネット登場前の IT は、コスト削減を図るものでした。人手で行なっていた事務作業をコンピュータに行わせることで間接コストを圧縮できるITは、省力化、効率化に有効です。

インターネット登場後、売上アップに直接貢献する IT が脚光を浴びます。特にスマートフォンの台頭後はWebやスマホアプリを介してお客様と企業が直接、結びつくことが可能となったので、いかに結びつき (Engagement) を強くするかが重要なテーマとなっています。

この二つは同じ IT といっても設計から実装まで、大きく異なります。そこで前者を SoR (System of Record) と呼び、後者を SoE (System of Engagement) と区分するようになりました。一言で表現すると「コスト削減のITか、売上アップのITか」という違いがあります。

そして企業は、この両方を同時に進める必要があるという意味で「バイモーダルIT」という言葉が登場しました。SoRを「モード1」、SoEを「モード2」と呼び変えることで、企業は二つのモードに直面しているというメッセージを込めています。ここまでが前提知識です。

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AI時代の位置付け

現在は第四次産業革命と目されています。工業化(第一次)、大量生産(第二次)、自動化(第三次)の次の主役は人工知能と考えられており、世界中の企業が人工知能の活用に取り組んでいる最中です。

このAIは主に「モード2」分野で精力的に取り入れられています。顧客の購買パターン分析をはじめ、売上アップにつなげるための AI 活用です。この方針は当然と思います。

では「モード1」は無関係かというとそんなことはありません。二つの視点から関わってきます。

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(1) 予算配分の問題。企業はモード2への投資を増やしたいのですが、予算の総額には限度があります。よく知られているように、古いエンタープライズアプリケーションを多く抱えている企業ほど、IT予算の大半はシステムの維持管理費となっており、モード2への予算に回せません。しかしこれは企業競争でマイナスからのスタートを意味します。モード2の予算を増やすためにモード1の維持管理費を大胆に削減しなければ、同業他社のみならず世界中のベンチャー企業に自社市場を奪われてしまいます。(事実、そのようなニュースが後を絶ちません。どの経営者も悩んでいることです。)

(2) エンタープライズ分野自体への AI 適用の問題。人事、給与、販売管理、顧客管理、生産管理といった個別テーマでも、AI の適用はこれから活発になってくるでしょう。ノンカスタマイズの ERP を使っている企業なら、ERP のバージョンアップで AI が追加されるかもしれませんが、多くの国内企業はカスタマイズしまくったか、または旧世代のシステムを塩漬けにして使い続けています。つまり最新技術である AI の利用が難しいインフラを抱えているのです。

これが、AI時代に遅れをとる企業が抱える問題です。わかりやすくいえば、経営陣が売上に直結するモード2をやろうとしても、古い体質のモード1がさまざまな形で足を引っ張っているということです。本気でモード2に取り組むためには、これまで抜本的対策を避け、延命し続けていたモード1をどうするのか、という課題から逃げることはできません。

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現実解が、超高速開発

総じて、企業内のエンタープライズアプリケーションは保守コストが高く拡張性が低い構造になってしまっています。いよいよ長期的な視点で再構築を検討するときです。

そこで考慮してほしいのは、これまでの開発体制では、仮に作り直したあとも再び保守コストが上昇していき、同じ問題を繰り返すことです。この問題を断ち切り、今後のモード1の保守コストを一定水準以下に抑え続ける、という目標を掲げましょう。その実現に「超高速開発」は有効な選択肢です。

超高速開発では、設計情報からアプリケーションの自動生成を行うことで、大規模なアプリケーションを少人数で開発できるようになります。これは初期開発にもちろん有効ですが、むしろその後の保守にこそ効果を発揮します。加えて、採用した超高速開発ツールがモード2と相性のよい技術基盤を提供するのであれば、これからのAI時代を迎えやすくなるという一石二鳥のメリットを得られます。

AI時代の超高速開発とは、設計情報を AI が作成するということではありません。AI時代を支えるためのエンタープライズアプリケーションは、これまでとは桁違いの保守性で企業に貢献するべきだ、というのが、私からの最初のメッセージです。

モード1とモード2を融合させる

さらに今後のモード2の著しい発展を考慮すると、モード1とモード2の技術基盤に同じものを使うことがベストです。これは AWS か Azure かといったインフラの話ではありません。アプリケーションアーキテクチャの話です。モード1がベンダー独自技術だと、進化するモード2のスピードについていけず、モード1との連携のための余分なコストを強いられる懸念があります。今、IT の進化を牽引しているのはモード2の分野です。そこでモード2で広く使われた技術をモード1でも使うことが次世代のエンタープライズアプリケーションの正しい姿になる、というのが私からのもう一つのメッセージです。

AI時代を快く迎えたい

よく話題になる「人間の仕事」ですが、エンタープライズアプリケーション分野では、次のような線引きになると考えています。

仕事の内容 人間 or AI
儲かる仕組み(ビジネスモデル)のアイデアを出す 人間
ビジネスモデルを支えるエンタープライズアプリケーションを設計する 人間
アプリケーションの開発と運用(自動化を含む) 人間 + AI、ロボット(RPAなど)
運用で気づいた課題をビジネスモデルにフィードバックし、改善を図る 人間

0から1を作り出すのは人間の仕事ですが、1を9まで向上させるにはAIの活用が欠かせません。しかし9から10への達成は、再び人間の感性が重要になるでしょう。良いアイデアを実行に移して、社会と文化の発展に少しでも貢献しようという意思をもつのは人間だけです。AIがそれを助けるというのが、ビジネスにとって効果的な枠組みになります。快く、AI自体を迎えられるようにしたいと思います。