基幹系の寿命という考え方を捨てる時代へ

少し古い記事ですが、日本情報システム・ユーザー協会が発表した2012年度の調査結果によると、基幹系(エンタープライズアプリケーション)の寿命は14.6年ということでした。今だと、もう少し伸びているかもしれません。
https://tech.nikkeibp.co.jp/it/article/COLUMN/20120511/396127/

寿命がやってくる理由はおおむね、次のようなものです。

  • 変化するビジネス環境に(システムが)適合できず、作り直しを迫られる。
  • 稼働するハードウェア、OS、クライアントPCが合わなくなった。
  • ベースとなるパッケージ製品の保守切れ。
  • 開発や保守に関わった会社が手を引いた。

しかし私は、この「寿命がきたので、再開発」という考え方そのものがなくなろうとしている、と感じています。その背景を説明します。

ハードウェアやOSは陳腐化しなくなった

パブリッククラウドの登場により、ハードウェアやOSは陳腐化しなくなりました。月々の利用料金という支払い形態によって常に最新の環境にアップデートされ続けます。これにはデータベースや、各種のライブラリ(ミドルウェア)も含まれつつあります。

クライアント(PC)環境は固定できなくなった

マイクロソフト社の戦略により、Windows 10 は常に最新へのアップデートが行われます。企業向けにアップデートの時期を微調整することはできますが、原則として古い OS を使い続けるという選択肢はもはやありません。同じことはスマートフォンにもいえます。特定バージョンだけで動作するというアプリケーションというのは許されなくなっています。

Java のアップデートポリシーの変更

オラクル社の戦略により、Java は半年に一度バージョンアップされるようになりました。オプションの有償契約で特定の Java バージョンの利用にこだわることはできますが、むしろこれを奇貨として、常に最新の Java 環境で動作するアプリケーションにする、という方針に変えるのが正解と思います。前述したようにハードウェア、OS、ミドルウェア、クライアントすべてが「常に最新」となる中で、Java だけが古いバージョンでというのは、かえって整合性がとれなくなり、無用な混乱を抱えるだけということになりかねません。

「攻めのIT」からのプレッシャー

基幹系(エンタープライズアプリケーション)は「守りのIT」と位置付けられます。一方で経営陣は「攻めのIT」として、自社と顧客を IT でつなげる仕組みの構築に目を向けています。「攻めの IT」は変化が早いのが特徴ですが、その変化のスピードに「守りのIT」も追いつけないといけません。これは単に基幹系が REST API のインタフェースを備え、プログラムレベルで外部アプリケーションと疎結合できればいいということではなく、データの持ち方や業務処理も含め、これまでとは異なる開発スピードで対応してほしい、という意味が込められています。

「攻めのIT」との統合化

これまでの文脈で、基幹系を「守りのIT」、そして売り上げに直結するシステムを「攻めのIT」と区分してきましたが、いずれ両者は融合します。融合という言葉は抽象的すぎますね。具体的には「攻めのIT」が基盤となって、これに従来の「守りのIT」が乗っかっていくことになると考えています。その基盤は「マイクロサービスアーキテクチャ」になるでしょう。つまりこれからの基幹系はマイクロサービスアーキテクチャへの対応が求められます。


ここまでをまとめますと、これからの基幹系を牽引する要素技術は、「攻めのIT」の開発で培われたものがベースになります。私がもっている次世代基幹系のイメージは、パブリッククラウド上で動作し、オートスケールするデータベースを使い、ミドルウェアは Java/Spring framework でマイクロサービスアーキテクチャを実現し、「攻めのIT」と API レベルでつながるというものです。そこには従来、認識されていた「寿命」という概念はなくなっており、常に部分的な改良を行う DevOps 運用が行われていることでしょう。そして理想は、このような基幹系を運用する企業自体でアプリケーションを内製することです。もちろん、すべて手作りではなく、開発と運用を適切に支援するツールが存在することを前提としています。

ものごとには「流れ」があって、その流れにあわせて自らを変化させることができれば、余分なコストはかからないものです。基幹系の保守コストの高さは、このような流れにあらがうことで生じることが少なくありません。特に古いアーキテクチャを維持しようとするほど、金食い虫になっていきます。

私自身は進んで、この流れに身を任せたいと考えています。このような世界に合わせられるように、自社製品の方向性を定めていこうとしているところです。