デジタルトランスフォーメーションとは "テクノロジー主導の産業革新" という定義

お盆休みに入って、久しぶりに読書する時間をつくることができました。最初に選んだのがこちら。

diamond.jp

ベンチャー・キャピタリスト蛯原氏の著作で、私にとってはまさに今読むべき一冊でした。

この本で、蛯原氏が定義したデジタルトランスフォーメーションの説明がわかりやすかったので、メモします。

デジタルトランスフォーメーションとはテクノロジー主導の産業革新

この文章だけではわかりにくいので、以下、これからデジタルトランスフォーメーション(以下、DX)に取り組もうとしている企業の経営層ならびにこれを主導するマネージャ層に刺さりそうな、氏の説明をかいつまんで紹介させてください。興味を持たれた方は是非、本書を一読されることをお勧めします。

DXの本質を理解していない経営層による失策

今の時代、イノベーションがどれほど重要かについての考察は本書を含め、多くの方が説明されているので、それについては割愛します。加えて本書では、多くの人がイノベーションを求めることによるインフレ化と同時に、失敗することのコストがかつてないほど下がっている、つまり失敗についてはデフレ化が進行しとた説明します。つまり、

"イノベーションに取り組むものは失敗を量産すべき”

であり、失敗を取り込みながら成功する、もしくは成功するまで失敗のマネージを続けることが不可欠であることを認識できるかどうかがポイントになります。

それを実感できない経営陣が、我が社もDXを、ということで、ある部署を立ち上げた、もしくはスタートアップ企業に投資をした場合、2年後の取締役会で「あの投資は我が社の収益に全く役に立っていないではないか」という不毛な議論に陥ることになる、と喝破しています。

DXへの投資とはイノベーションの取り組みになるのですが、その本質は「わかるから買う、儲かるから買う」では成り立たない。そういう態度ではなく、収益によって報われるかどうかはわからないものの、その革新に取り組まなければならないから買う、という矜持をもって行うことが正解である、ということです。

それでは何のメリットがあるのかと叱られそうですが、しかし現実に、この DX はインターネットの「外」、つまり実世界で加速度的に進行していることも事実です。その一因は、コンピュータの性能が飛躍的に向上しているにもかかわらず、その性能を発揮できていない現実とのギャップに気づいた人たちの存在があります。本書の説明によると

金融、教育、製造業、交通、医療、行政、あらゆる産業とライフシーンが、この途方もないコンピューティング性能の短期間の急激な向上により再定義される一連の取り組み、それがデジタルトランスフォーメーションである。

ということになります。つまり

人力で、非効率で、人海戦術で、非合理なものがすべて対象になる。

ということで、この流れはますます加速することでしょう。本書の説明による私の理解はこうです。実世界を対象としてビジネスを行うすべての企業・組織は、体力のあるうちに DX へ投資し、再構築される新しい社会へ自らの立ち位置をつくっていくことが不可欠である。目先の利益回収ではなく、自らの事業構造自体が激変したあとで、自社そのものを作り変える気持ちで取り組むのが DX である、ということです。この点を理解して取り組む企業と、単にこれまでのベンチャーブームの再来と解釈して、おまけとして取り組む企業の差は大きくなる一方です。しかし日本企業の経営層でも、このことを本気で語る人は(まだ多くはないかもしれませんが)着実に増えていると思います。見えている人だけでも、ここはしっかりと踏ん張って我が道を行く、という姿勢で臨んでいけることを願っています。

私たちの業界にも当てはまる

考えてみれば多くの企業は「人力で、非効率で、人海戦術で、非合理」な社会であればこそ、成り立つビジネスモデルというものを抱えています。それが圧倒的なコンピュータパワーというテクノロジーによって、自社の優位性(=ビジネスモデル)が変わる潮目にあるわけです。

私が従事するエンタープライズアプリケーション開発分野に限っても、大量のエンジニアによる手作りのシステム開発のコスト負担は、ユーザ企業にとって無視できない非合理性と解釈されています。その DX の具体策として「超高速開発」というアプローチが提唱されているにもかかわらず、多くの SI 企業はその採用にいまだ及び腰です。

しかし「テクノロジー主導の産業革新」は必ず、やってきます。これまでもその視点で製品開発を行なっていきましたが、本書を読んであらためて、もっと気持ちを込めていかないと、と思いを強くすることができました。

テクノロジー思考における未来論

本書ではエンジニア、非エンジニアという枠を超えた「テクノロジー思考」を提唱していますが、その思考をもった未来論というのも明白に語られています。実際、私もこの主張に同感でしたし、私が知っている多くの企業リーダーもまた同じだろうと思います。これがリーダーに限らず、多くの人が実際に思考し、かつ行動に移すことで、人口減少が不安視される日本でも明るい未来はあるはずです。一方で、世界にも冷静な目を向け、手を組む相手を選ぶ必要もある、ということも諭された気がします。今、私に足りないのはこれですね。もっと広い世界で手を組むパートナーをみつけ、一緒にやっていくことがますます求められることでしょう。幸い、そういうチャンスはこれからも大いに巡り合えそうなので、幅広いスタンスで話をしていきたいと思っています。