ご恵贈お礼「Web世代が知らないエンタープライズシステム設計」

私も参加している「IT勉強宴会」から刺激的な本が出ました。佐野理事長の取り計らいで恵贈いただき、この場を借りて感謝申し上げます。

www.amazon.co.jp

エンタープライズシステム、別の言い方をすると業務アプリケーションの開発に関わっている方に一読いただくことで、自分達が日々、行っている設計やプログラミングという仕事を再発見できる内容です。

パッケージやクラウドサービスがあるから、システム開発は不要ではないかと誤解している方へ

2000年代に ERP パッケージが登場し、また最近ではクラウドサービスの台頭が著しいことは私も認識しています。しかしこれをもって「現代では、これらのサービスを契約するだけでよく、システム開発は不要ではないか」と誤解している方が一定数、いらっしゃいます。

なぜ、そう誤解しているのか。一つには一部メディア記事の論調を(現場をみずに)そのまま鵜呑みにしてしまっている可能性があるでしょう。もう一つは、そうあってほしいという願望かもしれません。

しかし本書を読めば、そうではないことが、はっきりします。

企業(組織)が必要としているシステムの形は常に変わり続けます。環境に応じて迅速に自らを変化させることは現代のエンタープライズシステムの要諦です。そこには「私たち(の企業)はなぜ、必要とされているのか」というゴールを常に見直すという活動とセットです。それを忘れ、目の前の情報処理だけを解決しようとするならば、本書が語る多くの知見は不要かもしれません。しかしこれでは長期に渡って企業を支えるシステムとなるには力不足です。

それどころか、2020年代に入ってもなお、1970年代に問われたことがいまだに現場で実現されていないこと、それどころか知識や経験の引き継ぎが断絶しており、定期的に「新しい要素技術」を使って過去の知見を再実装してばかりいることに愕然とします。前に進むべきところを、いつまでも同じところをうろうろしています。

1970年代、「人月の神話」が単なる神話でしかない、ということがわかった時点で、システム開発分野は工数ビジネスをやめ、少人数で大規模なシステムを開発することに真剣に向き合うべきでした。

1980年代、「DOA」が効果的であるとわかった時点で、さまざまな業種や業態のデータモデルのテンプレートを整理し、新人技術者に伝えるべきでした。

1990年代、「オープンシステム」が登場した中で、生じてしまった技術的断絶を修復する試みを世代を超えて行うようなチームづくりをすべきでした。残念なのは不況とあいまって、経験豊富なエンジニアが現場を去ってしまったことでした。

2000年代、「ERP」の登場のタイミングで、汎用化された業務分野と、自社の強みであり汎用化できない分野の議論を行うべきでした。これも不況とあいまって、コスト削減だけが優先されてしまった感がありました。

そして今、「DX」がバズワード化され、なにもかもDXにからめて現状の延長を行おうとするのは本当に良くないと思っています。DXをきっかけに「私たちはどこに向かうべきか」という議論ができるはずなのですが、なかなか、そうなっていません。

しかし嘆いても仕方がありません。本書は複数の技術者による共同執筆ですが、いずれの著者も決して現状を諦めていません。紆余曲折はあったが、まだ間に合う。今こそ温故知新の気持ちをもって、エンタープライズシステム設計を再発見しようという気概があります。

毎日、やらないといけない開発業務が多すぎて心身ともに余裕がない、という方にこそ、一読いただきたい内容です。そして本書で語られていることと、自分自身の業務経験を照らし合わせることで、忘れていた何かを再発見できれば、よい意味で自分自身をアップデートできるきっかけになるのではないかと思います。