官と民間の立場の違いに思うこと

先日、県内 IT 企業のトップの方々と、官側との意見交換会に出席させていただきました。
民間側 20 数社のうち、半分以上は創業 10 年を超す、いわばベテラン企業です。当社は規模的にも歴史的にも浅いわけですが、それは心ならずも私に業界の問題点を再確認させることになりました。

私見では、議論の内容は、おそらく 10 年以上も前から進展していません。例を挙げると次のようになります。

  1. 県内企業が本土メーカーの下請けから脱却するためにはどうすればいいのか。
  2. 誘致によって県外の企業が増えることは、県内の IT 企業体にとってプラスなのかマイナスなのか。
  3. 国が提供する大きな案件ほど、県内企業の受注率は下がってしまう。県内企業が主体となって受注できるためにはどうすればいいのか。
  4. アジアとの連携は今後の重要なテーマであるが、単に人件費の安さだけを求めるのではなく、より高度な連携を行うといったテーマを実施することは可能なのか。
  5. 自立した県内 IT 業界のあるべき姿とは、どういうものか。

残念ながら、ここに挙げられたテーマはいずれも一朝一夕に解決するものではないでしょう。また、沖縄だけのテーマでもなく、地方全体が同様に同じ問題を共有しているはずです。

私はその場で発言しませんでしたが、次のように考えています。

官側が期待するほど問題は単純ではない。つまり解決には時間がかかる。そこで官側がすべきことは短期的な補助金提供ではなく、民間による下請け脱却を支援する長期的なフレームワーク作りである。下請け脱却後の方向性は、民間が自分の頭で考えないといけない。その一つに、アジア連携があるだろう。(下請けの延長とアジアを結びつけると、オフショアになる。それは良くない。)

フレームワーク作りとは、具体的な制度の変更のことです。例えば「従来工数の半分以下で実現し、セキュリティテストを完全にこなせる業者への優先発注」などがあります。もちろん、現在の常識では、ほぼすべての企業が猛反対することでしょう。しかし本当にそうなったら、民間は必死で知恵を絞ります。これは他の業界ではすでに経験済みです。例えば車への排ガス規制や、自然エネルギーへの転換促進策があります。それによって車や電機メーカーは鍛えられ、世界進出に成功しました。これと同じアプローチを IT 分野にも持ち込んでしまうことに賛成します。

フレームワーク作りにはお金がかかりません。政府内部で調整して、方針を決めてもらえればいいのです。しかし私がみたところ、内部調整こそが面倒な仕事なので、ほとんどの役人はそこに手をつけたがりません。結果として短期間で成果が見えやすい補助金獲得という発想になりがちです。しかし補助金の効果は一時的でしかありません。それよりも制度を変更し、それについていける企業を育成し、世界に出させるというストーリーの方が(時間はかかっても)意味はあると考えます。

もし、そのような形で官が動くなら、当社は積極的にその新しい、厳しいルールにのることを表明するでしょう。厳しい環境でこそ企業は鍛えられるし、自分の頭で自立の方向性を考える企業に明日はあると信じています。

しかし、同席されていた企業の中で、私と意見を共有できるところがどれだけあるかは、正直、わかりませんでした。
「補助金に頼らない、制度変更を」と考える企業はきっと若いのでしょう。しかし補助金の運用議論が、さしたる進展もないまま 10 年以上変わらない現実をみると、私達のような発想をもっている企業の方に議論の方向性を修正しても良いのではないかと感じた次第です。