輸出増による景気回復でも、本質的な課題が消えたわけではない

この3月以降、アジア地域の需要増により、日本の景気が回復しているという経済記事を読むことが多くなりました。おそらく 6 月に発表される上場企業の決算で回復基調がより鮮明になることでしょう。これによって凍結されていた企業の IT 投資が復活すると期待されています。

別の視点から、これまでの IT 業界ではオフショア開発の受け皿として中国をはじめとするアジア地域の活用(低コストの活用)がうたわれていましたが、これからはお客様(ユーザー)としてのお付き合いを考えていかなければならない、という論調に変わってきました。いずれも、経営者にとって再び環境が変わろうとしている、という気付きを与えるものです。

ところでリーマンショック直後には、世界的な不況で輸出が伸び悩んだときに日本は真っ先に影響を受けることがわかったため、これからは内需もしっかりやっていこうという話がありました。高齢化と少子化という先進国共通の課題に対して、教育、医療を中心に、住宅や公共インフラの保守ビジネス、そして環境や観光といった産業の強化などが語られました。ただ、これらは事例がないテーマだけに試行錯誤となることがわかっており、困難であるがゆえに覚悟を決めて取り組む課題のはずでした。

しかし、実際には輸出型産業に復活の兆しが見えると、一斉に外に目を向け始めたように感じます。それ自体は経済発展に必要だと思いますが、内需を強化するという、本来の日本の本質的な課題を棚上げすることになっていかないか、という懸念をもっています。

私は、内需強化とは、つまるところ国内の中小企業による地産地消のサイクルをつくることだと解釈しています。大企業がますます発展するためには、国外でのビジネスが必要でしょう。しかしグローバル化の中で、大企業による海外進出は、現地雇用・現地調達が基本になります。よって国内の中小企業は、専門特化した技術をもって大企業といっしょに海外に出るか、もしくは地元に根付くかといった判断になるでしょう。地元に根付くことを選択した場合、少子化によって市場が縮小することはわかっていますので、少人数で高いサービスを提供するために IT の利用は不可欠です。つまり、これまでも言われてきた「中小企業の IT 化」がますます重要であり、当社の立ち位置としては、そこを支援しなければならない、というビジネスにつながります。

さて理屈ではそうなのですが、現実には「大企業の業績回復で、中小企業も好況化する」という潜在意識がまだまだ強いように感じます。しかし輸出関連企業であっても、グローバル化 = 世界競争時代の中で、その影響は弱まっているのが現実です。例えば iPhone の登場時、内部の部品の多くは日本製でした。しかし今回の iPad は台湾・韓国製で占められているそうです。わずか 2 年で調達先が変わるということは、これまでの(国内取引の)常識とは異なるスピードであることがわかります。ましてや輸出と直接かかわっていない中小企業にとって、国内景気の回復をただ漫然と待つ、という経営方針では、乗り切っていくことができないことでしょう。それぞれが独自の戦略で生きるという決意が求められており、その戦略の実現に向けて、中小企業の IT 化を本気で進めなければならないということになります。

未だに中小企業の IT 化は進んでいないと言われますが、それは経営陣の本気度が足りないことの裏返しなのかも知れません。私達は開発ツールベンダーですが、より広い視野で、企業の IT 化は経営ビジョンと表裏一体であることを伝える役割もあるのだという自覚をもつことが求められています。単に便利なツールですといっても、それが何のために必要なのかをしっかり伝えることができなければ、採用していただけない時代だということです。