大いなる勇気をもらう:システムイニシアティブ研究会

システムイニシアティブ研究会の第1回研究会に参加しました。
http://system-initiative.com/wp/?p=278

ユーザー企業の横連携の組織化は、希有な試みです。これまでも日本国内ではベンダー主導のユーザー会や、メディア企業が主催したユーザー企業の座談会などが知られていました。しかし「システム開発をユーザー主導で行う」ことをスローガンとして掲げ、ユーザーとベンダーの双方にとっての "最適な距離感" をつかんでいこうとする会は私の知る限り、これまでありませんでした。多くの問題が噴出してきたエンタープライズ開発分野において、新しい道しるべとなることが期待されます。

冒頭、木内会長は次のような発言をされました。

  • 現在の IT 業界の問題は、ユーザー企業側にも責任がある。
  • ユーザー企業は「目利き」を育てなければならない。これは技術のことだけを指すのではない。

私はベンダー企業の一員として、ユーザー企業側から IT 業界の構造問題にメスを入れないといけないと言わしめるほどの状況になっていると、改めて感じました。

続いてゼリア新薬工業株式会社の熊野様によるご講演では、次のような知見が披露されました。(以下、抜粋)

  • 丸投げの定義:自分で考えなければならないことを、ベンダーに任せてしまうこと。
  • IT 部門はベンダーとユーザ間のメッセンジャーとなってしまい、お金だけは大量に出ていく構造になる。
  • 自社の業務フローをまともに書けないため、ベンダーから複数案を提示され、選択する形になっていく。プロジェクト終盤になって完成イメージが想像と異なることがわかり、ここからデスマーチに突入する。
  • 上流の仕事は上等で、下流のプログラミングを軽視するという風潮が間違いの元。プログラムは自社の重要なコア・コンピタンスである。
  • 安定とは何か?安定とは高速で回転する独楽のこと。常に変化し、外からエネルギーが与えられる。止まっている独楽を安定しているとは言わない。
  • ロックイン戦略とは、沢山の人間をべったりと貼り付ける。ユーザ企業の思惑は、問題が起きたときに責任を押し付けられると考えがち。(しかし実際のトラブル時には、そうならない。)
  • 高額な ERP は保守料がネックだが、簡単に変えられない。しかもユーザ企業は自社のシステムが "どうやって" "なぜ" 動いているか、わからなくなっている。
  • 海外のパッケージは、保守費を払っても何かやってくれるわけではない。
  • ベンダー自体も実は丸投げをしている。これが多重下請け構造。ユーザ企業とプログラマの距離は非常に遠い。
  • なぜ下請けか。それはリスク回避のため。リスクとは、ユーザ企業が全てを語れないために生じている。何があるかわからない、そして大抵、何か隠れている。高い見積であっても、ベンダーが大儲けしているわけではない。
  • マネジメントとは何か。人を意のままに操ることではない。現場のモノづくりをバックアップすることである。
  • ベンダーは自己矛盾を抱えている。ツールや方法論を使わない。受託開発で大量の人間を、人月単価で押し込むビジネスモデルのため、自動化ツールを使うと人月が減る。結果的に技術力向上という動機付けにならない。
  • 人月単価での商品化は、人間を消費材のように扱うこと。人間はそもそも生産財のはず。技術者にとって魅力のない業界に見え、優秀な人材が離反する原因になるのではないか。
  • ITベンダーは人材派遣?商社?保険業?
  • パッケージソフトの採用は、本質的な矛盾がないだろうか。不特定多数の利用が前提のため最大公約数的なものになっており、カスタマイズをしなければ使えない。ソフトといいながら、ハードウェアに近い。
  • この癒着構造の中で、IT部門とベンダーの双方がハッピーとなっている分だけ、賢い企業がバカをみている。これで産業が良くなるわけがない。
  • ユーザ企業の自社コンピタンスはどこか?ドメイン知識、アプリケーション知識、データベース、プログラムまで自社で抱える。ミドルウェア、ネットワーク、ハードウェアは外部利用でよい。
  • 優秀なエンジニアとは、自ら進んで、技術を学び成長できる人間のこと。そうなるためには外に出て、優秀なエンジニアに会い、刺激を受け、自分とのギャップを認識し、この差を埋めようと努力すること。
  • 現場と一体化したITが理想。例えば "千葉営業所" だけが使う営業支援システムがあってもいい。今は全営業所に統一のシステムをつくろうとするため、うまくいかないところがある。
  • 情報システム部はガバナンス、マスタデータ管理のみ残る。
  • ウォーターフォール型開発では品質を担保できないほど今のシステムは複雑化している。ユーザー企業主導の内製開発にはアジャイル型開発が良い。
  • 変わることは怖くない。成長そのものである。

ゼリア製薬様も当初、丸投げを止めることに反発や不安があったそうです。それを一つずつ取り除き、現在はパッケージベンダーのような開発体制を社内に備えるまでになっています。開発方法や利用ツールなどが、当社のやり方にとても近いことに驚きました。少数精鋭のスタッフによる社内アプリのアジャイル開発は、一つの理想型です。

その後の懇親会でも、「何もかもアウトソーシングにしない」「ERP を導入することが最適解ではない」「ベンダー企業に責任を取らせるという発想ではうまくいかない」など、これまでのユーザー企業の丸投げ、お任せ体質と根本的に異なる意見が続出し、大いに驚き、また嬉しくなりました。このようなユーザー企業が増えることで、エンタープライズ開発の問題解決につながっていくと確信しています。

事務局からは、この研究会を定期的(月一回)に開催していくとのアナウンスがありました。特にユーザー企業のIT部門関係者、そして経営層はメリットが大きいでしょう。私も微力ながら、この会の発展に貢献したいと思います。

まだ地方開催の予定はありませんが、是非とも沖縄でもやってみたい試みです。

P.S.
事務局の片貝氏のブログはこちら。
http://blog.goo.ne.jp/katakait/e/aac02a8100f062f53ff144a5d8e94829
写真には、私の後ろ姿もあります。