システム開発分野における沖縄の位置づけがさらに変わっていく

全体的な流れ

オフショア開発という概念が登場して以来、これまで沖縄は "ニアショア開発" という切り口で、東京に比較して安い人件費(しかし中国をはじめとするアジア圏全体よりは少し高い)で開発案件を受注するというビジネスモデルを推進してきました。しかし世界市場のスピードは早く、次の10年がどうなるかという予測は困難です。現時点で私が認識している「主流となる考え方」は次のとおりです。

  • 国内の大手SIerは、ますます営業会社化する。
  • 沖縄は開発拠点ではなく、プロジェクト管理拠点としての役割が求められる。
  • 実際の製造工程(プログラミング、テストなど)は沖縄を経由して、中国などアジアで行う。
  • 中国自身も、沿岸部の企業がさらに内陸部へ進出することで、人件費を抑え続ける。

沖縄の位置づけはこれまで、設計技術者を東京へ出張させ、受託部分を切り出して持ち帰るというものでした。製造工程は沖縄で行ってきました。しかし中国における若手IT技術者層の絶対数増加と単価の安さに抗うことは難しく、今後は製造工程を中国に依頼し、沖縄がプロジェクト管理を行う業務が増えていくと考えています。ここでいうプロジェクト管理とは、扱いにくいといわれている中国サイドの "人の管理" が含まれます。中間管理職がグローバル化され、アウトソーシングされたようなものです。

これと並行して沖縄を経由せず、国内大手SIer が直接、中国の会社にプロジェクト管理を含めて製造発注するという体制も維持(強化)されます。全体的にみれば営業、プロジェクト管理、開発工程の分化が進みます。

国内の業務系開発者は、過去の資産の保守業務が終わったタイミングで仕事を失うという構図に変わりありません。今は保守の方が新規開発より安いという観点から残っていた仕事も、クラウドという切り口から新規開発の方が安いという分岐点が見えてくるかも知れません。そうなると保守案件の寿命も縮まります。ただしクラウド型の営業スタイルでは、これまでのような大きな売上が見込めないため、体力勝負になってSIerの吸収合併がさらに加速する可能性があります。

この流れの先は、心配していた国内の技術空洞化、それに伴う技術者層の失職に至ります。
かといって、人件費で中国と勝負するという土俵で戦うのは不毛です。生産性が10%や20%程度高い、くらいではコストで勝てません。しかし実際には、手を抜かずに生産性を上げるのは難しいのです。

ということで技術者の視点でみた場合、日本に残って開発の仕事を続けるという選択肢は確実に減っていますが、ゼロではありません。

  • パッケージ開発や新規サービス開発などを行う。技術力、マーケティング力、資本力の揃った組織で活躍する。
  • "スーパーSE" となってユーザー企業のITを支える。ここでいうスーパーSEとは、たった一人で設計、実装、運用、サポートをこなせるという技術者です。それに加えてユーザー企業の業務を知っていることが求められます。
  • 先進的技術を習得し、講師として日本(だけでなくアジア)を渡り歩いて指導する。技術書や、または技術ネタに関するブログを定期的に執筆できるレベルに加え、プレゼンテーション力も必要です。

いずれも高いレベルを要求されていますが、それが日本の(そして沖縄の)業務系技術者の生きる道です。それ以外の業務は原則として中国・アジアの若手IT技術者が行うと割り切った方がいいでしょう。

(上記以外の選択肢として、"iPhone/Android アプリで一発当てる" という案もありますが、私自身は否定的です。一発当てることも難しいことに加え、これを定期的に(例えば毎年一作ずつ)当てるのは世界でも稀でしょう。この分野もゲーム機市場のように、急速に組織化しています。)

経営層にとっても苦渋の選択です。今更パッケージ開発や新規のネットサービス提供に打って出ても博打の面が否めない、ということでアジアへの進出は避けられないと考えているSIer企業の経営者は多いでしょう。しかし、それは自社の雇用体制(または協力会社との関係性)の大幅な変化とセットです。生き残るためにどうするべきか、皆、悩んでいます。経営者の雇用責任は否定しませんが、労使双方で現在の動向を冷静に見つめないと、解決策を見出すことはできません。

ここまでが、一般的に認識されている流れです。これに対して私はどう考え、行動しようとしているのか。

ジャスミンソフトの方向性

システム開発分野の高度化という視点から、ソフトウェアの自動生成はますます進化します。特に業務系アプリケーションはその恩恵を受けやすく、「大量人員による開発」から、「少人数の設計者と自動生成技術」の組み合わせへシフトするでしょう。つまりオフショア開発よりも自動生成技術を用いた開発のメリットが上回るということです。この分岐点がいつ認知されるか、が鍵です。

そして当社の成功は、そのような時代になったときキープレーヤーとなれるかどうか、にかかっています。短期的なスケジュールでは 11月にお披露目する Wagby R7 で、さらに自動化できる範囲を拡げ、お客様に「ここまでできるのか」と驚いていただけるようにすることです。

まとめ

一昔前は技術者の数が売上に直結していた SI 業界ですが、現在は有効なビジネスモデルが見出せていません。そのような中で10年後に(沖縄のIT産業に)何が残っているのか。他人に任せるのではなく、自分で答えを見つけたいという人には起業という選択肢もあります。とにかく、多くのチャレンジの中からしか結果は出ません。私たちもまた、数あるプレイヤーの一社という気持ちで、道なき道を進みます。