「お腹をすかせた人に魚を与えるのではなく、釣りの仕方を教える」論をシステム開発の分野で展開する

目の前にお腹をすかせた人がいれば、おいしい魚を安く提供するサービスが登場するのは当然です。しかし本人にとって本当に必要なのは釣りの仕方を学ぶことだ、という考え方があります。これは教育界における先生と生徒の関係を論じる話として有名ですが、さまざまな分野で応用できます。例えば私が住んでいる沖縄でも、政府からの補助金の議論で一度ならずとも聞いたことがあります。沖縄の自立のためには、魚ではなく、釣り道具こそが必要だ。そういう論調です。

人は、常に魚が与えられる環境にあると自立できなくなります。では自立できないと何が困るのか。一つには、釣った魚に頼るにはお金がかかるということ。そしてもう一つは、自分が本当に必要な魚は何かを知ることができなくなることです。外部依存が高まるほど、アタマを使わなくなります。知恵や工夫はぎりぎりのところからしか生まれません。甘えの環境からは本物は出てこない。それでは強く生きることができません。組織の観点からいえば、強くないとは競争力がないと同義であり、最終的には市場から淘汰されるでしょう。よって、そのような環境は自らの競争力を弱めてしまうとみなすことにつながります。

これをユーザー企業におけるシステム開発分野の視点で考えてみると、こういうことになります。

  • 「魚」とは、丸投げ開発です。ユーザー企業は楽に手に入れることができますが、できあがったシステムは往々にして不要な機能が多く、変更するたびにコストがかかります。つまりせっかくの IT が競争力の源泉になっていません。
  • 「釣り」とは、システムの内製化です。ユーザー企業は自分で考えるという苦労がありますが、必要な機能に絞り、変更のコストも抑えることができるようになります。経営環境の変化にあわせてシステムを常に改善するという PDCA サイクルを回すことができます。

多くの SIer は、見栄えのよい「魚」を安く提供するサービスを展開します。しかし少数派なれど、ユーザー企業に「釣りの仕方」を教えようとするところも存在します。後者は、ビジネス的な旨味はないでしょう。しかしユーザー企業にとって本当に必要なものは何かということを突き詰めると、このビジネスに行き着く、と考えています。

これは私の一方的な発想ではありません。その事実に、Web で検索できるさまざまな記事を紹介します。

「自社で利用する情報システムを内製する、すなわち社員が企画、設計、プログラミングする、これが理想の姿である。」
2011年版「あえて今、『システム内製』の勧め」- 日経IT Pro 谷島 宣之 コンピュータ・ネットワーク局編集委員

システムイニシアティブはユーザーがシステム開発の主権を取り戻そうという意味である。かつてはユーザー主体で開発していた原点に帰ろうという呼び掛けである。技術を自らの手に取り戻そうとするユーザーは、システムの内製化に踏み出している。それを支える手法や技術も提供されるようになってきた。
システムイニシアティブ研究会 設立趣旨 大成ロテック 常勤監査役 木内里美

例えば、自社開発、パッケージ利用、クラウドサービスの利用など選択肢が広がった今、自社に最適な選択は何か? 社員や顧客がiPadのようなスマートモバイル機器を使いこなすようになった今、自社の情報システムをどう進化させるべきか? あるいは増える一方のビッグデータを効率よく分析するにはどんなITが適切か?
こうした問に即座に回答できるようにするため、ユーザーは改めてイニシアティブを取り戻す必要がある。
システムイニシアティブ研究会 推薦の言葉 田口 潤 インプレスビジネスメディア ITLeaders編集長

「システム的なリスクがあっても良い。とにかく変えて、コストを削減し、3年後に姿が変わればいい」
株式会社 良品計画

他にも内製化の事例は事欠きませんが、取り組んだところはいずれも「相応の苦労はしたが、それに見合った、いやそれ以上の成果を得られた」と感じていらっしゃいます。この境地に至ったユーザー企業(の IT 部門)は、変化に強いといえます。

SIer は、安い人月単価で見積を提出し、工数を稼ぐことで売上をあげるというビジネスから、ユーザー企業のあるべき姿を提示し、それを二人三脚で実現するパートナーになることが求められているというのが私が感じているビジネスの感覚です。それを後押しするのが開発ツールの充実です。特にノンプログラミング環境の登場は内製化の敷居を下げるため、ユーザー企業を本気にすることができるでしょう。

ところでジャスミンソフトのビジネスは「安くて品質のよいシステムを開発します。」から「ユーザー企業の内製化を全力で実現します。」に変わっていますが、正直にいって、当社の企画書を採用していただくには、かなりの時間がかかります。中小企業の本音はシステム化の面倒なところに踏み込みたくない、でしょうし、仮に同意していただける担当者に巡り会ったとしても、そこから社内を説得するのは至難の業です。それでも私たちはこの方向性こそが最終的にユーザー企業にとってメリットがあること、実現のための敷居は相当に下がっており、しかるべきトレーニングによって内製化を実現する社内部隊を育成するためのプランを立案できることを提案し続けています。[参考:システム内製支援サービス]

そこにこだわるのは何故か。それは私たちがベンチャー企業だからです。他社がやっているビジネスと同じことを、安い価格で実現するだけなら私たちは零細企業になります。しかし大手企業がやらない視点で、新しい市場を開拓しようとすれば、それはベンチャー企業です。(これは同じベンチャー企業の社長から教えて頂きました。)

私たちは創業から10年が経過しましたが、今もベンチャー企業の精神を持ち続けています。お客様にとって本当に必要なものは何か。これからの10年も、この気持ちを忘れずに行きたいと思います。