週刊BCN創刊30周年記念号「ビジネスモデルを転換できない受託ソフト会社は生き残れない」を読む

週刊BCNは創刊30年ということです。30年前というと、ちょうど私がPC8001と出会ったころです。この頃から現在まで、IT業界をずっとウォッチしてきたということで歴史を感じます。その30年目の節目記事では、受託ビジネスの危機をうたっています。業界の形が変わるという潮目を感じざるをえません。

記事の要点は「発注者が仕様をまとめ、それを多くの開発者がつくりあげる」という従来型の受託ビジネスモデルの減少傾向に歯止めがかからず、このまま衰退に向かうというものです。この数年の新規開発案件の少なさは不況が原因ではなく時代の流れであり、景気とは無関係に(受託会社が待望している形での)開発案件は増えないだろう... と解釈できます。

とはいえユーザー企業が IT を活用するのは間違いありません。オーダーメイド型のシステムが求められていない、ということです。それに代わって、次のような技術・サービスが登場していることが知られています。

・クラウド技術。これはハードウェアやソフトウェアを「所有から利用へ」転換させるという意味を含んでいる。
OSS の活用。既存ソースコードの活用でスクラッチ開発の工程を減らす。
・高度なコンサルティングを行う。

その他の可能性として、スマートフォンアプリの開発がありましたが、一本あたりの売価が数百円と安いため大量販売できない限り厳しいということ。自治体の保守案件を受けている地元密着のSIerは景気がいい(が参入障壁が高く、新興企業が入るのは難しい)といった解説もあり、いずれも恩恵を受ける企業は限定されます。

では受託ソフト会社はどう変わればいいのか。記事ではその具体的方法は記載されていません。ここからは私見です。

「クラウド」という代名詞はユーザーにとって何を指すのか

これはソフトウェアが月額ライセンス料金体系になって安くなったということではありません。10年前にもASPという概念がありましたので、明らかに利用者はASPと異なる視点でクラウドを解釈しています。一言でいえば「カスタマイズ可能なパッケージソフト」とでも呼べばいいでしょうか。代表的なものがセールスフォースです。クラウド基盤上に、すぐに稼働するアプリケーションがあり、かつそのカスタマイズも(Webブラウザ上で)行えることが新鮮と受け止められました。つまり利用者視点でのクラウドには、初期導入コストの安さに加え、容易なカスタマイズ性も必要です。ここでいう容易とは、その結果として工数が少ない(= 安価)ということが含まれます。

そしてもう一つ。利用者は「自らが仕様を決める」のが大変なことを自覚しており、ある程度動作するベースがあって、これを修正することでオリジナルアプリケーションに変更できるという柔軟さを求めています。

仕様を自ら決めたいユーザー企業は内製へ向かう

一方で、「仕様を自ら決めたい」というユーザー企業も当然、存在します。ここは今、内製化の道を模索しています。よって内製を支援するツールやソリューションが求められていますが、受託開発企業を求めているわけではありません。

丸投げはトラブルの元という認識が広がる

丸投げタイプの開発は発注者、開発者ともに疲弊しますが、工数が膨らむことで開発側の売上には貢献するという面がありました。(ただし裁判などで払っていただけないケースもあります。)しかしこのような契約は今後、ますます減少することでしょう。トラブルになるという認識が広がっているためです。

まとめ

ここから見えてくる将来の道は次のとおりです。

  • クラウド(より正確には PaaS)を提供するベンダーになる。
  • 提供されているクラウド(より正確には PaaS 上での開発スタイル)を使いこなせる会社になる。
  • 内製を支援するツールやソリューションを提供する。
  • 業務ノウハウに特化したコンサルティング会社になる。

とはいえ、現実には多くの企業で

  • オフショアなどをフル活用してコストを下げ、受託開発をがんばる。

という選択をしています。これがもう限界だという状況になる前に、方針を決めなければならないでしょう。

この数年、私が想定していた以上のペースで外的環境が変わっています。それゆえに、内部で開発に従事している人達の変化の緩さとのギャップが目立つようになっています。難しい問題です。