沖縄県におけるIT産業施策の課題はどこにあるのかが見えてきた

さった10月20日に開催された「MIJS沖縄ワークショップ2011」は、真剣な議論で大いに盛り上がりました。100名超の方が参加され、さまざまな刺激を受けたように思います。参加された皆様および関係者の皆様、本当にごくろうさま&ありがとうございました。

MIJS は国内の有力ソフトウェアベンダーが集う任意団体です。そういう性格の団体ですので、参加企業の代表者はいずれも独立精神が旺盛であり、「存在しないサービスは俺がつくる!」という気概をもった方々です。今回、「沖縄はアジアのハブとして可能性がありそう」ということから沖縄ワークショップを行うことになりましたが、単なる表敬訪問ではなく、真剣に沖縄の将来を案じていただけるコメントが連発され、地元企業としてこんなに嬉しいことはありませんでした。

沖縄県は1998年のマルチメディアアイランド構想で一躍、全国に先駆けてIT誘致に取り組みはじめました。その先取性がマスコミに取り上げられ、他県よりも先行したブランディングに成功しています。これまでコールセンターやデータセンターの誘致に力を注いだ結果、2万人を超える雇用に貢献したという実績もあります。

一方で、マルチメディアアイランド構想におけるもう一つの "柱" となるシステム開発は、何をもって成功したかという定義が難しいところです。IT津梁パークという施設は完成しており、ニアショア業務を中心とした沖縄ソフトウェアセンターが県内企業の出資の元に設立され、すでに事業展開しています。しかし県民の感覚としては、これで成功したといえるものではない。おそらく全国、そして世界で活躍する著名なIT企業の登場が待ち望まれています。わかりやすくいえば、例えば MIJS に参加できるような全国的な知名度をもった企業が沖縄から輩出されるかどうか、です。(ジャスミンソフトは沖縄から唯一、MIJS に参加していますが、まだ大いに成功したとは言えません。)よって今回のパネル討論では、この点で各パネリストの活発な意見が披露されました。

沖縄県側の取り組みはおおむね、次のようなものです。

  • 高度な技能をもった人材をさらに輩出する。そのために専門特化した職業大学を新設する構想もある。
  • 人材は必ずしも沖縄県民とは限らない。広くアジアから優秀な人材を集めるようにする。
  • そのような人材を(東京に比較して)低コストで雇用できるという沖縄の魅力をアピールし、企業誘致につなげたい。
  • その他、他府県に比較してより使い勝手のよい企業支援メニュー(税制など)を用意したい。

基本戦略は「地元雇用を拡充するための、企業向け支援メニューの充実」です。そして「県外企業の誘致」でもあります。

それに対するMIJS参加企業側のコメントは、厳しいものがありました。

  • 職業大学で何を学ぼうとも、そもそもその技術が先生から教えてもらったものである以上、パッケージ開発を主とする企業には古いものである。パッケージ開発には他社にない技術をどこまで実現できるかが問われており、必要なのは「自分で切り開く」力である。
  • 県の支援メニューは雇用が目的になっているが、それはいびつである。雇用は目的ではなく事業発展の結果でしかない。

そして司会の田口氏が「今、沖縄に進出してもよい(MIJSの)企業は挙手をお願いします」といったとき、ほとんどが手を挙げなかったという現実。社交辞令ではなく、真剣に沖縄を見守っていく。だから今は甘くないことを伝える、という各社の気迫を感じました。(*1)

その後、関係者で集まった懇親会では次のような意見も伺いました。

  • 税制優遇策は日本だけでなく中国でもインドでもやっている。どこも似たようなメニューで差がない。沖縄だけ突出しているという印象は、ない。
  • コールセンターや BPO 企業の誘致はこのスタイルでもよかったかも知れないが、世界に進出する IT 企業を輩出する、という視点での支援策にはなっていないだろう。
  • パッケージ開発ベンダーにとって、開発者の人件費の安さはメリットではない。

つまり現状のままの支援策では、MIJS 参加企業にとって沖縄に開発拠点を置くといった(沖縄が期待する)誘致は難しそうです。彼らが欲しいのは「言われたことをきっちりこなす技術力を備えた、人件費の安い技術者」ではなく「リスクをとってでも世の中に提案する気概をもち、かつ、どこもチャレンジしたことのない技術を自ら試す人材」です。そして後者は沖縄である必要はないため、世界中から応募しています。

システム開発といっても受託開発と、パッケージ開発は求められている資質が異なります。沖縄は受託開発の受け皿を指向しているようにみえます。しかしこの分野はすでに中国、インド、東南アジアと競合しており、例え雇用に貢献しても給与面の向上には至りません。技術力と無関係に、世界水準となる低さで安定することでしょう。パッケージ開発(あるいは最近だとサービス開発)こそが高待遇実現の道ですが、ここは成功が約束されておらず、かつ雇用に貢献するかどうかは未知数です。

沖縄県の視点でいえば、投資に対する回収の確実性が低すぎるのです。事実、これまでも多くの企業が沖縄で起業していますが(当社も含め)全国で成功した企業はまだありません。この分野への投資は VC の管轄だ、と言われればそのとおりです。しかしこれまでの経験上、VC の投資先採択基準はかなり成功イメージが具体化できたものでなければならず、「起」の支援は世界中のどこでもできてないと感じています。

そのジレンマを乗り越えられるかどうかが、問われているのです。

これらを踏まえ、次のような案を考えてみました。(自分のブログなので好き勝手に書いてみます。)

1,000 の企業へ投資する沖縄県へ

沖縄県として毎年1,000のIT企業へ投資することを世界中に表明します。1社300万円/年間とすれば、30億円で可能です。(これは原則、人件費です。)100では少なすぎます。1,000 はインパクトのある数字です。

毎年、審査を行い、1年毎に入れ替え判断を行います。テーマを変えて再チャレンジすることを認めますが、同じ人による採用は最大3回(延長しても3年)とします。沖縄だけでなく世界中からの参加を認めますが、沖縄で起業し、沖縄で生活することを前提とします。

これら1,000の企業を定期的にプレスリリースで紹介し、沖縄で事業の進捗発表大会を実施します。この宣伝費や運営費などで、あと数億円ほど予算化してください。

この事業から VC につなげて成功する企業を出すことをイメージします。大手事業会社への売却といった展開も見込まれます。そして成功した企業は沖縄に残るかどうかを強制しません。その方がかえって、沖縄に残ってもらえる可能性は高まると考えています。

このアプローチはみすみす、血税を捨てるものでしょうか。否です。数十億円の投資は「誰もやらないことをする」というインパクトを世界中に与える宣伝効果で十分、沖縄のブランディングに貢献します。そして、リスクをとったな、と事業家に直感させることが沖縄の本気度を伝える唯一の方法です。リスクをとらない施策はすぐに見透かされます。安全側に立っている以上、世界で優位に立つことはできません。

この事業によって多くの人が沖縄に集まります。優秀な人も、そうでない人もくるでしょう。その多様性が経済交流を促進させます。「沖縄で3年やってみろ」というのがベンチャーの登竜門になれば、沖縄県が将来受け取る果実は初期投資を大きく上回ることになると思います。

いかがでしょう?

2011.10.28 追記

(*1) 参加企業様より「挙手した MIJS 企業の方が多かったのではないか。」というご指摘をいただきました。この部分は私の勘違いとし、削除します。失礼しました。

沖縄進出をリゾート開発拠点として検討していただくなど、パッケージ開発企業系としてのメリットもあると思います。そういう視点での誘致策は意味があると思っており、私自身、積極的に誘致活動に関わっていくつもりです。