中小企業の IT 化提案で、SIer にできることは、まだまだあります

業務アプリケーション開発分野では、かねてより「中小企業の IT 化は巨大な市場」と認識されてきました。そのため、これまでも多くのアプローチが行われてきました。

  • 機能を絞った、簡単なパッケージにするといいのではないか。
  • 小規模向けに価格を安くすればいいのではないか。
  • 専任のネットワーク管理者がいないので、SaaS 形式にすればいいのではないか。
  • パッケージではないが、簡単にシステムを構築できる開発ツールを提供すればいいのではないか。

いずれも、それなりの成果は出ていると思います。しかし Windows 95 の登場から15年以上が過ぎた現在、中小企業が認識している IT 化のゴール(ここまでやればいいだろうというレベル)はおおむね次のようなものではないでしょうか。

  • 一人一台の PC 環境があれば理想。
  • インターネットには接続する。
  • 電話の代わりにメールを使う。
  • FAX の代わりに Word/Excel/PDF をメール添付で送信する。
  • ウィルスチェックソフトは導入する。
  • Microsoft Office があれば業務はできる。特に Excel で大抵のことはこなせる。
  • 業務アプリケーションが必要になったら、まず市販のパッケージソフトを導入する。主に会計、給与である。
  • 販売管理はパッケージソフトまたは Excel/Access で対応する。
  • IT に詳しい人とは、PC の操作に長けて、ネットワーク障害やプリンタ障害に対応でき、無料ソフトに詳しい人。Excel/Access が使えるスキルがあればなおよい。
  • IT に詳しい人といっても専任ではないので、その点は人事考課に大きなプラスにはならない。そして本人も、そういうものだと認識している。

つまるところ IT 化とは、PC の買い替えと OS/Office ソフトのアップデートが主な業務です。それ以外の「自社の課題」は無料ソフトで何とかする、という風潮があります。

この現状に対して、SIer からの提案は「既存の予算の増額は難しいので、予算の枠内で何かを置き換える」というものでした。PC のリプレース、パッケージソフトのリプレースといったものが主です。その傍らで、セキュリティ対策(個人情報漏洩)をはじめとするニュースになるような問題が出るたびに対策ソフトを紹介していきます。結果として IT 予算のほとんどは既存システムの保守費という位置づけになり、新規購入(開発)は年を追うごとに困難になるばかりです。外回り営業の第一の仕事は、お客様のリース切れの情報をキャッチし、そのタイミングで自社に乗り換えてもらうという活動になっています。

Excel や Access が問題なのではない、ことに気付いた

例えば私たちが Wagby を使ったシステム提案を行ったとします。ツールの生産性や、使いこなせるだろうか、といった問題を乗り越えたあと、最後の壁は「やっぱり Excel (または Access)でいいです」というものです。これに対して、Excel や Access ではこういう問題があって、... と説明をしてもなかなかご理解いただけません。Wagby の機能が不足しているという明確な課題が見つかった場合は対応方法もとれるのですが、理由が定かではない場合は「Excel (Access) は強いなぁ。」で終わってしまいます。

が、ここで引き下がっては名折れです。さらに食い下がっていくほど、Excel や Access で回す業務は非効率かつ不安定であることを実感します。例えば次のようなものです。

  • 同じデータを違う部門で二重、三重に入力している。このファイルからあのファイルにセルコピー、など。
  • どのファイルが最新かを把握できない。特定の職員に相応の負荷をかけてファイルの整理をしている。
  • 巨大なファイルとなっており、開くのに数分かかったり、ひとつのマクロ処理で相当の時間がかかることもある。その間の待ち時間がもったいない。
  • たまにデータ不整合が生じたり、場合によってはデータが消失するといった不具合を抱えている。
  • セキュリティの問題には目をつぶる。本来、誰が更新したか、誰が閲覧したかを気にしないといけないデータも野ざらしになっている。

それでも Excel (Acess) で業務を継続しようとするのはなぜか。

それは経営者が、人間系によるリカバリーのコストが、新システム開発コストよりも「安い」と判断しているためです。従業員への給与は固定費であるがゆえに、システムの不具合を人間が(運用で)カバーすることにすれば費用は発生しないという発想です。

よって企業による業務アプリケーション開発の動機は、おおむね「業務量が人間による運用を超えた場合」に(仕方なく)着手するということになります。私はこれを「守りの IT 投資」と呼んでいます。

「攻めの IT 投資」をできる企業は限られている

一方で「攻めの IT 投資」を決断できる企業は限られています。そこには成長戦略があり、戦略の過程で「何かを捨て、その分を何かに集中する」という判断が行われています。多くの中小企業で、この「捨てる」ことが難しいのです。いわば前向きなリストラ - 本当の意味での事業再構築なのですが、そこには強力なリーダーシップが求められます。SIer の存在理由の一つはこの部分のお手伝いにあると考えていますが、実際には取り組む企業も、また提案できる SIer も少ないのが現状です。

再考: Excel (Acess) で業務を継続しようとする理由を見つめ直す

先に上げたとおり、経営判断は「何が安いか(得になるか)」という視点です。システム化のコストより、固定費となっている人件費の方が安い。この発想を笑うことは簡単ですが、今求められているのは、これを乗り越える新しい切り口を提案することです。それができないなら、SIer の営業は今まで通り顧客のリース切れを待つしかありません。

私の視点は、まず顧客(経営陣)に対して、「システム化によって、従業員の時間が "浮く" ことを具体的に示す」ことから始めてはどうかというものです。具体的には無料で聞き取り調査をさせていただくというのはいかがでしょう。現場を回って、一日のどのくらいを、本来やらなくてもよい、 現行システムに人間が使われているような作業(Not 仕事)に従事しているかをヒアリングします。ある程度の規模の会社であれば、それこそ月換算で何百時間という積み上げができるのではないでしょうか。数字による "見える化" は経営層に対して有効なアピールになると考えます。

ここまでは準備段階です。これからが本番です。

新システム導入によって "浮いた" 時間を何に使うのか。これが経営陣にとって大きな課題になります。ここは各社さまざまな反応があるでしょう。これまでの SIer による提案では、ここまで踏み込むことはなかったのではないでしょうか。しかし経営陣によるシステム導入の判断は、この点に関する納得できる説得材料が提示されているかどうか、によると考えられます。いわゆる経営コンサルティングの領域に踏み込むことになります。これが SIer にとっての新しい差別化戦略につながります。

お客様と直接、取引を行う SIer は、面白い

同業から仕事を回して頂く、いわゆる製造や人材派遣を主体とする SIer では、人月単価の競争が激しいことは周知のとおりです。しかし SI の楽しさの一つはお客様の IT 投資を引き出すための提案活動です。システム開発から経営戦略へ踏み込むと聞いて、それは面白そうだと感じる人には是非、お客様と直接、取引することをお薦めします。簡単でないことは承知していますが、創造性を発揮できる分野であり、非常にわくわくする仕事でしょう。

今、ユーザー企業ではシステム開発の主導権(イニシアティブ)を SIer 丸投げではなく、自社に取り戻そうという動きが活発化しています。私はそれが業務システムの正しい姿だと思い、その運動を支持しています。その結果として SIerの位置づけも従来の「要求分析、設計、開発、運用」という領域を乗り越え、お客様の経営と IT の融合という目線で活動するプレイヤーになってくることでしょう。 繰り返しになりますが、それは SIer という業態を面白くすることにつながると思っています。

おまけ:私なら "浮いた時間" をどう活用した方がいいと提案するか

興味のある方はご連絡ください。なかなかユニーク(ですが納得できる)提案材料を仕込んでいます。