ローソンの内製化にみる、これからのSIerの取り組み

先週、システムイニシアティブ研究会の例会に参加し、ローソン様の発表を伺いました。感銘を受けたので、ブログに記録しておきます。
http://system-initiative.com/wp/?p=2176

ご発表の佐藤様は同社執行役員CIOというお立場ですが、オフレコの会ということもあり、軽快に、かつ重要な点をずばりとお話されました。機微に関わる部分は書けませんので、このブログを読んで興味をもった方は、システムイニシアティブ研究会へ参加されると良いでしょう。日本でここまでユーザー企業の事例が聞ける会は、そう多くはありません。

コンビニエンスストアは、ここまで進化している

20年以上も前の知識しか持たなかった私は、恥ずかしながらコンビニエンスストアというのは「脱サラした方のパパ・ママショップ」「POSデータを使った売れ筋分析」「新商品はとりあえず店長の勘で採用してみて、売上推移を見ながら棚の置き場所を変える」「もうコンビニは飽和していて成長しない」という先入観がありました。しかしお話を伺って、これらの見方はとうに古いものであり、さらなるIT化によって「製造小売業」という新しい市場を開拓しているのだということがわかりました。詳細は触れませんが、店長は優れた経営者であること、PONTAカードの活用、配送車店舗巡回の高度化、オンライン店舗とリアル店舗の融合、地域別店舗特性、など、情報の取り扱いについてさまざまな進化がありました。そのゴールは一流のホテルが持つおもてなしの心を、数千万人の顧客一人一人とやりとりしたいというものであり、そのためにITをもっと活用したい、という明快なストーリーがあります。

内製化が目的ではないが、やるべきことをやるために内製化に行き着いた

ところでこのブログの主旨は、ローソン様が内製化に取り組んでいる背景を整理することです。いわゆる "QCD" - Quality (品質), Cost (価格), Delivery (納期) を高めるために内製化をはじめたということで、はじめから内製化ありきではない、ということでした。

しかし内製化といっても、プログラムをすべて自分で書くという意味ではありませんでした。同社のIT部門がやるべきことは「業務設計力、DB設計・分析力、UI設計・デザイン力」に特化することであり、パートナー (SIer) には「汎用化、共通化、分析、コンサル、Web開発」をお願いするという関係が成り立っています。その線引きが絶妙です。丸投げでもなく、かといってすべて抱えるのでもなく、双方がやるべきこと(責任)を明確にされているのが印象的です。

そしてユーザー部門とは常に「誰が何のために使うのか」「何にどれだけお金をかけるのか」「誰がどのように作るのか」「作ったあと、どのように使われるのか(活用計画)」を議論し、双方が納得できたところで開発に着手するということでした。この関係から見えるのは、IT部門とユーザー部門が互角の立場で、社内リソースを意識しながら優先度をつけて前進するというものです。ユーザー部門はともすれば(IT部門に)無尽蔵のリソースがあるという前提で「何でもやってほしい」となりがちです。それに対してしっかりと議論できる手順を用意していることは参考になります。IT部門がこのような立ち位置にあれば、経営の視点が芽生えます。決して無尽蔵ではないリソースをどう振り分けるかという優先順位の判断基準に、経営視点は欠かせません。

もっとも情報産業化されていないのが IT 業界ではないか

佐藤様のお話を伺い、営業・販売はすでに科学になっていると実感しました。コンビニエンスストアは金融・保険とならぶ巨大な情報産業であり、本部の重要な仕事はデータの収集や分析です。

そして各店舗の評価も、単なる前年度比何パーセットアップ(ダウン)というレベルではないことに驚きました。目先の売上よりも、いかにデータを取り入れた判断を日々、行っているかということが重要な評価軸の一つというお話です。これを「成長の持続可能性」とおっしゃっていました。

翻って、IT 業界はどうでしょう。

厳しい表現ですが、未だに技術者の「人月単価」と「稼働率」が売上要因であり、成長の持続可能性よりも目先の稼働率を重視する経営が続いているように感じます。IT 業界の情報化とは少人数化と自動化につながるため、雇用をどうするかという問題があることは承知しています。しかし今のような労働集約型である限り、世界中のプログラマとの単価競争となり、結果として労働環境の改善が難しいというジレンマを抱えています。

このような会で他業界の進歩的な話を伺うことで、私たちはまだまだできることがある、と実感します。個人も会社も「成長の持続可能性」を重視したい、という気持ちは同じです。そのためにIT業界 - 特に B to B に関わる SIer - は自らを変えるべきところは変え、お客様とどうお付き合いしていくかということをゼロベースで議論することに踏み込むことです。その必要性を内心で感じつつも、多忙を理由に先延ばししていくのは危険です。ふと気付くと多くのユーザー企業が内製化をしており、SE/プログラマの派遣ニーズはなくなっていた、ということは避けなければならないことです。

ちなみに私は SIer の「専門特化」に道があると考えており、その特化テーマの一つである「超高速開発の実現」を追いかけています。(超高速開発を実現する)開発ツールの活用によって現在のオフショア型開発とは次元の異なる高い生産性と品質、短納期を提供することができれば、SIer の存在意義はむしろ高まると考えています。