「ライトウェイト・エンタープライズ」という考え方

さった2月15日に当社主催で開催した「ライトウェイト・エンタープライズ」のセミナーが無事に終了しました。羽生さんの講演を楽しみにしていた方も多く集まり、質疑応答の時間が足りずに懇親会でも議論が続きました。私も改めて、大局を整理できました。羽生さん、ありがとうございました。

配布資料は当日参加者のみの限定公開です。とてもよくまとまっていたので、入手した方は自社内でフィードバックされるとよいかと思います。興味がある、という方は Facebook で羽生さんに直接、メッセージを送るといいでしょう。個人的なお勧めは、資料だけでなく、羽生さんに直接、社内で講師として語っていただくことです。特に SIer にとってはビジネスのヒント満載という内容です。

ネタバレを避けつつも、備忘録として、私が理解したポイントを書き連ねます。

SoR と SoE は急速に一体化する

同じ IT 業界でも、自身が携わる開発テーマが SoR なのか SoE なのかで業務内容が大きく異なっています。SoR は歴史が古いのですが、起点は「業務の効率化」でした。具体的には、本業の *ある部分* を IT によって効率化することがテーマです。
一方、SoE はまだ新しい分野で、お客様(消費者)との接客部分の IT 活用が起点です。両者はこれまで、扱う技術体系も異なってきたため、あまり接点がありません。

しかし、このままで済むはずがありません。それを示すのが、「IT in 本業」から「IT x 本業」という図式です。羽生さんの講演資料からお借りします。

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After IT 時代は、Amazon の台頭から始まります。同社は「小売 x IT」という分野の先駆者ですが、現在は同時並行で、多くの掛け合わせが進んでいます。

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こうなると「IT企業」という言葉も変質します。すべての企業は「IT x 本業」で自社の役割を再定義することを余儀なくされています。どの企業も「IT企業」になるため、その言葉自体が意味をもたなくなっています。

これまで、ビジネスプロセスといえば、社員の業務の流れを中心にしていました。しかし現在は顧客動線を意識して、全社プロセスを一気通貫させる必要があります。この視点からは、SoR と SoE を分けることができません。

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例えば Amazon を題材にします。あくまで小売という視点から、例えば「トイレに入って、今すぐトイレットペーパーを補充したいと考えたときにどうするか」という顧客動線でシナリオを考えます。そこから出てきたアイデアは次のようなものです。

すべてが顧客動線に沿っており、その改善のために IT が活用されています。これが私たちが目にしている「本業 x IT」です。
これが全産業に波及しつつある、というのが2016年時点の状況です。

鍵は「電光石火」

先の Amazon の事例で、もう一つわかることがあります。顧客動線に IT を活用する効果は、「スピード」にあります。お客様に欲しいと思っていただいたときが最大の購買タイミングですので、それを逃さないためには、注文から出荷、配送、納品すべてにおいて劇的なスピード化を求めます。これが羽生さんのいう「電光石火」です。

これまでの企業の IT 化は効率化が主体でしたが、効率化からみたスピードの改善は、せいぜい 1.x 倍といったところではなかったでしょうか。2 倍もあれば大成功という感覚です。
しかし「IT x 本業」では、求めるスピード感が違います。ざっくりいって10倍以上、最終目標は「待ち時間ゼロ = 電光石火」です。このような目標を掲げたとき、部分最適の積み重ねでは達成することは無理で、業務処理の根本的な見直しが不可欠です。これが本当の「ビジネスプロセス改善」になります。

羽生さんの講演では、要件定義に「動線設計」という概念を組み込むことを提唱していました。これは今後、多くの SIer にとって顧客に提案する重要なメッセージになるでしょう。(この内容は講演の最大のポイントなので、私のブログでは割愛します。)

超高速開発との関係性

ここからは私見です。SIer にとっての「本業 x IT」とは何か。顧客動線からみたスピード化とは何か。これは「超高速開発」とつながるのではないでしょうか。他のすべての業界が「本業 x IT」を検討していく中で、肝心のシステム開発が従来どおりの人月工数ビジネスというのは、もたないでしょう。

ここで再び SoR と SoE に視点を戻します。両者は自動化に対して、異なるアプローチをとっています。

  • SoR の自動化:プログラム開発工程と単体テストを含む。仕様策定はモデリングを中心に行われ、製造スピードは極大化(ゼロ化)させる。
  • SoE の自動化:プログラム開発以外のすべてを自動化する。仕様策定は、アジャイルなプログラミングそのものである。

いずれも自動化なのですが、SoE はプログラム自動化には向いていません。他社と差別化したプログラム(ユーザーインタフェース)が価値の根源だからです。しかし SoR は顧客動線を早く実現することが価値で、プログラム自体は汎用的な作り方でかまいません。これでだいぶすっきりします。