DX の X は "トランスフォーメーション” - その思考は、未来設計から。

私は前回のブログで「DX 的思考法は、顧客視点を貫いた先の世界を妄想すること」と書きました。そこで今回は、具体的に「学校」という領域(ドメイン)に絞って、私の DX 的思考法を紹介します。

学校の理想像を考える

あるドメインが与えられたとき、最初に一切の制約を無視した、極端な理想像を考えます。今回の例 - 学校 - でいえば、理想を次のように定めました。

生徒1名に先生1名がつき、理解度にあわせた完全個別指導を行う。

すると次の疑問が浮かびます。すなわち、生徒の隣に先生が立つのであれば、学校という施設そのものが不要ではないか?ということです。

これについては議論が発散するので、さらにドメインを初等および中等教育に絞って、次のようにとどめます。

学校という施設は必要である。人間は社会的動物であるから、学校は学問の習得の場に限らず、社会的生活とは何かを学ぶ場でもあるとする。

そうすると集団教育の負の側面も考慮することになりますが、これも現時点では「負の面がある」ということにして、思考を進めます。
理想の学校像を次のようにしてみましょう。

  • 生徒の習熟度にあわせた完全な個別指導が行われる。
  • 学問だけでなく、社会的に生きるとは何か、も学ぶ。
  • 集団になることの負の面(いじめなど)の対策も適切に行われる必要がある。

これが DX とどう関係するのかというと、現実と対比することで見えてきます。現状を次のように記してみます。

  • 生徒の習熟度ではなく、年齢によって学ぶ内容を変えている。最初の段階のつまづきをフォローすることが難しい。
  • 社会的に生きるとは何か、は各学校行事で学べるようになっているが、実際には校則等で縛ることも多い。
  • 集団への適切なケアが、すべての生徒に対して行われているとはいいがたい。

その差(ギャップ)がなぜ発生するか。それは一義的には先生を中心とした学校運営の職員の絶対数が足りないためです。さらにそれを深掘りしていくと、教育予算は無尽蔵ではない、ということにつきます。

現実を理想に近づけるための DX

ここでようやく DX が登場します。DX を、IT の力で現在の課題を解決しようとする取り組み、と位置付けます。ここで IT とはソフトウェアとハードウェアの両方を指します。これまで IT でのハードウェアというと主に PC やスマートフォンを想定していましたが、これからはセンサーやロボットなど、多種多様なデバイスを考えてもよいとします。

簡単にいうと、現実を理想に近づけるために IT の力を使う、です。今回の学校というドメインでは、どういうことができそうでしょうか。ざっと次のような案をあげてみました。

  • 生徒一人一人の学習データが蓄積され、次に学ぶ内容や、スキルチェックテストが個別に用意される。
  • 生徒は時間や場所を選ばず、学習できる環境が用意される。
  • 時間割は常に動的に定まる。年齢、習熟度、その他おおくの事柄を加味した、個人ごとの時間割ができあがる。
  • グループの中で生徒が他の生徒に教える、という機会を増やす。先生の役割は授業を行う、から、生徒への声がけに変わる。先生の声がけがリアルタイムに記録され、日々の指導データとして蓄積されていく。
  • 先生の声がけとは別に、校内にはりめぐらされたセンサー(カメラなど)が不穏な状況を事前察知する。(注:監視なので、どこまで行うかというバランスの議論は常に必要)

つまり「予算を増やして先生を増やす」ではなく「少ない先生でも教育の質・量を最大化するためにITを駆使する」方向で学校を再設計します。その時間軸ですが、私はざっくりと 2045 年としています。いわゆる AI が人間と同等になる可能性のある年です。今が 2020 年ですから、25年で理想を実現する、というストーリーです。

私たちはどこに仕事を見出すか、を考える

ここまで紹介したように、私にとっての DX 的思考とは、目指すべきゴールを先に設定することです。しかしそのゴールは予測あるいは妄想の域をでません。そんなあやふやな目標設定は信用できないとお叱りを受けそうですが、ここにポイントがあります。

社会は常に変化します。そして今後は、この変化に IT が大きな影響を及ぼすことは必定です。しかしどういう IT がこの先登場して、どう変わるかは誰にも見通すことができません。

だからこそ、この時代の経営者は、誰かが決めたゴールではなく、自分でゴールを設定することが求められていると思うのです。IT に詳しい経営者とは必ずしもプログラムが書ける必要はありませんが、近未来の技術を予測し、どこに我が社の役割を見出すかを定め、それを発信することが求められます。

もちろん正解はありません。あるのは読み筋の力、もしくは、こういう世界を実現したいという強い思いです。未来を予測するのではなく、自分が思う未来に現実を近づける。それが会社の方向性になり、賛同する人が集まる、という流れになるでしょう。

今回は学校というドメインに絞って具体的な例をあげましたが、すべての業種・業態に応用できると考えています。DX は狭い意味では「このような変化に向き合うため、組織の IT を刷新すること」ですが、広い意味では「次の20-30年をみすえた、自社の役割の再定義」に他なりません。

確かに IT は「今の」私たちの仕事の一部を代替するでしょう。しかし同時に「将来の」私たちの仕事を考えるきっかけを与えています。経営に携わるものにとって、先の見通せない世界にどう舵取りするか、を考えることができる、ワクワクする時代がやってきたと喜んでいます。