ローコード開発コミュニティ関会長の取材を隣で聞きながら。

日経コンピュータ2021年11月25日号特集「本番!ノーコード/ローコード開発」のインタビューで、ローコード開発コミュニティの関 隆明 会長が語っています。

"「笛吹けど踊らず」から10年 ローコードは経営・IT融合の要に"

実はインタビューの当日、私も同行していました。東京駅で待ち合わせて神谷町の日経BP社までご一緒するという役回りですが、インタビュー席の端で、その様子をみせていただく機会に恵まれたのは幸運でした。

SIer 出身というお立場から、ツール活用に理解を示す

関会長は(現)NECソフト社長というご経験から、多くのシステムを「スクラッチ開発(ゼロから設計し、すべて手組みで開発)」で実現されてきました。これを踏まえた結論が、ユーザ企業とSIerの双方がローコードツールの活用を前提とした開発へシフトするという意識改革が急務である、ということです。

私と最初にお会いしたのは2012年でした。当時、ICTパートナーズ協会の会長であった関様と意見交換する機会があり、私の持論と関様のお考えがほぼ同じであったと盛り上がりました。その後、ウイングの樋山社長にも相談し、超高速開発コミュニティ(現:ローコード開発コミュニティ)の設立に奔走する中で、初代会長職に是非、と関様にお願いし、ご快諾いただきました。

“私自身、理解を促し普及させるためにずいぶん動き回って企業を訪問しましたよ。ですが、ほとんど認識がない。”

インタビューでこのお言葉を聞いたとき、活動をはじめた最初の頃を思い出さずにはいられませんでした。関会長は率先してご自身の足で、交流のある各企業を訪問し、コミュニティ活動の意義を説いて回られました。ところがほとんどの反応は半信半疑あるいは、そのようなツールが普及されると困るという否定的な回答だったとのことで、お会いするたびに「理解してもらえない」とぼやいていらっしゃいました。

最初の出会いから9年半、今回のインタビュー記事の掲載をもって「これまでの苦労が実って、ローコードは普及期に入った」と総括してもいいのかもしれません。実際、インタビューを拝聴する中で、関会長の目や言葉にどんどん力が入り、後半は現役時代の営業活動を思わせるような熱さを感じました。80歳を超えても、何かを変えたいという気持ちを持ち続けるのは並大抵のことではないでしょう。改めて関会長にこの会を牽引いただけたのはよかったと思います。しかし、これがゴールでもなんでもなく、むしろコミュニティ設立から今に至るまでの停滞期がようやく終わり、これからがスタートともいえます。

日本の衰退と、IT 投資の誤りの相関を考える

インタビューでも触れられていましたが、日本のIT活用の行き詰まりは事実でしょう。私も拝聴しながら、この点を考えざるをえませんでした。私は常々、1990年代後半から顕著になった日本の緩やかな衰退と、IT活用の残念さ、には関係があるのではないか、と感じていました。

まず当時、大規模システム開発は成功例を見つけるのが難しいほど混乱していました。丸投げに起因する、ユーザ企業と開発企業同士の責任のなすりあいがあり、IT担当は損な役回りになりました。ならばと開発を諦め、ERPパッケージを導入しようとするも、これも現場からの改変要求が続いて開発・保守費が高騰し、一部経営者からは「ERPの維持のために経営している」という皮肉を込めた発言も登場しました。老朽化したシステムの再開発に二の足を踏んだことから、仮想化技術による延命措置が横行し、開発現場も保守案件ばかりになったことから人件費の安いオフショア・ニアショア開発が普及します。技術力をもった業務システム開発者は人件費圧縮という理由で去らねばならず、貴重な開発ノウハウが引き継がれませんでした。一方で現場は複雑な Excel シートをフル活用したため、ホワイトカラーが担う業務の少なくない割合が「データのコピペ」に費やされることになり、結果的にRPAによる自動化という歪みを生んでいます。これらの要因が複雑にからみあい、日本全体として老朽化したシステムの維持費に膨大なコストが支払い続けている現状が、国力の低下(他国と比較した著しい生産性の低下)につながっていると懸念しています。

ローコードの普及で何を変えるべきか

"(中略)すなわちシステムについては自分たちで考えて自分たちでつくる、というわけです。(中略)なるほど、これが本当の経営者だと感心しました。こういう社長ばかりなら、日本のDX(デジタル変革)は大いに進むでしょう。”

インタビューの、この発言に集約されます。ローコードという技術基盤を背景として、自分たちのシステムがどう動いているのかを把握し、迅速に変更できる体制を整えることです。老朽化したステムの問題点は UI の使いづらさやスマートフォンに対応していない、もしくは保守費がかかる、といったことではなく、ブラックボックス化されたためどうやって動いているのかわからないことです。

ですのでローコードという技術を取り入れる場合も、同じ失敗を繰り返してはなりません。スマホに対応したシステムを現場がつくるという視点はわかりやすいですが、それが本質ではありません。自社で管理するデータの形、流れを完全に理解し、コントロールできる体制を社内にもつこと、を目標とすべきです。ローコードが普及しようとしている今だからこそ、このインタビューで関会長が訴えていることは何か、をじっくり読み取っていただきたいと願っています。