マイクロサービスから、マイクロカンパニーへ

今年で7回目となる Wagby の祭典、Wagby Developer Day 2019 が無事に終了しました。おかげさまで事前登録は昨年を超える333名のお申し込みをいただき、当日も充実した発表で大いに盛り上がりました。ご参加いただいたみなさま、ありがとうございました。

今回は基調講演で羽生さんが話をした「DXの本質はビジネスプロセス・プログラミング!」「マイクロサービスからマイクロカンパニーの時代へ!」という部分に焦点をあてて、思うところを書いてみます。なお、この基調講演を含む、当日の発表資料はこちらからダウンロードできます。

資料ダウンロード|Wagby Developer Day 2019

BPP (Business Process Programming) の必要性

羽生さんのスライドを一部、抜粋して説明します。(もちろん、最初のスライドから目を通した方がよいので、ご興味をもたれた方はダウンロードされることをお薦めします。)これまでの基幹システムは「ヒト」が業務フローを動かすということが暗黙の前提でした。しかしDX後は「デジタル化された業務フロー」ありきとなり、誰が動かすかは重要ではなくなります。社内の業務フローを動かすのお客様かも知れません。または IoT 機器、もしくは RPA かも知れません。

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この業務フローは、内部でさらに複数のデジタルサービス化されたAPIを使います。ただしこれらのAPIは社内で提供されるものとは限りません。むしろ社外のAPIを使うことを想定した方がいいでしょう。このようにして基幹システムは「ヒト」から「プロセス」が主導するように変わります。これはヒトが不要になるということではなく、業務の大半をマシンに任せ、ヒトにしかできない業務に集中するということです。

実はこのイメージは15年ほど前に注目された SOA に酷似しています。前時代の焼き直しかと思われるかも知れませんが、IT の世界ではよくあることです。先進的なビジョンを実現するために、テクノロジーや周辺環境があとから追いついていきます。これが臨界点を超えたとき、一気に普及するのです。今回のポイントはハードウェアの性能向上、マイクロサービスを運用できる環境の登場、そして業務フローのデジタル化のためのツールの進化です。

羽生さんは、いわゆるこれまでの開発者ではなく、現場が自分たちで業務フローのデジタル化を(簡単に)行える環境の必要性を訴えていました。これからはじまる学校でのプログラミング教育も、この流れを後押しするはずです。ただしこれはプロが不要といっているわけではなく、プロに任せることと任せられないことの境界が定まり、コラボレーションできることはむしろプラスになるという考えです。私も同意します。

もっとも重要な問いは、なぜ BPP が必要なのか、です。その答えは、テクノロジーの進化スピードが加速して現実が SF に近づきつつある時代では、5年後や10年後の予測が難しいからです。このような環境でビジネスを継続するためには、単なる変化というより、常に新陳代謝できる環境を維持し続けることが必要です。変更容易性こそが、将来に対するもっとも確実な備えとなるわけです。そのために「現場自ら業務フローをデジタル化できる人材」と「それを実行する基盤」が求められています。

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マイクロカンパニー時代の到来

BPP の実行環境としてマイクロサービスは当然になってくることでしょう。誰でも簡単に、そしていつでも業務フローを変更できるようになってはじめて変更容易性を担保できます。しかし話はこれで終わりません。仮にそのようなシステムを運用できるようになったとき、会社組織はどのようになっているのでしょうか。

羽生さんと私が到達した見解は、「マイクロカンパニー」というものでした。固定された業務を間違いないように運用するためには、ミスをしないような高等教育を受けた人材と、それを支える階層組織というものが重要でした。しかしこれからは運用する側が常に業務を変化させていき、最小の手数で最大の効果を得る工夫(これがビジネスプロセスのプログラミング能力)が求められます。その結果は、緩やかな連携という関係を保った少人数構成のチームが、常に最良のパフォーマンスを発揮するサービスを提供する姿にみえました。私たちはこれをマイクロカンパニーという造語で表現してみました。マイクロカンパニーの登場は現代社会が抱える少子化や労働力の減少、そして働き方改革(無理な仕事のやり方でカラダを壊さない)という課題にもマッチしていると思います。

未来を先取りする人材育成

このように未来を俯瞰したとき、現在を生きる私たちが身につけるべきは設計スキルでしょう。

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DXを達成する企業とは、いいかえるとビジネスプロセスを自らプログラミングできる社員がいて、彼らが会社組織を牽引する体制に変えていくことです。これまでも「内製」という言葉がありましたが、その意味するところはだいぶ変わってきたように思います。ただ外注コストを削減するための手段を内製と呼ぶようではいけません。ここまでの全体像を把握して、その上で開発ツールは誰に何を提供するのか、と考えると Wagby の今後の方向性が自ずから定まってきます。来年は、この方向性のもとに Wagby のバージョンアップを行う計画です。ご期待ください!