「ユーザー事例に学ぶ超高速開発ツール」セミナー参加報告

実は本セミナーのきっかけは昨年の秋に、私と(セミナーを主催した、ICT経営パートナーズ協会の)関会長との出会いにあります。関会長から、協会としてユーザー主導のセミナーを企画したいがアイデアはないかとお話をいただいたので「ベンダー複数社を協賛とした超高速開発に関する内容は、いかがでしょう?」と提案しました。その後、同会の樋山様(ウィングの代表取締役で、GeneXusの有力パートナーです)や、IT Leaders の田口編集長のアイデアが盛り込まれ、ユーザー主体の発表およびパネルという形で実現できました。有料セミナーにも関わらず申込10日前の時点で満員御礼となり、当日もほとんどキャンセルなしという高い出席率でした。本テーマを提案してよかったと安堵するとともに、関係者とご発表者の皆様の多大なご尽力、ご協力に心より感謝申し上げます。

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このセミナーの最大の特徴は、ツールベンダー自身によるプレゼンではなく、それを実際に使われているユーザーによる生の声が聞けるというものです。発表後に田口編集長が「発表者が実にいきいきとされていた」とコメントされていたのが印象に残ります。システム開発では発注側(ユーザー)と開発側(SIer)のトラブル事例が取り上げられることが多いのですが、今回は「うまくいっている(と、少なくとも発注側が感じていらっしゃる)」ことがポイントです。各ツールの使い勝手や生産性に関する実際の声を聞けるまたとない機会であり、私自身、大いに収穫がありました。

ここでは私のメモによる、各社の発表要旨を記します。(以下、メモ表記かつ敬称略で表記)

実際のご講演資料は期間限定で以下のURLからダウンロードできます。(4月30日まで、ということです。)詳細は各資料をお詠み下さい。
http://itc-portal.jp/services/ictm-p/seminar/20130416/index.html

中小企業向け輸出入業務システムG-TRIXの短期開発 - 鈴与システムテクノロジー

  • トップバッターはGeneXus活用事例。(開発主体はウィング)
  • 同社は静岡県を中心とした140社を超える企業グループ体であり、今回のシステム開発の主体となった同社は社員数286名というSIer。
  • システム化の背景は在庫、物流効率の最適化がテーマ。調達オペーレーションがますます高度化する中、計画変更の対応は日常的に手作業でやらざるをえなかった。
  • 基幹系への反映は高コストになるため、基幹業務を補完し、低コストで使い勝手のよい開発ツールを求めていた。
  • GeneXus利用の提案(ウィング)は46人月で、他社SIerによるスクラッチ開発185人月と比較して1/3以下というものであったため採用を決める。
  • 設計から結合テストまでウィングによる受託開発(最大でSE3名,PG10名)であり、総合テストから保守は鈴与システムテクノロジーにて行う体制。
  • 基本設計着手から半年後には1次リリースを達成でき、開発されたものはパッケージとして横展開できるものになった。
  • パッケージの展開にあたっては、実行ライセンスが不要というメリットがある。(GeneXusは開発者のみライセンスが必要。)また、マルチプラットフォームで動作できることも魅力である。
  • 今後の課題:現在のマスタ管理画面は簡易なつくりとなっており、システム操作性の向上を図りたい。また同社によるGeneXus開発要員の拡充や、中国語対応も視野に入れている。

パッケージを補完するExcel活用の新開発手法 - ランドブレイン

  • StiLLを用いたExcelベースの超高速開発の発表。同社は横浜の不動産管理企業で社員数20名ほど。
  • 賃貸管理のパッケージソフトは存在するが、事務的な処理(会計系)が中心である。
  • やりたいことは、日常業務で集めた情報の整理や物件オーナー様への報告、提案といったこと。そのようなシステムを求めるとパッケージでは不可で、新規開発と変わらない。(SIerに)見積をお願いすると200万から500万となり、大幅な予算オーバー。
  • そこでStiLLを利用。基幹システムの数値データと連動し、物件毎に集約された月次レポートが自動作成してお客様に提出できるというシステムを予算の範囲内で構築できた。
  • システムはExcelをユーザーインタフェースとしたデータベースシステム。Accessとの連携も可能になっている。基幹データベースはSQLServer。
  • 開発はプログラミングというより、StiLLが提供する部品群を組み合わせることで実現するイメージ。DBアクセス、メッセージ表示といった部品が提供されている。複数部品を一連に実行することもできる。
  • 初期開発はメーカーに依頼。その後、技術講習を受けることで少しずつ自分たちで改修可能になってきた。研修やサポートが豊富。
  • 本稼働から9年以上が経過。蓄積データは数万件。
  • VBでの開発見積と比較して、コスト1/2と考えている。StiLLのライセンス費用も安い。(バージョンアップのときは購入が必要なこともある。)

アプリケーションを素早く開発 BRMS 活用事例 - 科研製薬

  • 科研製薬による Web Performer 活用事例。
  • 同社は8支店69営業所という規模。従業員数は1700名弱。情報システム部は16名(従業員数の1%に相当)メインフレームのソフトウェア資産は数千本あり、それに加えてオープン系システム、人事、会計など多くの保守を手がける。
  • 安定稼働、標準化(シンプル化)による効率的な開発を目指している。
  • 過去の経験で、既存の営業支援WebシステムがWindows Vistaで動作しなかったことがあり、新しい開発ツールを模索していた。また、会計システムはC/S型であり、各PCへのインストールの手間が問題になっていた。これもWeb化が必要だろうと感じていた。
  • 「プログラム自動生成、開発工数の削減、システム肥大化の防止、システム保守の迅速化」を解決するツールがほしい。
  • Web Performer はピュアJavaで自動生成、サーバー拡張時の費用もかからない(開発端末ライセンスのみ)。
  • ソースコード生成型なので、開発ツールベンダーが撤退しても保守できると判断した。
  • 技術習得期間は約二ヶ月。2日間の基本トレーニングとサンプル学習。Javaの経験が少ない開発者でも対応できた。
  • 一人の開発者が、1〜4ヶ月で1システム開発というペースで展開中。1ヶ月で6画面、18画面という例もあり、2年で291本のプログラム開発を達成。ツールの共通化でチーム力向上、開発者のローテーションもやりやすくなった。
  • SAPとの連携例:SAPは利用者数分ライセンスが発生するため、フロント部分をWeb Performerで開発することに。データ連携ツールを介在させて、夜間処理でSAPにデータを流し込む。この開発では科研製薬は設計中心とし、実際の開発はキヤノンソフトウェアが担当している(科研製薬では、大きな開発は外部に委託したい、という要望がある)
  • IF, CALL, EXEC, LOG, OUT といった命令の組み合わせでビジネスプロセスを実現する。これを"パラメータ設定"と呼んでいる。
  • お客様からの要望:画面レイアウトをGUIで行いたい(バージョンアップのテーマ)、タブレット端末への対応(これは済み)、印刷時にDBの更新を行いたい、といった要望があがっている。

宅配物流統合システムの集品実績管理機能の構築 - 生活協同組合連合会コープネット事業連合

  • USP研究所のユニケージ開発手法の事例。
  • 同連合は神奈川を除く関東地方1都7県の生協の事業連合。組合員数408万人、店舗数は169店舗。(2013年2月度概況)
  • 先の東日本大震災で、欠品・遅配・誤返金など、多くの問題が生じてしまった。情報共有もできず、内部も混乱した。ここから、仕分実績にもとづく一連のしくみの必要性がクローズアップされた。いわゆるBCP対応。
  • 大量欠品が発生したとしても、正確な商品トラブル情報を配達日当日にお知らせする。これをデータ連携の改善で実現。その一部である「集品実績管理機能」をユニケージで構築した。加工後のデータを再びシステムに戻す。
  • ユニケージ採用のきっかけは、成城石井で実績があるというのを同連合の役員が知っていたため。データベースを使わず、すべてテキストで扱うという手法が、今回の要件に適合した。
  • 例えば self 4 2 file というコマンドは、入力ファイルの4列目,2列目を出力する。このようなコマンドが多く用意されている。
  • 今回は(テキストファイルの)レイアウト変換、フィルタ抽出、チェック、カウントという処理を行っている。1日の処理レコード数は実績値で320万件ほど。
  • シェルスクリプトの開発本数は62本(ステップ数14,177行、半分超はコメント)。これをUSP研究所に開発委託した。おおむね2.2人月。
  • 排他制御とメモリ不足というエラーが発生したことがあった。DBMSやミドルウェアを使わないため、プログラムのミスが障害に直結する。ただしメモリを増やすことで対応できるなど解決策もわかりやすく、致命的ではない。また、DBMSを使うときによくあった「何故遅いのか」といったトラブルはユニケージでは逆に発生しない。
  • システム構成がシンプル、わかりにくい障害も起きにくい、DBMSのような複雑な設計が不要、リプレイスが簡単といったメリットを感じている。ユニケージコマンドが便利でプログラミングに関する技術的ハードルは低い。
  • リッチクライアント開発が困難。例えば Windows Form の画面との連携は SOAP を使うことになる。(他社実績あり)この点は、他社製ツールとの連携を模索することも考えられる。

品質管理の見える化 "WebIMS" - 国際航業

  • 最後はWagbyの事例。
  • 国際航業は「空間情報コンサルティング」を主体とするビジネス。航空測量から出発している。お客様の多くは地方公共団体。
  • ISO9000シリーズをはじめ、QMS,ISMS,PMS,ECMS,RMS,OHSMS,EMSを取得してきた。これを統合してKKC-IMSと呼んでいる。それぞれのマネジメントシステム(MS)毎に書式やルールがあり、運用が大変だったので、これを統合することは社内の重要課題であった。
  • 品質管理は本来、日々行うもの。このデータベース化の必要性がWagby利用のきっかけになった。
  • Wagbyのトライアルキット(無償)でプロトタイプを1週間で構築。その後、代理店主催の研修を1日受け、本番系を2週間で実現した。開発者は1名(日常業務との兼業)。
  • 基幹系の物件基本DBと、品質管理DBの各データを連携している。ERPからCSVでファイルを取得し、Wagby側で取り込んでいる。
  • 現在の利用者は部員70名。業務責任者、営業、品質管理者など。小規模PCサーバだが、運用して4年になるが支障なし。データベースはMySQL。
  • 開発システムは、プロジェクト毎の業務の進捗が一覧できるようになっている。PDFファイルの添付も可能。さらにWagbyからCSV形式でファイルをダウンロードし、Excelと連携して一覧表を用意することで分析も実現できている。
  • 全文検索機能も活用している。添付ファイルの検索もできる。蓄積されたデータはナレッジデータとして活用できると期待している。
  • 項目定義やレイアウト、権限設定をすべてExcelで定義し、ビルド処理を行うとシステム一式を完全に自動生成する。
  • 本システムの導入効果:これまでは他の部員の進捗を把握していなかったが、導入後は「きちんと計画を立て、タイムリーに記録を残す」という社内文化が芽生えた。
  • 担当者毎のWebIMSデータ登録率が100%に近づくほど、トラブル・クレーム発生率が0%に近づくことが実証できた。(トラブルを抱える人は、日々の入力をきちんと行っていない)
  • 今後の予定として、社内の基幹システム連携、リスクの事前把握も行いたい。データが蓄積されているので、可能ではないかと考えている。
  • 今後は全文検索の拡張や、NoSQL型DBへの対応を希望している。Wagbyユーザー会があるので、ユーザー同士でSNSで連携してもいいかも知れない。

各ツールについての感想

Wagby, Web Performer, Genexus はいずれもソースコード生成型で、完成したアプリケーションの見た目や使い勝手も似ています。後半のパネルディスカッションを通してわかったことは次のようなものです。

  • Wagby は生成されたJavaソースコードに直接、手を入れることを想定していますが、他はそうではありません。Web Performer は別途開発したJavaコードを呼び出すことができます。GeneXus はすべて GeneXus の仕様書で完結させます。(生成されたソースコードは「成果物」という扱いで、変更できるものではない、という位置づけです。)
  • ウィング、キヤノンソフトウェアいずれも(ツールによる)受託開発も行います。一方、ジャスミンソフトはWagbyの機能拡張ならびに教育・コンサルという形で関わり、実際の開発はパートナー企業(Wagby代理店)が行うという体制になっています。
  • ライセンスに関する考え方も各社一様で、どちらが安いと一概に言えるものではありません。一つの案件で閉じる場合はWagbyが有利に見えます。複数の案件をこなす場合は、いずれも似たような価格になりそうです。

StiLL は「Excelをフロントエンドに使いたい」というニーズにうってつけです。ところでStiLL自体もOffice 365などの登場にあわせてWeb版も提供する計画があるということでした。マイクロソフトの戦略の上で展開されていくのだと思います。

ユニケージ開発手法は、田口編集長が「どこで儲けているのか」と心配されるほどシンプルなビジネスモデルが印象的でした。お客様が自分で使えるようになるまで支援するが、使えるようになったところで、後は任せるというものです。ランニングコストも安価でした。Unixでのテキストファイル操作はもともと定評がありますので、そこに(Unix専門家の)アドバイザーが入るというように捉えると、わかりやすいかも知れません。

今は競合ではなく、市場拡大の時期

終了後の名刺交換では、このようなツールがあることを(今回)はじめて知った、という声が多くありました。そうなのです。まだまだツールによる開発はマイナーであり、国内の開発の多くは「(オフショアなど、人件費単価を抑えた上での)スクラッチ開発」が主流です。よって今は各ツールの細かい機能の違いを並べるのではなく、複数のツールが日々、切磋琢磨して機能向上に努めており、それを使っているユーザーがいらっしゃるということを知ってもらうことが大切です。

マーケティングでは "3" という数字が重要です。例えばRDBではOracleだけが存在していても目立たず、そこにマイクロソフトとIBMが加わって競争状態が活発化してから市場が拡大しました。直近だとクラウド系でもAmazon,Google,マイクロソフトが揃ってから盛り上がりが加速しました。私は「超高速開発ツール」という分野でも同じことが起きると考えています。1社だけだとまだ様子見で、2強でも力不足。3社競合になってはじめて市場が活性化することでしょう。私はその可能性を Wagby, Web Performer, GeneXus に感じています。

小さな一歩ですが、この3社ツールの関係者が一同に介し、相互の製品の特徴を理解できたことは重要でした。各社に共通している思いは、スクラッチ開発では生産性向上にどうしても限界があり、ますます多様化、高度化するお客様のニーズに現場力だけで応えることは困難だということです。業務アプリケーション開発は自動化がすでに進行していることが今回のセミナーではっきりと示されました。今後のSIは自動化ツールを効果的に取り入れ、本当に差別化が必要なところに開発者を投入するというメリハリの発想が求められます。関係者がその視点で共通のマーケティングを展開しつつ、それぞれが自社ツールの機能向上に取り組む姿勢を継続することが、自動化ツールへの信頼性向上と、市場拡大につながると感じています。