2019年、SIer 自身にとっての DX が問われる一年

昨年11月に開催した Wagby Developer Day 2018 のレポート記事が掲載されました。

it.impressbm.co.jp

当日、私はユーザー企業にとっての DX について私見を述べたのですが、よく考えてみると DX は全業種・全業態に適用されるものであり、そこには当然、システム開発をなりわいとする、いわゆる SIer が含まれます。そこで 2019 年最初のブログは、この SIer にとっての DX について考えたことを書いてみます。

従来型の基幹系路線 vs 儲かるITを提案する路線

SIer はユーザー企業のシステム開発を担うわけですが、そのシステム開発テーマは現在、SoR と SoE という区分で捉えられるようになっています。つまり「従来型の基幹系路線」でいくか「儲かるITを提案する路線」でいくか、です。

SIer の視点からみた、前者(基幹系路線)の問題は次のとおりです。

  • 現行システムの保守ビジネスは今でこそ手堅いものの、いずれ縮小されることは自明である。
  • 保守ビジネスは人海戦術 = 安価な技術者を求められるため、単価の安いエンジニアを充てざるを得ない。しかしこの分野は古い技術を使い続けるため若いエンジニアは魅力を感じず離職してしまい、一方で高齢のエンジニアへは給与を上げられない分野となっている。
  • 基幹系の新規開発をこれまでのようにスクラッチ開発すると赤字プロジェクト化するリスクがある。しかしパッケージをそのまま使うということはユーザも納得しない。勢い、パッケージのカスタマイズが主流になるが、それは我が社がどのパッケージを担ぐか、ということにつながる。有名なパッケージはすでに担いでいる同業も多く、その中で選ばれるとなると我が社独自の差別化要因が必要だが、それを低価格としてしまっては成長性がない。とはいえ価格以外の面でアピールするには経験が不足している。よって新規案件の獲得は厳しいといわざるをえない。

では後者(儲かるITの提案)はどうでしょうか。

  • 基幹系分野のエンジニアは仕様ありきという発想だが、儲かるITという視点は企画 = 仕様をお客様に提案することが求められている。
  • 単にスマホアプリをつくりましょう、という時代はとっくに終わった。マーケティング、Web、異業種連携などを加味した「仕掛け」づくりがメインであり、どちらかというとシステム開発というよりも広告会社のような企画性が重要である。そのような分野でお客様に得心いただける内容を既存の自社エンジニアだけで行うのは難しい。
  • このようなビジネスを実現している、若手エンジニア主体の会社があることは知っているが、これまでの我が社の企業文化とまったく合わないように感じる。

このように既存ビジネスの延長も先が見えているが、さりとて(儲かるIT分野への)転身も容易ではない、というのが多くの SIer が直面する課題でしょう。すなわち SIer にとっての DX 対応とは、この現状にどう向かうか、という経営戦略の立案ということになります。我が社の開発チームにアジャイルを取り入れてみようとか、AI や IoT の実験をしてみよう、というレベルの話ではありません。

問われているのは「志」ではないか。

これらを踏まえ、改めて DX というキーワードが投げかけているのは、自分たちはお客様に何をして喜んでもらいたいと思っているのか、という創業当時の「志」ではないかと思うのです。そこにプロフェッショナルとしての「矜持」を掛け合わせて、やるべきサービスを位置付ける。つまり

SIerの新ビジネス = 創業時の志 x プロフェッショナルの矜持

という目線で捉え直すチャンスでもあります。これは「今 AI が (IoTが/RPAが) 流行っているから、ウチもはじめよう。」という発想から一歩引いて自社の将来像を描いてみる、と言い換えることもできます。

実際、このような目線で私は何を考えたか。それは「時代に沿った新しい基幹系の開発スタイルを提供する」ことで、お客様に喜んでいただこうというストーリーです。社会には何かしら進化の方向性というものがあって、その流れに「乗る」ことが「自然」であり、そのような流れを見つけ、多くのお客様を誘導することが、ひいてはお客様のためになるというはずだ、という発想がベースにあります。

では2019年以後の基幹系とはどういうものか。私の見立てでは、それは「儲かるIT」を支えるという視点をもつということです。そのために現行システムを解体し、再構築することに意味を見出すことができます。これは規模によっては数年もかかるでしょうから、数年先を見据えた設計が必要です。その要件はこうなることでしょう。

  • パブリッククラウドで動作すること。
  • Excelマクロによる業務フローを一掃し、適切なセキュリティの仕組みのもとでデータを管理すること。
  • パッケージソフトの利用に際してはカスタマイズを廃し、そのまま使うこと。これまでパッケージに対して行っていたカスタマイズ要件は自社業務アプリケーションとして分離し、パッケージソフトとは疎結合の関係で業務を回すこと。

このような要件を実現するための自社業務アプリケーションを「はやく」「安価に」構築するための SI サービスを提供する。これが SIer の(古くて新しい)原点であり、かつ新ビジネスになりえるのではないかと考えています。

従来型の SI ビジネスとの根本的な違いは、工数で稼ぐモデルからの脱却です。工数モデルは「時間をかけるほど」売上が伸びるという構造であり、これが少なからずお客様にとっての不信感につながっていました。これからの時代にあった基幹系を、時間をかけずに提供することができるビジネスモデルの提供が、SIer にとっての DX といえないでしょうか。

儲かるITの提案はどこへいった?

ここまでの話には、儲かる IT について触れていませんでした。実は、既存の SIer でこの分野に進出できるところは限られているというのが私の所見です。これは(能力がなくて)できないということではありません。一つの会社で「業務系」と「儲かるIT系」を別部門として存続させるためには、給与体系の変更を行わざるをえないと考えているためです。

「儲かるIT系」は請負主体ではないため最初は売上も少ないでしょうが、うまくいけば少しずつストックビジネスが回り始めます。そう聞くと多くの経営者は「立ち上げ期は給与は少ないとするが、うまくいったときにはボーナスを支給するということか」と感じるかもしれません。

そうではないのです。

売上がゼロの状態であっても、最初から高額(これは優秀という意味です)のエンジニアを招聘し、社会にインパクトを与えるサービスを提供するのが、儲かるIT系ビジネスの進め方なのです。つまり大きな初期投資が必要だが、成功率は低いという世界です。もちろん優秀なエンジニアにきてもらったからといって必ず成功するわけではありません。しかし初期投資をケチると、ほぼ成功しません。厳しい世界です。

そのため、上からの指示で「この分野をやりなさい」といってうまくいくことは、ほぼ皆無だろうと考えています。

一方、もし自社内で「儲かるIT系ビジネスをやってみたい」という、リードできる人材を発掘できたときは僥倖です。最終的にはその人を社長にして分社化することを視野に入れ、応援するとよいでしょう。そういうベンチャースピリットが求められる世界です。*1

私たちと一緒にやってみませんか?

私たちが提案する「Wagby」は開発ツールですが、どちらかというと(前半に述べた)「従来型の基幹系路線」の新しいスタイルを提案することを意図しています。これは多くの SIer にとって取り組みやすいテーマと思います。この「次世代の基幹系」構築をお客様へ提案するビジネスに Wagby を採用していただけることを願っています。

構造的な変化は想像以上のスピードで進行しています。是非とも「今年はわが社が先頭に立ってお客様を変え、社会を変え、それによって次の黄金期を築く!」という強い意志をもって新年を迎えましょう。

*1:ちなみに大手ユーザー企業の「儲かるITシステム構築」の開発に参画する、というビジネスモデルは(構築ノウハウは得られるものの)従来型のヒト派遣型SIビジネスモデルと同じなので、SIer にとっての DX ビジネスとは解釈していません。