中小企業向け IT ビジネスは、いずれも成功していないという事実を直視する

"SMB" と略される中堅・中小企業向けの IT ビジネスで、成功したといえる企業がない、と言われて久しいです。まずベンダーである IT 企業側の声はおおむね次のとおり。

  • 受注金額が低い(月額なら10万円以下、開発一式でも数百万程度)が、要望が多いため、赤字プロジェクトになってしまう。
  • パッケージソフトを提案しても、相当のカスタマイズを要求される。(しかしカスタマイズ費は捻出できない)
  • IT に関する基礎知識が不足しており、システム管理者がいないため、ちょっとしたトラブルにも慌ててしまう。

つまり利益率が低く、手離れがよくないと認識されています。しかし市場そのものは大きいため、無視できるものではありません。

続いてユーザー企業側(中堅・中小企業)の声はおおむね次のとおり。

  • 一人で複数の業務を行っており、会社・組織毎に業務ルールが異なる。よってパッケージではなく、自社オリジナルの業務を支援する IT が必要。
  • Access や File Maker でシステム化を行い、ファイルサーバでデータ共有を行っている。負荷の高い使い方をすることでトラブルを経験することもあるが、かといって代案がない。
  • システム開発費を削減するため、個人やアルバイトにシステム開発を依頼することもある。
  • システム管理者の人件費を負担できない。

つまりベンダー側とユーザー企業側の意見の隔たりは埋めようもないほど大きいのです。

これに対するベンダー側のアプローチは各社とも似ており、次のとおり。

  • 大手企業向けに開発したシステムの機能を削り、再パッケージングする。価格を安くする。
  • 地域に根ざした小規模な IT 企業と連携を図り、保守を任せる。このような企業を開拓し、連携することで拡販を図る。

ところが、この方針にもユーザー企業は満足されていません。

  • 基本的に業務パッケージでは済まない。カスタマイズは必須。しかしその開発費の負担は難しい。
  • 地元企業による保守は歓迎だが、システムの改修を安価に行えることが重要。現在の保守体制は、PC の障害対応レベルであり、システム改修を行ってもらえない。

ではオープンソースではどうか。これについても、カスタマイズ部分で開発費が発生する以上、同じです。初期コストが安くても、カスタマイズに関わるコストが現状どおりであれば、手が出せません。

その流れの中で登場したアイデアが、経済産業省が主導された J-SaaS だと考えられています。50 万社の中小企業に先進的な IT を安価に届けるという目標を掲げていました。しかし最近の報道では、実績は目標の 1/100 以下の 5000 社にも届かず、150 社程度ということでした。

なぜ受け入れられなかったのか、という考察には、さまざまな解釈があるでしょう。
私見では、提供価格や、サーバを持たなくてよいということは評価されたものの、「カスタマイズできない(パッケージソフトが月額利用料金になっただけ)」ことが問題だったのではないかと思っています。

このカスタマイズというのも、ベンダー側に誤解があります。中小企業だから、画面の色やフォントサイズが変更できれば良いだろう... というレベルではなく、むしろ大企業が指摘しないような、非常に細かい変更を要求されます。それでも大企業向け案件であれば、要求定義の段階でコンサルタントが加わり、使われない機能を開発しないようにシステム化の範囲を整理するといった調整が行われますが、中小企業の場合はそれもありません。結果として「まず、つくってみた。やはり使いにくい。ではこうしよう、ああしよう。」といった試行錯誤の連続になります。これは良い意味で PDCA サイクルなのですが、そこに膨大な追加コストが発生するため、実際にはこのサイクルは回りません。

つまり、この市場を攻めるための武器は次のような要件を満たす必要があります。

  • パッケージではなく業務テンプレート形式での提供+自社カスタマイズ可能となっていること。
  • システムの詳細に至る部分まで(DBの構造から機能、UIまで)徹底的にカスタマイズできること。
  • カスタマイズは自分たちで行えること。修正のたびに開発コストを負担することができない。
  • 運用負荷が低いこと。できればボタン一発で安定稼働し、煩わしさが一切、ないこと。
  • 一つのシステムで何でもできること。複数システムの混在は運用負荷が高い。
  • 価格が安いこと。東京の中小企業の価格帯が月額 10 万円(年間120万円)であれば、地方はその半額程度まで下がる。
  • これからは iPhoneiPad, Android といった非 PC 環境で動作すること。

どこが先に、このような製品・サービスを提供できるか... 目標は高く険しいですが、壁が高いほどチャレンジのしがいがあります。