ソフトウェア品質の新基準「生産量は小さく効果は大きく早く」

先週掲載されたPublickeyの次の記事は、私にとってインパクトの大きい内容でした。

「ビジネスが変わればソフトウェアの品質も変わる。ソフトウェアがビジネスの鍵を握る時代の新しい品質とは。ソフトウェア品質シンポジウム 2014」
http://www.publickey1.jp/blog/14/_2014.html

東京海上日動システムズ前社長の横塚氏は(直接お会いしたことはありませんが)日経コンピュータの連載記事などで存じ上げていました。立ち位置はユーザー企業からみたエンタープライズシステム開発への提言者と理解しています。

文中では

ソフトウェアの新しい品質とは、ソフトウェアがお客様にとって新しい価値を生み出しているかどうか、そこに大きなポイントがくると思います。

とあります。この「品質とは(利用者側にとって)価値を生み出しているかどうか」という視点は、他でも聞くフレーズなのでそこに目新しさはありません。しかし続けて登場した定式化は、私には新しいものでした。

ソフトウェアの新しい品質とは、

(効果 / 生産量) * スピード

を極大化することであるという定義です。文中にもあるように、これを最大化するためには、生産量を減らし、スピードを上げることが必然となります。横塚氏の発想では、すでにインターネット上で活用できるクラウド(的なアプリケーション)を組み合わせ、さらに自社業務ルールはルールエンジン(いわゆるBRMS的なもの)を活用することで、なるべくプログラムを書かないというアイデアのようです。超高速開発というキーワードはありませんが、「なるべく作らない = プログラムを書かずに開発する」という土台は共通しているように感じました。

もちろんバグがあってもいいから開発スピードを重視する、ということではありません。その逆で、バグを減らすことと開発スピードを上げることは両立可能、ということです。開発ツールの高度化により、その実現性は格段に高まっています。

これを突き詰めていくと、ユーザー企業は自社が仕様を渡し、開発会社がそれをつくるという関係性を変えたいのだ、と読み解くことができます。私の解釈では、ユーザー企業が開発会社に求めているのは次のことです。

  • インターネットの最新技術(スマートフォン以外のウェラブルデバイスも含む)をとりこむことで、こういう切り口でビジネスができるということを提案してほしい。
  • その実現のための基幹系の変更、業務フローの見直し、最新技術の取り込みといった開発要素を「最小限」にして、スピードを重視するような開発を提案してほしい。

これを大手ユーザー企業ならびに先進的な分野にチャレンジしたい中小企業の声だとすると、一方で、そのような発想に組織がついていけないというところとの二極化が広がっていきます。一昔前、IT 化とは OA 化のことで、一人一台のパソコンを渡して、ExcelとWordとメールが使えるようになればいい、という解釈がありました。基幹系業務に ERP を導入することが IT 化だと理解していたトップ層も多かったと思います。しかしそれらは真の意味で IT を自社の成長につなげるものではありません。

そのニーズを汲み取って、ユーザー企業に提案できる SIer は、非常に面白いビジネスができることでしょう。しかしそのビジネスは、これまでの人月制度をベースとした開発見積では成立しません。正確にいうと、ユーザー企業が納得しません。小規模な提案型のプロジェクトチームを主体とし、開発工数を削減することがお客様であるユーザー企業と、自社の利益につながるような仕組みを確立する必要があります。

私にとってPublickeyの記事は、変化は着実に起こっていることを改めて実感するものでした。私たちもその流れに間に合うよう、意識する必要があります。