低コストで長寿命というのは、業務アプリケーションの大切な非機能要件

(当社が開発しているローコード開発ツール)Wagbyをリリースしたのが2006年。その頃に開発され、今も現役で稼働しているシステムがいくつもあります。もっとも古いプロジェクトの保守契約が16年目に入りました。おそらくこのまま20年を迎えるものも登場することでしょう。

16年前の運用開始ということは2007年カットオーバーですね。同じシステムを仮に Java ベースで作ったとすると、日本では当時 Seasar ベースの Web アプリがトレンドでした。コントローラは Struts, DB 連携にS2JDBC を使い、UI は jsp + jQuery で Ajax 対応でしょうか。Java は 6 ですね、懐かしいです。ちなみにWagbyも当時 Struts 1 を使っていました。Spring / Hibernate も1系や2系といった版をベースにしていました。

ここから仮定の話です。もし私が一人の開発者として、2007 年に Wagby を使わず、フルスクラッチで開発したとします。そのアプリを2023年までどうやって保守したでしょうか。お客様と何らかの保守契約を締結し、セキュリティ対策として毎年、同梱するミドルウェアをバージョンアップしつつ…おそらく Struts 1 のサポート終了と、そのあと発覚した Struts 1 脆弱性問題の前後で大きな作り直しを余儀なくされたことでしょう。また Java や OS のサポート終了に伴うバージョンアップも(通常の保守契約とは別に)作業費をいただいて対応したと思います。仮に人件費として年間100万円かかるとします。100万円 * 16年で1600万円。これに不定期で発生する、大幅な改修費を含めると... トータルでかなりの金額です。そうなるとお客様の判断でサポートを終了し、あとは塩漬けにして運用するという可能性も出てきます。放置されたアプリケーションは動作し続けるかもしれませんが、内部がブラックボックスとなったレガシーアプリと化し、2023年にはDXの足枷として、槍玉にあげられている...かもしれません。

ここで書きたかったのは、業務アプリケーションは想定以上に長く使われる可能性が高いことと、その間の保守コストは無視できない金額になるという事実です。さらに保守コストには、機能向上にはつながらないもののセキュリティ対策として大幅な改修が必要なものが含まれるということです。私たちの経験からは、20年は使われる可能性があるのだ、ということを皆さんと共有させてください。

ここまで整理できたところで、Wagbyでの運用成果を確認します。Wagbyご利用のお客様は、当時のバージョンで開発したシステムを、その後のバージョンアップ版に移行できています。実際のところ、バージョンアップのたびにWagbyの内部アーキテクチャも変わっており、対応OSも更新され、Java のバージョンアップにも追随しています。利用ブラウザも変わり、タブレットやスマートフォンも登場しました。その期間、お客様視点での大きな作り直し(つまりコストの発生する再開発)は一度も行っていません。当時の設計情報を(多少の仕様変更は行いつつも)原則として、新しい Wagby に読み込ませてビルドすることで運用されています。

当社が長年、Wagbyに取り組んできた事実として、Wagby開発チームは「どうやって業務アプリケーションの長寿命化を低コストで実現できるか」を念頭においてきました。10年、20年と使い続けるアプリケーションの基盤は「設計情報」であり、そのときどきに生成されるアプリケーション自体を長持ちさせる必要はない、という方針は有効でした。設計情報が(生物の)DNAに相当します。DNAから生成されるアプリケーションは、あたかも細胞のように古くなると捨てられて再構築されます。新しい細胞は新しい環境に適応するように配慮していけば、長生きできるというアプローチです。この仕組みは保守コストを激減させます。Wagbyの場合、Wagby本体の保守コスト(1本あたり年30万円相当)で済むためです。低コストで長寿命というのは、業務アプリケーションの大切な非機能要件だと考えていますが、これまであまり語られていなかったことではないでしょうか。

BSIA×CIO賢人倶楽部共催 シンポジウム2023 のご案内

きたる8月30日に東京・秋葉原UDXギャラリーで「BSIA×CIO賢人倶楽部共催 シンポジウム2023」が開催されます。

www.seminar-reg.jp

発表プログラム(一部)

ジャスミンソフトは当NPO法人の主旨に賛同し、会員企業になっています。8月のシンポジウムでは、長くWagbyを使っていただいているお客様であるプラスエンジニアリング株式会社の浅野様が登壇されます。東北地域の製造業としてWagbyで開発したアプリケーションが評価され、令和4年11月に「TOHOKU DX大賞 最優秀賞」をいただいてからは、ひっきりなしに視察があるということでした。今回、ご発表を快諾していただいた浅野様ならびにフォローいただいたWagbyパートナーの株式会社パルシス様に、このブログでもお礼を申し上げます。ありがとうございます。

会社の業務アプリケーションを Wagby という基盤で成長させ、時間をかけて独自の ERP へと進化させつつ、今もまだ開発を続けられている。私にとって理想的な業務アプリケーションの付き合い方です。

業務アプリケーション開発に携わる方には「どうやって作ったか」は興味があるでしょうが、「どうやって長く保守していくか」という観点からも、是非ともこのご発表を参考にしていただければと思います。