「無駄の排除」と「効率の追求」は、違うもの (2) 「フリーズする脳」から

効率化を追求した現代社会において、私たちの脳が「フリーズ」することが増えている、という指摘です。効率化によって人間の行動がパターン化されてくると脳の高度な活動が停止し、結果として「とっさの状況把握」と「臨機応変な対応」ができなくなっていくというもの。私自身、「あぁ忙しい」と言い続けている中で、本当に「創造的な」ことをやっているのは実はわずかしかないのでは?と、自省しました。

本書の中で、印象に残っている事例を列挙します。

  • カーナビによって、脳の高度な空間認識活動が使われなくなってきている。カーナビがないと、近所であっても、どこを走っていたかわからなくなることがある。
  • インターネット上の検索機能の発達により、脳の能力である「記憶の引き出し」が使えなくなっている。ちょっとしたことでも思い出しにくい。
  • 「カクテルパーティ効果」(複数の人が話している会議の場などで、ある特定の会話に耳を集中させる能力)が使えなくなってきた。物忘れではなく、そもそも聞き取れていない。結果として会話についていけない。

特に IT 業界に従事している SE やプログラマは「常に高速道路を走っている状態」であり、その結果として意識が低下、集中力が持続しないために労働時間が伸びるという悪循環に陥っているという指摘は的を得ていると思います。今、IT 業界の「うつ病」問題がよく取り上げられるようになっていますが、本書を読むと「うつ」と「フリーズ脳」は異なるものであることがわかりました。区別は難しいでしょうが、マネージャクラスの方々は知識として「フリーズ脳」の原因と対処方法(これも本書に明記されています)を知っておく必要があると思います。

さて、タイトルに話を合わせます。システム開発において私が重視するのは「データの重複登録の排除」です。これは「無駄」の範疇であり、結果として整合性が合わなくなるという致命的な問題が発生します。マスターデータ管理(MDM)は、まさにこの点を改善するものであり、IT が役立つ部分です。

一方、人間の高度な思考を補助するツールは、便利であるが故に、一歩引いてその使い方を考える必要があるようです。便利なツールを使うために仕事を「単純化」してしまえば、結果として「フリーズ脳」になってしまいます。無駄は排除するが、(ある種の面倒さも含めて)人間が考えるべき部分を適切に残すこと。そこまで配慮したシステム化を考える時期にきています。

余談ですが、次のネタも面白かったです。

  • より集中して勉強をしたいため退職し、一切の無駄な作業を排除して勉強時間を増やした結果、集中できなくなった。
  • 「できない」上司の元でバリバリと仕事をこなし、周りの評価を得ていたが、自分が上司になったとたんに仕事ができなくなった。

人間は、ある程度の制約を受けた環境の中で、苦労してもがくというプロセスが大切なのだと、あらためて考えさせられました。