大学生向けの講義「ITの未来を切り拓く:後輩たちへのメッセージ」:続き

昨日、講義を終えました。聴講してくれた学生の皆さんの積極性に感心しました。私が学生の頃よりも、はるかにモチベーションが高いです。就活が厳しさをます中で、鍛えられているのだろうと思います。

起業に興味を示す学生との意見交換は私にとっても多いに新鮮です。皆さんの成功を祈ります。

最後に、事前アンケートの未回答分について、整理しました。何かの役に立てば幸いです。

Q. 余暇、休暇の過ごし方は如何でしたか?例えば海外旅行は行きましたか?またどこに行きましたか?それは見聞を広げるという点でいいのでしょうか?情報産業は国内だけでなく世界を視野に入れることもできます。そして、まとまった休みが取れるのは学生のうちとよく社会人は口にします。確かに学生は時間があるのかもしれませんが、お金はありません。そのようなグローバリズムの中で、学生の頃の休暇の過ごし方について、なにかしらためになったことがあれば、先の質問と絡めてお願いします。

A. 海外は確かに興味があって、20代の頃になけなしのお金をためて米国、欧州へ行きました。観光程度なので、残念ながら、ためになる話はできません。ただその後にインターネットが普及し、一気に世界の距離感が縮まったと実感します。Google の Earth や Map には驚くばかりです。

ところで海外から日本を、東京から沖縄をみるという視点はもっておきたいと思っています。私はもう沖縄を出て生活しようとは思っていません。しかし定期的に外へ出て、県外、海外の人からみた沖縄、日本論を語り合うのは好きです。どこの国、どこの地方ではどういうことをやっていて、それが良いと思えば我が社や、沖縄でもできないかと発想を膨らませます。

Q. インターンシップまたはそれに準じるものはしましたか?またインターンシップはやはり情報産業系の会社へ行ったのですか?自分の夢がはっきりしているのなら、インターンシップもその業界にほうが好ましいのでしょうか?一見関係のなさそうな分野の仕事も経験して回り道することは、またしたことは今の職にどのような影響があると思いますか?

A. インターンシップは NHK に行きました。高校時代は放送部だったので、本格的な機材の扱いや放送現場に興味がありました。高校野球の中継で奥武山公園に同行したりと、いろいろ面白い体験をさせていただきました。将来就職する職種が決まっているなら、インターンシップは思いっきり違う分野を試してみるのも良いと思います。

Q. Microsoft社の創設者ビル・ゲイツ氏は学生の頃から温めてきたネタで今現在栄華を極め成功を収めています。多くの成功者とはやはり学生の頃から意識レベルが高いという共通項でくくることができます。社長は学生のうちになにかプログラミング開発をしましたか?それは何ですか?そう至った経緯は?作成期間はどのくらい?

A. まず、社内には私より優秀な技術者ばかりです。さらに全国には「すごい!」と感嘆する技術者が大勢いらっしゃいます。日本 Java ユーザーズグループの幹事職を引き受けさせていただいているのですが、その活動を通して素晴らしい人たちと出会えます。つまり私のプログラミングスキルはビル・ゲイツさんと比べられるほど高くはありません。しかし何よりプログラミングは好きです。今も時間があれば書きますし、新しい技術に出会うとワクワクします。

次に、私自身はまだ世間的な評価尺度でいうところの「成功者」ではないと考えています。成功の定義は人によってさまざまですが、当社が提供する製品・サービスを使っていただけるお客様が今の 10 倍から 100 倍くらいの規模にしたいというのが一つの目安です。しかし、その目標に向かってひたすら走っている現状は、幸せなことであろうとは感じています。それが学生の皆さんの目から成功しているように見えるのであれば、それは私にとって嬉しいことです。

Q. 経営や工学、情報産業などの専門以外の分野の科目や講義、またはそれについての知識は今の職にどのような影響を与えていると思いますか?役に立っているのかそれとも使わないのか?なぜなら、学際性が謳われるグローバリズムの中で、例えば考古学と情報産業はつながりにくい。解析のために使われるコンピュータやソフトの開発といった視点から見れば容易ですが、学問的にはまったく異なるものです。いわゆる「一般教養」の重要性についてどう思われますか?

A. 私はどんな分野にも興味があるので、日常の仕事の中で、いつも何かとつながります。学生の頃はいわゆる教養科目と呼ばれる講義に進んで参加していました。単位とは無関係に聴講することもありました。それらはすべて役に立っていると実感します。細分化、断片化された専門知識を、一つ高い視点から眺め、つなげてみたいと願っています。ビジネスとは「組み合わせ」の勝負ですので、たくさんのことを知っておくのは幅が広がると考えています。

Q. Apple社のCEOスティーブ・ジョブス氏についてどう思われますか?彼はコンピュータ産業と経営をうまく結びつけ、たとえば年1回のエキスポみたいなのとかを開催し、会社を大きくし、macの普及に努めました。その点でかれはCEOの見本といってもいい。同じプロの立場からの意見はどうですか?

A. 私は何を隠そう Mac ファンですので、ジョブス氏を尊敬しています。特に一度 Apple を追放されたあと、自分の信念に基づいて NeXT 社を設立し、それをもって再び Apple に戻ってきた生き様に感銘を受けました。信念を貫徹しているという点で、彼の生き方に学びたいと思っています。

Q. 起業には大きなリスクがありますが、それでもやっていけると考えた理由を知りたい。

A. リスクを超えるメリットがあると判断しました。私にとってのメリットは、自己の能力を「全開放」できる機会を得たことです。組織に所属している立場では、なかなか自分の能力を開放できません。それが私にとってはストレスでした。

Q. 私は自分に自信がもてず、起業どころか就職さえ不安ですが、それでもなぜ起業を選択できたのでしょうか?

A. 起業自体は難しいものではなく、誰の人生の選択肢の中にも普通にあるものだ、と考えています。ただ、やるからには絶対に倒産させないという決意を持ちました。いろいろ面倒になったので、もうやめた、と言えないのが社長業です。

Q. 御社の他社にはない魅力は何ですか。競合他社との差別化をするのは難しいと思いますが、それでもやっていけるのは何があったからなんでしょうか?

A. 目先の売上よりも、ノウハウの結集を優先させる経営を標榜しています。具体的には、1億円の下請け案件より、100万円でもお客様と直接、対話できる開発案件を優先して受注します。それが差別化につながっていると思います。

Q. 起業までにどんな経験をつんできましたか。人によって自分が一人前になったと思う段階は違うと思います。独立を決めたのはどんな積み重ねの上でどんなきっかけがあったからなのか聞いてみたいと思います。私はいままで自分が一人前になったと思えたことはないので、どうやったら自分に自信が持てるのか知りたいと思ったのでこの質問を一番してみたいです。

A. 一人前になったら起業しよう、とは考えませんでした。半人前だからこそ、起業して鍛えられようという(図々しい)発想さえ持っていました。ところで手っ取り早く一人前になる方法はあります。自分を追い込んで壁をつくり、それを乗り越えることです。社会人の世界では「修羅場」と呼んだりしますが、修羅場を経験すると人は強くなります。

Q. 学生時代はどんなことをしてきましたか。もう3年生になり学生時代も残り少なくなってしまいましたが、周りの友人たちはどんどんしっかりしてきて置いていかれてる気がして、学生時代にやり残したことがあるかもしれないと思ったので、社長の経験を聞いてみたいと思いました。

A. 私はサークル活動を通して、さまざまな企画を立ち上げてきました。一つ自分の例を紹介します。3 年生で部長職を拝命したとき、とある雑誌で応募していたコンピュータグラフィックスの第一回大会に応募しようといい、部員に躊躇されながらもプロジェクトを立ち上げました。共通の目標を掲げ、全員で達成することで何かの成功体験を共有したいと考えたのです。先輩から PC を借り、下宿生の部屋で夜遅くまで CG を作成し、出展にこぎつけました。素人同然の我々でしたが運良く入賞でき、結果として部員の多くが自信をもつことにつながりました。それ以来、このサークルでは本大会に出展するのがしばらく恒例になりました。そのときに一緒に苦労した部員の何名かはその後、ジャスミンソフトに入社してくれました。当時はまったくそこまで考えないで活動していましたが、こういう経験が大切なのだと今、改めて実感するところです。

Q. 例えば贄社長の考え方を大きく変えた出来事や人との出会い、経験など、[現在の贄社長の考え方]を培ったものについてお心当たりがあればぜひお伺いしたいです。ブログ『ジャスミンソフト日記』の中で、贄社長が“仕事の最終的な出来はどれだけの覚悟で取り組めるかで決まる”とおっしゃっていて、私はその文に強い関心をひかれました。というのも、私の好きな言葉に“必要なのは、勇気ではなく、覚悟。決めてしまえばすべては動き始める。”(『LOVE&FREE〜世界の路上に落ちていた言葉〜』高橋歩)というものがあり、贄社長の言葉とそれが重なったのです。私達はまだ若く未熟で、自らの倫理観・哲学観や人格形成も未だ途上の段階です。贄社長のように素晴らしい倫理観を培うにあたり参考にしたいと思います。

A. 走りながら考えるというテーゲーさを肯定します。無茶な行動であっても、最後に責任を取るという覚悟があれば肯定します。人間は気の持ち方ひとつで本当に生き方を変えることができます。大丈夫です。

Q. ジャスミンソフト社のような大企業を支える様な人物は学生時代どうすごしていたのか、また、やっておけばよかったと悔やまれることもあるのか、学生時代を有意義に過ごすためのヒントにお聞きしたいです。

A. ジャスミンソフトはまだ発展途上で大企業ではありませんので、そこは断っておきます。小さな会社を 8 年やらせていただいている立場で回答していることをご了承ください。

これまでの回答で、やったこと、は公表しましたが、やらずに悔やんだこと、は書いていませんでした。いろいろ思い出してみようとしたのですが、思い出せません。やって失敗したことはいくらでもありますが、やらずに後悔したものは、ないようです。

Q. 社長にとって優秀な人間とはどのような人のことを言いますか?

A. 今の時代では、変化に前向きな人は優秀だと思います。

Q. これから社会にでる若い人々に求めるモノとは?

A. 恥をかくことを恐れないで進んでほしいと願っています。失敗は恥ではなく成長の糧です。そういう私は、思い出すと赤面する失敗が山ほどあります。

Q. 社長として下の者をまとめるため(下の者の実力を最大限に活かすため)に工夫していることは、ありますか?

A. 有言実行型であろうと意識しています。評論家になっては部下はついてきません。

Q. 長時間集中しなくてはならないときに集中力を保つために工夫していることはありますか?

A. 気持ちがのらないときは無理せず、昼寝をしたり退社したりします。

Q. いつからソフト関係に興味があったのですか?

A. はじめてコンピュータのプログラミング方法を知った 13 歳のときです。ものすごい衝撃でした。

Q. 人生で一番きつかったできごとは?

A. 人生で... というほどのものはあまり記憶にありませんが、私にとってもっとも辛い業務指示は「何もするな」です。どういう環境にいても何か動かないと気が済みません。

Q. 社長自身のこれからの目標とは?

A. 社会がジャスミンソフトを必要だと言っていただける限り、良い製品を提供しつづけることです。

Q. 人生をよりよくするには努力に加えて何が必要か?

A. 私は「人生の達人」という言葉が好きです。これは学生時代、マスターキートンという物語の中で知りました。人生の達人は、どんな状況においても喜びを見つけることができます。わずかな意識の変化で、例えばたった今からでも、幸せを実感することができます。これができる人は、人生をよりよくできるでしょう。私もそういう考えで日々を生きていこうとしています。

Q. 人月制度に疑問を持つようになったきっかけや出来事がありましたらお教えください。

A. 人月制度への疑問は大学を卒業し、最初の会社に入ったときにすぐ「おかしい」と感じました。プログラミングには平均的なスキルをもった人材を大量に動員して開発するものと、少数のスーパープログラマが作成する類いのものがあります。後者は特に芸術的ともいえるスキルが求められます。人月制度は明らかに後者のタイプにはそぐわないものです。一方で、前者はグローバル化の影響を直接受けやすく、国内のプログラマの賃金が下がることもわかりました。また近年、システム開発はますます複雑化しており、大量動員型とスーパープログラマ型の垣根がなくなっています。さまざまな事柄を整理して出した結論が、当社が主張する自動生成方式です。労働集約型産業構造および下請け構造からの脱却と、国内在住プログラマへのきちんとした報酬を両立させる案はこれしかないと考えています。

Q. 10月4日の日記で県外の企業のほうが強いというわけではない、対外的な場で自分を鍛えることが大事、ということを書かれていましたが、その言葉はそのまま就職活動に置き換えられると思いました。私は内地で就職することも考えているのですが、やはり少し気おくれしてしまう面もあります。なにか良いアドバイスをいただけませんか?

A. 短期間で自信を持てる例を紹介します。面接までに、正しい敬語を操れるようになるという目標を設定してみてはどうでしょうか。社会人何年目という人でも、敬語が使えない人は少なくありません。すらすらと敬語が出るようになれば、自信につながると思います。がんばってください。