「ゆるい職場」の到来に思うこと

あけましておめでとうございます。

年末年始はひたすら読書していました。その中の一冊を、新年最初のブログで紹介します。

ゆるい職場-若者の不安の知られざる理由 (中公新書ラクレ 781) | 古屋 星斗 |本 | 通販 | Amazon

帯には「働きやすい会社をなぜ若者は辞めてしまうのか?」とあり、興味をそそられました。実際、この本に書かれていることは、私が常識と思っていたことは10年ほどのスパンでひっくり返されることがあるのだ、と突いてくる内容でした。

たまたま著者である古屋氏のインタビュー記事もみつけました。本書の概要に触れています。

www.businessinsider.jp

今の学生の状況は、私が学生だった30年前どころか、10年前とも違っているのですね。およそ10年前、琉球大学OBとして学生向けに起業について語らせていただく機会がありました。沖縄は優秀な学生が公務員指向なところがあり、別な選択肢として起業という生き方もあることを参考までに紹介してみる、という気持ちでお話しました。卒業していきなり起業をすすめたわけではなく、社会人としての経験を重ねながら、人生の中でもしかしたら起業するかも、という選択肢をもっておく生き方もありますよ、という感じでした。

しかし昨今のガクチカ - 学生活動 - の最右翼は部活動やアルバイトではなく、学生でありながら起業する(またはその起業に関わる)になっているとは、私の想像を超えていました。学生時代にそのような経験があれば、入社時点で組織や社会に接する態度は大きく変わるのは想像に難くありません。

ひと昔前はレアケースといえた話でも、今はSNSをとおしてスタートアップに関わった同級生や先輩、後輩との接点を持つことができます。遠い話ではない、ということを実感できれば、自分も関わる、もしくはそういう話を参考に次のアクションにつなげることができます。あと何年かすると、プログラミング必修化の動きと歩調をあわせて、スタートアップ体験もひととおりやりました、という学生がどんどん社会に進出する時代がやってくるのかもしれません。それも、世界中でそうなるのでしょう。

本書ではこれに加えて、昨今の法改正で就職前に企業から得られる情報の質・量ともに増えたことや、残業の抑制、無理な指導をしないこと、が広がっていることも説明されています。学生の意識向上に対して企業の現場はこれまでどおり「全員、未経験」を前提にした新人への業務割り当てを行うというギャップが、一部の学生にとって「ゆるい職場」と認識され、かえって不安視させてしまうというのは考えさせられる話です。法改正からわずか数年で様変わりした、という変化のスピードにも驚きます。対象が若い層ゆえなのかもしれません。

ただ著者も指摘するように、この流れ自体は良いことです。昭和時代の体質に戻すのではなく、このような経験を備えた若者をどう伸ばすか、を考えていきたいという方針に賛成します。

ということで新年早々、「ゆるい職場」時代に私たちができることは何かを考えてみました。

  • 企業と学生を結びつけ、スタートアップまではいかないものの、早めに実体験を積ませる仕組みはあってもよい、と思いました。これまでのインターンシップ制度と異なり、実際の社員になったつもりで作業に従事するものではありません。学生を中心としたチーム主体で、その会社を「客」とみなし、会社への改善を提案するような「仕事」をしてもらうという位置づけです。学生だけで、というのが擬似スタートアップになります。例えば学生チームによる新商品、新サービスの提案があります。その会社の既存ユーザへインタビューし、製品の良し悪しをヒアリングした上で改善点を見出し、さらにそこからマーケティング案を考え、実際にWebサイトのリニューアルを行う、といった活動もあるかもしれません。学生ならではの視点が既存社員の活性化につながれば企業にもメリットがあるでしょう。企業がゴーサインをだして経費および学生の人件費を捻出できれば、実現の深みも増します。さらにこの活動をレポートとして指導教官に提出し、単位まで取得できると学生にもメリットがあります。この体験自体がガクチカの一環になることはいうまでもありません。なお、この案は企業にとってもメリットがあります。若手層は自社をどう解釈して、どこに改善点があると思うのか、を知ることができます。現経営陣が当たりまえとして手を触れてこなかった業界の常識にも切り込むような提案であれば、いろいろ考えるよいきっかけになると思います。
  • 大手企業に入社して2-3年の若手社員を数ヶ月預かるというような緩いネットワークを地元起業同士でつくってみるのも有効そうです。沖縄だと公務員や教員といった方に民間の経験をしていただくのもアリです。本書が示すところによると入社2-3年で最初の転職を考えるようなので、そこで実際の転職の前に、ガラッと違う職場を体験することで気づきを得られる可能性があります。
  • 企業の垣根を超えた勉強会の定期的開催。これは異業種交流会、とは違います。名刺交換ではなく、異なる意見の交換を重視するものです。例えば医療に従事する方々の勉強会に他分野から参加してもらい、外からの視点をあえて取り込む、という位置づけです。そのような勉強会への参加条件として、指定する企業に在籍していること、とします。勉強会主催者もまったく知らない第三者にかき回されるのではなく、ある程度信頼のおける企業からの人材参加にメリットを感じる可能性があります。人材を出す企業にとっても、自社以外での社員の成長の機会を与えることにつながります。


いずれにせよ一社だけでできることには限界があるので、それこそ各地域にある、ネットワークの結節点のような組織が重要になるのではないでしょうか。それは地域の銀行かもしれませんし、産官学連携組織や、NPOかもしれません。

本書を読むまでは、ここまで若手の変化が起こっているとは想像していませんでした。自分の常識にとらわれず、いろいろアンテナをはっておくことの重要性をあらためて認識しました。