DXの活用に、モデリングは必要なのか?

さった2023年4月26日に、ローコード開発コミュニティの総会が行われました。2013年の設立から10年が経過し、その間、着実にスクラッチ開発からの脱却、というテーマの認知度が高まったと感じています。10年前のコミュニティ設立は、今思うと時宜を得たタイミングでした。

この総会で、コミュニティの設立および運営の中心メンバーの一人であった(株)ウイングの樋山さんの退任挨拶がありました。地元・新潟の発展のために時間を割きたいとの意思を尊重した結果となりましたが、個人的には、まだまだ関わっていただきたかったので、残念な気持ちが半分、そして感謝の気持ちが半分です。当コミュニティがここまで継続できたのは樋山さんの功績が大きかったです。本当にありがとうございました。

コミュニティはまだまだ活動を続けていきます。引き続き会員募集中、です。

さて総会と同時に毎年開催している記念講演について。10回目となる今回は「これからのDX人材のあり方:DX白書とデジタル推進人材スキル標準から考える」と題して、IPA DX白書有識者委員会 委員長/株式会社豆蔵 取締役 HDグループ CTOの羽生田 栄一 様にお話をいただきました。

(コミュニティ会員は、当日の動画閲覧と、資料閲覧ができます。興味のある方は事務局へお問い合わせください。)

日本は米国に比較して DX が遅れている、という見解について

まずは「DX白書」について。IPAのサイトはこちらです。

www.ipa.go.jp

調査によると、まぁ、日本はいろいろ遅れていて、経営層の意識も低い… との見解が示されています。そうだそうだ、という声もあるでしょうが、私はそんなに心配していません。米国では従業員を総入れ替えして自社をアップデートするという荒療治が可能ですが、日本は現有社員のスキルチェンジを前提とするので時間がかかること。そして日本は経営層から現場まで、できている、という回答が(おそらくは国民性から)控えめになりがちなこと。これらの経験則があるため、実際にはアンケート回答よりもちゃんとやっている、という側面はあるだろうと考えています。

もちろん本当に何もできてない、という企業もあるのでしょう。ただ、そこは中期的なスパンでみると廃業する方向でしょうし、企業数全体からみると、そこまで多くないはずです。大多数の企業はDXの成果を出せるようになるでしょう。そこまで悲観的になることはありません。

ただ例外もあって、公務員、特に教員は現場レベルでの改善ではどうしようもない状況にあるのでしょう。また、大多数の中小企業はDXを身近なテーマに感じていないことでしょう。前者については有識者が積極的に関わって、仕組み自体を変えてほしいと思います。後者は社会制度自体のアップデートに企業が乗り遅れないようにする、というムーブメントを起こすのがよいと思います。例えば人材不足と残業規制は相反するテーマに見えますが、DXという観点から両者を満たすにはどうすればいいか、といったことを社会全体で意識すると。少なくとも、仕方ないから現場努力でなんとかしてほしい、ということを指向することは社会的に許容されませんよ、ということが経営陣にとってのメッセージになると考えています。

ということで意識の高い方からみると日本の遅れは歯痒いでしょうが、着実に成果は出せるはずなので、私も微力を尽くしたいという立ち位置です。

DX人材のスキルセットについて

講演の後半は、DX人材の考え方、でした。

www.ipa.go.jp

「デジタルスキル標準」と呼ぶのですね。

この図があることで、個人が「自分はこのスキルセットを習得しよう」という目標としたり、あるいは組織の中でこういうスキルを持つ人を採用しよう、という計画の拠り所とするといった活用方法があります。

「デジタルスキル標準」第3部 DX推進スキル標準「ロール一覧」

さらに読み進めていくと、補足資料として「ノーコード・ローコードツールを活用して業務を自動化」という文章が目にとまりました。

「デジタルスキル標準」第3部 DX推進スキル標準 補足資料 DXの取り組みのテーマ(全体像)

これまでの「社内業務のIT化」とは違い、「(社内業務の)高度化・効率化」という枠組みになっていて、これも DX 取り組みの一環と位置付けられています。私の理解では、同スライドにある「新規事業開発」や「既存事業の高度化」を支えるための「業務(社内)」も同時にアップデートする必要があり、その際にはノーコード・ローコードツールを積極的に活用することが望ましい、と受け止めました。これは私、およびコミュニティの考え方に合致しています。

モデリングは、どこにある?

ところがこのスキル標準に(データ)モデリング、という説明がありません。私にとっては「ノーコード・ローコードツールの活用」のためには、社内・外のどういうデータを扱っているのか、という構造を明らかにすること、つまりモデリングが必須なのですが… それは言わなくてもわかっているはず、という前提なのでしょうか。それとも私の勘違いで、モデリングは不要という解釈なのでしょうか。

と心配していたのですが、ちゃんと羽生田さん作成のスライドの最終ページに、モデリングのことが触れられていました!
具体的には、

  • ユーザーの目的に寄り添った設計・実装しよう
  • 業務の現場フィールドに出てモデリングしよう
  • 世界をモデリングしてよく知ろう・よくしよう
  • フィールド(現場)の課題を顧客と一緒にモデリングしよう

といった言葉が語られ、講演は無事に終了したのでした。羽生田さんは「DX白書有識者委員会 委員長」というお立場ですので、その方からモデリング重要、ということで説明が締められたことは大きいと感じました。

モデリングとスキルセットの関係は?

講演のあと、質問してみました。

「現場にでてモデリングしよう」との見解でしたが、この現場に出る人とは、公開されているスキルセットの、どれにあたるのでしょうか?

その場でいただいた回答を自分なりに解釈すると次のようになります。

スキルセットはあくまでも参考であり、DXに関わる人は誰であっても、現場感覚をもってモデリングするという意識をもってほしい

つまり、大切なのは「現場を支える」という視点を忘れない DX であり、その第一歩としてモデリング(私にとっては「データの」モデリング)がある、ということです。

これは大切なことだと改めて意を強くしました。「私は xx というスキルをもって、この組織のこの立ち位置にいるので、現場のモデリングは別の人の仕事だ」、ではない、のです。

これを何度でも強調する意図は、このモデリングが実に面倒で、手間がかかり、地味である上に、評価されにくい仕事であるためです。時間をかけて、でてきた成果物は、よくわからない四角形が線で引かれたもので、こんなもののために何ヶ月もかけたのか?と思われる人もいらっしゃるでしょう。わかりにくいかもしれませんが、これが DX 実現のための重要な設計図なのです。ここをおろそかにして構築されたシステムは砂上の楼閣です。

コミュニティ幹事の一人として、この話は、わかっている人には今更いうほどのことではない、しかし理解されているとは言い難い(ので何度でも強調したい)ネタです。ツールが使えることと、モデリングを行うことはレベルが違います。正しいツールの活用は、モデリングから逃げないこと。羽生田さんの講演で、あらためてその意を強くしました。