今年最後のブログになります。この一年を振り返って「超高速開発」という市場は拡大したのか、来年はどのように発展するのか、について私見をまとめてみました。
誰のための「超高速開発」かを明らかにしたい
さった1月のシステムイニシアティブ研究会での発表を皮切りに、多くの場で「超高速開発」について説明する機会をいただきました。(こういう公的な場では製品の説明は行わないようにしています。)私がお話したのは、超高速開発の実現によって経営陣はいよいよITをコストではなく経営改善に使おうという動機付けにつなげられること、迅速なスピードで現場の要望に応えることによって、組織の活性化に貢献できるというメリットを享受できるようになる、ということです。
あわせて、超高速開発の真のメリットは「リポジトリ中心主義」、すなわちソースコードではなくリポジトリ(設計情報)を資産とすることであり、ユーザー企業の情報システム部門が "システムの主導権" を取り戻すためには必須であること、開発スピードの向上はこのメリットに比べれば「おまけ」といってもよい、というお話をしました。
一方で、これまでユーザー企業の "我が儘" の実現に最後までお付き合いすることを重要視してきた国内の SI 企業からは、超高速開発ツールが「何でもできるわけではない」ということが不安であるという声が聞こえてきました。ツールの制約がゼロではない以上、お客様には紹介できないというものです。また、工数の削減は売上の減少に直結するため、わざわざ自社のクビを締めるようなビジネスモデルを選ぶことはない、という声もありました。
このような中で、私も幹事の一人として参画している「超高速開発コミュニティ」では、ユーザー企業とSI企業それぞれの主張を汲み取りながら、全体として進むべき方向を提示し、よりよいパートナーシップの在り方を考えようとしてきました。毎月のセミナーやシンポジウム後のアンケート回答から、多くの参加者が真剣にビジネスモデルを模索しようとしているようで、これまでの取り組みは及第点というところでしょうか。とはいえ、まだ各ツールの機能比較や成功・失敗事例の収集という観点からの参加者が多く、踏み込んだ議論はこれからです。
"踏み込んだ議論" とは、具体的にどういうことか。
それは超高速開発の実践で、どのようなビジネス上のメリットがあったのか、という事例を増やすことから始まる、と考えています。これまでは、スクラッチ開発に比較すると開発期間は短縮し、不具合発生率も減少し、総開発費用も抑えられたというプロジェクト開発者の視点からの報告が主でした。これに次のような発表事例が加わることで、いよいよ超高速開発は普及期に入ることができる、と考えています。
- 経営環境が変わったため、迅速に(システムを)日々変更して対応している。
- 社内システムの内製化によって組織が活性化した。
- SI企業にとっても超高速開発という切り口で売上に貢献している。
期待できるのは、すでにそのような取り組みは少なくない企業で実践・運用されており、その知見・ノウハウが公開される土壌が整いつつあるということです。超高速開発のメリットを享受したのは「誰」なのか。理想はユーザー企業、SI企業、ツールベンダーそれぞれにメリットがあるという "三方、お得" という図式です。
もちろん超高速開発にはデメリットがあります。それは「何でもできるわけではない」が導く当然の帰結で、「できないことは、やらないことにした」という姿勢です。捨てたものがある、しかしそれを上回るメリットがある、という本音の部分を明らかにすることが大切です。そのような事例を知ることで、超高速開発の普及のために求められているのはツールの機能比較ではなく、ツールを活用するための体制づくり、トップの方針、そして超高速開発の効果を最大化するための、新しい開発スタイルだ、ということが自ずと見えてきます。
とはいえ、焦ってはいません。コミュニティ設立前は「(ツールそのものが)胡散臭い」と言われたことさえありました。設立後は毎月のセミナーを通して、各ツールの情報公開の場が広がりました。それによって各ツールの思想や、得意・不得意な面がだいぶ明確になってきました。オープン性が向上したことで、胡散臭さはなくなったと思います。来年はいよいよ、効果的な活用の話ができることでしょう。
まとめ
2012年に「超高速開発」というキーワードが登場してからこれまで、少なくとも業界に一定のインパクトを与えたのではないかと思います。しかしこれを一過性のものにとどめず普及期に入るためには、経営的観点からみた成功事例が増える必要があります。これはユーザー企業だけでなく、SI企業にとっての新しいビジネスモデルの発見という観点も含んでいます。
2015年の展開を大いに期待しています。私もさらにアイデアを出して普及に貢献したいと思います。