「超高速開発コミュニティ」が始動して2年半が経過しました。この2月に、当初目標であった参加組織 200 の壁を超えることができました。私にとって、重要な通過点になります。
このコミュニティはユーザ企業とSIer、そしてツールベンダーという立場での参加が同じ率で増加しているという特徴があります。当初、ユーザ企業名を公開するという方針は "日本では受け入れられない" と心配されましたが、昨今は大手企業が積極的に参加されるようになり、その懸念もなくなりつつあります。
超高速開発は着実に、傍流から本流に変わろうとしています。誤解があるといけないのですが、なにもかもが超高速開発の手法でうまくいくわけではありません。しかし「この規模、この条件なら、超高速開発の手法は効果が高い」「こういうやり方では、むしろうまくいかない」という事例公開が増えてくるに伴って、一定の市場が形成されます。特定ベンダーの縛りを受けず、ユーザ企業自身が積極的に情報を開示するコミュニティが立ち上がったことは意味があります。このコミュニティは成功事例だけでなく、途中でつまづいたことも含めて、ユーザー企業の生の声を伺えることができるため、今後もますます、その存在価値は高まっていくことでしょう。
ただ、それだけでは早晩、飽きられてしまいます。コミュニティが昨年に行った会員向けアンケート結果が公開されましたが、現状の活動への満足度は高いものの、さらに踏み込んだ内容を求められていることもわかってきました。個人的には、異業種のユーザー企業が連携し、超高速開発とはこのように付き合うとうまくいく(こうするとうまくいかない)という現場の知見をとりまとめられると、さらに盛り上がるのではないかと期待しています。
ファストSIやクイック開発など、同じようなキーワードも登場してきました
超高速開発コミュニティが立ち上がったあと、他の企業で「ファストSI」や「クイック開発」といったキーワードを掲げて活動されていることも知りました。私見ですが、「超高速開発」との本質的な違いはなく、いずれも “役に立つかどうかわらかないものを指示どおり作成し、工数の積み上げで売り上げを立てる” というビジネスからの脱却を目指しているのだと理解しています。強いて違いをあげるとすれば、「超高速開発」は大規模なエンタープライズシステム(いわゆる基幹系)に関わるユーザ企業やSIer、ツールベンダーが多いという印象です。つまり何百人月(以上)という規模の開発にも適用できるのかといった点で語られています。
エンタープライズ・アジャイルとの関係
これも私見ですが「エンタープライズ・アジャイル」とは競合関係にありません。企業がインターネットを通して購入者とつながるためのシステムは、小さく素早く作って市場テストで反応をみることが求められています。そのためアジャイル的な開発手法の採用が必須です。これを支える「超高速開発ツール」があれば、開発現場で採用されてもおかしくはありません。アジャイル = Rubyなどの軽量開発言語、という考え方にとらわれることはありません。アジャイル = 開発手法(進め方)であり、開発言語やツールに縛られるものではないためです。
掲げるメッセージは「多重下請け構造」的な開発では誰も幸せになれない、ということ
IT業界の多重下請け構造では、現場プログラマの悲哀が語られることが多いのですが、私のいう “誰も” という言葉は、どちらかというと発注者であるユーザ企業を意識しています。ユーザ企業にとって、顔のみえない大勢の開発者に任せる従来の開発方式は、大きなリスクを抱えています。時間もコストも膨らんだ上に、思っていたものと違うものができたとして使われないシステムになってしまえば、その機会損失ははかりしれません。現実路線としてはハイブリッド型内製(仕様を把握している自社スタッフと、顔のみえる少数の外部専門家・技術者との混成チーム)への切り替えが望ましく、これを支えるための超高速開発ツールが必要です。そのような認識を土台とした上で、各社の事情を勘案した開発スタイルを提案するように、SIerも積極的にその立ち位置を変えていった方がよい、と考えています。
ユーザ企業が変われば、結果的に弊害の多い多重下請け構造は縮小することでしょう。超高速開発コミュニティが、このきっかけを作るような活動をこれからも継続できるように、関わっていきたいと思います。