ビジネスシステムイニシアティブ2015「超高速開発を120%活用するために経営者が知っておくべき7つのポイント」セッションの続き

さった8月26日に催された「ビジネスシステムイニシアティブ2015」で、私は超高速開発コミュニティ幹事として「超高速開発を120%活用するために経営者が知っておくべき7つのポイント」というセッションに司会兼パネリストとして参加しました。

http://www.seminar-reg.jp/bsia/2015/timetable.html

パネリストは幹事の樋山さん(株式会社ウイング代表取締役社長)と、當仲さん(有限会社ユニバーサル・シェル・プログラミング研究所
代表取締役社長)、それにBSIA理事長の木内さんの飛び入り参加で進行しました。当日は短い時間ではありましたが、満席の会場は途中退席もなく、最後まで盛り上がったと感じています。BSIA自体の参加者も過去最高となる360名を超えたということでした。ご参加いただいた皆様、ありがとうございました。

さて私が理解した範囲で当日のセッション内容をまとめると、次のようなものです。

"ITを人任せにしようとする経営者が少なくないということはかねてより言われていたが、今はビジネスモデルそのものがIT抜きに成立しなくなっている。経営者は儲かる仕組み(=システム)の第一人者であり、それはITを知ることと重複するようになっている。これからはITを知っているかどうかは経営者にとって重要な資質の一つになる。”

このイベントから二週間ほど経過したので、自分なりの振り返りとしてこのテーマについて深堀りをしたいと思います。

対顧客別にみる、企業が直面している変化とは

ビジネスモデルそのものを変える

最終完成品やサービスを提供する、すべての企業が対象です。デジタル化によって、ビジネスモデルそのものが大変革しています。よく知られているのは、アナログカメラからデジタルカメラへの変化をとおして培ったノウハウを化粧品や医療など、まったく異なる分野に応用した富士フィルム様のような事例です。

このケースでは、経営者が自社のビジネスモデル(儲かる仕組み)を再構築するため、ITの可能性を理解することが欠かせません。製品やサービスの開発に加えて、それを支える基幹システムも変化にあわせて改築することになります。しかし現状は多くの企業で「つぎはぎ」型の開発を強いられたため、いずれ破綻してしまうというリスクを抱えています。このリスクと向き合い、抜本的な再開発をどうするのかということが重要な経営判断事項になっています。

直接、顧客(消費者)と接する

この場合の顧客とは法人ではなく個人を対象としています。いまやインターネットを抜きにした販売戦略、ブランディングはありえません。その対象も20代にとどまらず、50代までカバーされようとしています。これにはiPadなどの普及が後押ししていると考えられます。リアル店舗が通販とコールセンターに変わることで、顧客の声(要望や不満)を聞き取る方法とその対応も多様化しています。このケースで企業が求めるITは売上増大への投資です。しかし投資すれば必ず(売上が)上がるという保証がない、というところが経営判断事項です。

顧客が法人

多くの中小企業はこのケースです。他社にない強み(技術)で一点突破する企業がメディアに取り上げられることもありますが、一般的には受注生産型や派遣型で、購入先の要望に応えるために日々、コスト面の努力を行っています。このタイプで求められるITは経費削減で、多くの企業が課題として感じているのは原価管理の徹底ではないかと思います。また、市場が縮小する状況下では、利益の分配方法を再考した、新しい人事給与システムの構築も急がれます。経費削減を名目に正社員を派遣に切り替えるというアプローチもあるのかもしれませんが、やはり一時しのぎで、長い目でみれば企業存続にマイナスでしょう。儲け(またはマイナス)をどう配分するかという新しいルールをつくるのも経営者の判断事項です。

顧客が政府機関、地方公共団体

人口減による税収減が確実視される中、多くの事業が価格競争入札となり、これに関わる地元の企業にとって厳しい状況が続いています。これまでと同じ仕事を、半分のコストで達成するためには、従来の生産性向上の延長とは異なる発想が求められます。ITを駆使して、仕事のやり方そのものを変えるとはどういうことか、経営者は本気で取り組む時期にきています。


ざっくりと4つのケースをあげてみましたが、すべてにおいて経営者がITを活用するという方向でビジネスモデルを立案することが欠かせなくなっています。加えて、ITの性能向上スピードは毎年、*加速* しています。この加速によって今は登場したばかりでも、今後数年の間で、実用に耐えられるようになる可能性のある技術動向を知っておくことも必要です。私が個人的に関心をもっているのは、次のようなテーマです。

  • 個人、車、家電、そして都市全体が巨大なセンサーデバイスとして大量の情報を発信するようになる。それを使ってどうするのか、はアイデア次第。
  • 各現場でのロボットの活躍。力仕事だけでなく、細かい手作業や、AIによる受付対応・コールセンターも含む。すぐれたAIは、心のケアにも使われるようになるだろう。
  • 自動翻訳の発展による、ほぼリアルタイムな日常会話の実現。店頭商品の魅力を海外の観光客に伝えるといった応用例が模索されている。
  • 学校教育の再定義。授業の教材はコンテンツとしてネットを介して提供可能になると、教師の役割りも変わる。
  • その他、登場した新技術と自社の強みを組み合わせた、新商品の開発。


先進国では日々、このような新技術を軸にした新しいサービスが登場しています。インターネットが登場する以前と比較すると、顧客(利用者)も、ネット上の新サービスを利用することへの躊躇いはなくなってきたと感じます。一方、大企業による無料サービスの登場で、類似サービスを提供していた中小企業のビジネスモデルが一瞬で崩れるリスクも顕在化してきました。例えば無料の POS レジサービスが登場すれば、業界は激震に見舞われます。自社の製品・サービスを無料にしても別の方法で売上が立つ方法はあるのか、ということを自問するということは、ビジネスモデルの寿命がそれだけ短くなっているということでもあります。ITが絡んだ新技術は常に既存の商慣習ルールを覆す可能性を秘めているため、経営者は最新技術動向に無関心ではいられません。

まとめ

バブル期の国内企業は、他社サービスの真似でも売上を伸ばすことができました。今、他社と同じことをしても通用しないでしょう。それどころか他社がITを駆使したサービスを実現した場合、真似したくても追いつけない、という状況になっています。加えて異業種の参入や海外を含む新興企業の進出、大企業による既存サービスの無料化戦略などで、経営を取り巻く環境変化のスピードは加速しています。

しかし経営者が使える資源には限りがあります。その投資先として避けては通れないのがIT利活用であり、だからこそ、ここぞという集中投資で自社の強みを強化したいのは、どの経営者も思うところです。他社を参考にしたり、外部の識者からのアドバイスを重用することもあるでしょうが、最後は自分自身の「肌感覚」で、これは違う、ここへの投資だ、と決めるしかありません。しかし判断は間違うことがあります。より正確には、間違うのが当たり前というほどの経営環境になっています。ここがポイントです。

長期計画ではなく、かといって短期的成果を求めるでもなく、市場動向をみながら少しずつ進んでは振り返り、軌道修正するというのが現代のIT利活用経営のスタイルだ、と私自身は考えています。「少しずつ進む」というのは、そのまま進むか軌道修正するかという判断ができる程度には、動くシステムができあがっていることが必要です。これが超高速開発、というものが経営者にとって欠かせない理由です。

ということで、やっと、まとめられました。最後までお読みいただき、ありがとうございました。