ビジネスモデルを「受託ベース」から「製品・サービスベース」へ変えるポイントは何か

さった7月6日、オープンソースカンファレンス2013 Okinawa で「琉球ソフトビジネス支援センター」様の発表を聴講してきました。
http://www.ryukyu-soft.jp/index.html

このセンター設立の動機は、沖縄で圧倒的に多い受託型IT企業を、製品型へとシフトさせるきっかけをつくることです。星の数ほどあるOSSから有力な製品を選定し、これをかついでビジネスしたいという企業を支援するというモデルそのものは順当なものと思います。私がよく知っている方も関わっており、発表を伺って、選定や評価のプロセスがしっかりしていることに安心感を覚えました。同センターの新着情報をみると、半年に一度のペースで有望な製品の紹介が行われているようです。

とはいえ、ここで紹介されたOSS製品をかついで自社製品・サービスとしてビジネスを拡大しよう、となるにはさらにいくつもの課題があります。例えば私たちが開発しているWagbyも、Javaベースの著名なOSSを技術的な基盤としていますが、一口にOSSのミドルウェアの組み合わせだけで製品をつくるといっても、相当の時間とお金が必要です。OSSの業務アプリケーションの場合でも、サポート部隊を整えたり、カスタマイズを請け負えるようになるまでには少なくない投資が必要です。

そこで自身の経験を元に、企業が「製品・サービス」を主体としたビジネスモデルへと舵取りを変えるためのポイントを洗い出してみることにしました。以下に記したことは技術者ではなく、最終的な採用決定者である経営陣に知っておいてほしい、という視点でまとめています。

まだ原石のOSSか、大手企業での採用実績のある著名なOSSか。

琉球ソフトビジネス支援センターの立ち位置は、原石のOSSを早めに紹介し、先行者利益を獲得できるように促すというようにみえます。しかし周りをみると、特に地方で地場の企業向けにサービスを提供しているSIerほど、すでに大手で実績のある製品の販売が目立ちます。さらにいえば、それもOSSではなく、Microsoft, Google, Salesforce 社といった超大物が並びます。つまり現実では、先行者利益を獲得するよりも、リスクを避けたいという意思が明確です。

よって原石のOSSを選ぶときは、地元を飛び出して全国へ、さらには世界へ出る、という経営方針とセットである必要がある、と感じます。

そのOSSの保守を引き取る覚悟があるか

OSSをかつぐメリットの一つは「すでに動いているソースコードがある」ことです。しかし私たちがそれを採用するかどうかとは無関係に、OSSのプロジェクトは解散もしくは保守停止に至る可能性があります。開発チームの結成も解散もフレキシブルですので、そこに恨み節を言ってはいけません。

ということで、いったんかつぐと決めたら、最後はソースコードを引き取って自社で保守するくらいの気構えがないと、お客様への説明は難しいでしょう。それができないから保守が続きそうな著名なOSSを...ということになれば、ならばOSSではなく商用ソフトの方が...へつながってしまいそうです。

その製品・サービスの寿命を何年とするか

例えばWagbyという製品は、それこそ会社が続く限り10年、20年でもバージョンアップしたいというのが私の考えです。社業そのものをWagbyに賭けるというのは、そういう意味でもあります。これは自社開発だから言えることでもあり、私がお付き合いのある同業のパッケージベンダーの多くは、そういう気持ちでやっていらっしゃるのではないかと感じています。

一方で、流行の製品を販売する、というのは製品・サービスの寿命を自社では決めないことを意味します。それを自社製品と呼ぶことは難しいでしょう。

「製品をかつぐ」というのは、その製品の看板を背負うことでもあり、当然、色がつくわけです。もっといい製品が登場しても、おいそれと乗り換えるわけにいかなくなります。かといって、そこに中途半端さがあれば、すぐにお客様に本気度のなさを見抜かれてしまいます。その製品と心中するとまでは言わなくとも、少なくともその製品を降ろすときには、率先していた担当役員(場合によっては社長)も身を引くというほどの覚悟をもって臨むという気構えはあってもいいと思います。その製品を販売する部下も採用するお客様も、そういう気持ちには敏感です。

まとめ:それでも自社製品を持ちたいと思う気持ちが強いか

2010年代の先進国対象ビジネスでは、他社がやっているからという理由で同じ製品をかついでも、得られる利益は多くありません。売上が何十億円もある我が社が今度、これ「も」販売します、という形より、売上何千万円という小さい企業ですが、これ「だけ」は日本中(あるいは世界中)で我が社だけです、という特化型ビジネスの方が、伸びしろが大きいですし、何よりもやっていて面白いでしょう。もちろん看板をかつぐということは色がつきますので、はずしたら会社をたたむか、役員もしくは代表が去るという覚悟も必要です。そのリスクを背負ってでも、この製品に惚れたのでこれに賭ける、という愛をもってビジネスができるか。私はそこが成功の勝負所になると感じています。