第26回ソフトウェア&アプリ開発展 特別講演への登壇

さった5月12日にビッグサイトで行われた「Japan IT Week 春」の第26回ソフトウェア&アプリ開発展枠で、超高速開発コミュニティの幹事として特別講演を行ってきました。同じく幹事の樋山さんと二人で登壇しており、樋山さんが全体像およびゴールを明示し、私が実現可能性を支える基盤技術の考え方と、ビジネスモデルを提案するという構成でした。

f:id:ynie:20170515113225j:plain

主催者であるリードエグジビョンジャパンの担当者に伺ったところ、事前申し込みが900名とのことで、当日参加も5〜600名に達していたのではないかと思います。これだけ広い会場でお話できたのは良い経験でした。講演後も多くの方と意見交換でき、いろいろなフィードバックをいただけました。このような機会をいただき、ありがとうございました。

発表資料ですが、参加しなかった方への配布はできないとのことで、一般向けダウンロードサービスはありません。当日は写真撮影も禁止でしたので、内容の詳細については私または樋山さんへ直接、ご連絡ください。ここだけの話ですが、当日、私に直接「資料がほしい」と依頼された方へは個別にフォローさせていただきます。

そうはいっても超高速開発はまだメジャーではないですよね?というご質問について

当日いただいたご質問の中で、最も印象に残ったのが、これです。実際、私も「まだまだメジャーではない」という立ち位置で活動しています。この点について私見を補足します。

価格の問題

まず一つ目の要因として「価格」を取り上げてみます。このテーマは私の過去のブログでも何度も取り上げていますが、製品価格を含めた開発費を、従来通りのスクラッチ開発でのコスト比較をすれば、その差は歴然となります。つまり議論すべきは製品価格ではなく、プロジェクト全体の費用と利益率です。特に開発後の保守フェーズでツールの導入効果が顕著に現れることを考えれば、イニシャルコストだけに囚われるのはかえってメリットを見失ってしまうことになります。価格の問題はもちろん重要ではあるものの、極端に高すぎなければ許容できる水準というものはあるので、普及の障害とはいえません。逆にいえば、無料だからといって普及するという類の分野でもない、ということです。

囲い込みへの抵抗

次の要因は「囲い込みへの抵抗」です。各ツールは独自技術で高速開発を実現しているため、設計書の記述方法もばらばらで互換性がありません。普及のためには標準化というプロセスが望ましいかもしれません。

しかし現実に、例えば UML のような標準記法になるかというと、難しいと思います。市場で評価されているツールには10年、20年と継続されているものがあり、それらは独自のアーキテクチャに基づいています。強み、弱み、も違います。仮に標準化の議論をするとしても、各ツールによる実装の上のレイヤで、例えば「設計情報として記述すべき事柄は何か」といったレベルでの意識合わせは可能でしょう。そこから一段降りた実装(ツール利用レイヤ)は SIer の差別化戦略とも重なって、標準化の対象にならないと考えています。

それでも、ツールの上位レイヤレベルの標準化作業は意味があるでしょう。これを超高速開発コミュニティがやるかどうかはわかりません。より大きな団体の部会などが立ち上がり、そこにコミュニティからも参画するというスタイルも考えられます。

ただ標準化作業は時間がかかります。その間にも各ツールの性能はさらに向上し、現実は標準化作業の一歩先という構図です。「標準化されなければ採用しない」という方針ではなく、標準化動向もにらみつつ、利用していくということが良いでしょう。

ユーザ企業の動向

最後の要因は「ユーザ企業の動き」です。ツールを使って超高速開発を実践しているユーザ企業事例は増えています。それが目立っていないように見えるのは、「内製」または「外注だが、丸投げではない」というプロジェクト管理方式によって SIer との関係が変わっているためです。SIer 視点でみると、どうしても「何々という案件を、どこが、xx 億円で受注した。」というニュースに目を奪われがちです。しかし緩やかですが着実に、ユーザ企業は「開発のイニシアティブをベンダーではなく、ユーザーが持つ」体制へとシフトしています。それが内製回帰であり、その動きを支えているのが超高速開発ツールです。

当日の講演でもお伝えしましたが、SIer はこの動きに対する自社の関わり方を検討する時期にきています。あくまでも従来通りの一括丸投げ方式(受注金額は大きいが、失敗率も高い)にこだわるか、またはユーザ企業に寄り添う形で内製支援を行うか。今後の基幹システムは後者のニーズが高まるというのが私の意見ですが、そのように考えている人は増えています。ユーザ企業の支持を得られるかが重要であり、その意味でも、超高速開発ツールは注目度の高い分野です。

まとめ

私が今回、説明した内容は、実は10年前に Wagby を市場に投入したときとあまり変わっていません。それでも目新しさをもって受け止められたのであれば、まだまだ普及していないということでもあります。だからこそ潜在需要は大きく、今後の伸びに期待できます。10年前であれば、これだけ多くの方に聴講していただけなかったでしょう。時間はかかりましたが、時代が変わる兆しがあります。

普及というのは、皆が認識したときには、もう新規参入組は先行者利益を獲得し終わっています。そういう変化は何年かに一度しか生じず、それを一般にはビジネスチャンスと呼びます。その前提で、今回の講演が聴講された方にとって、「まだ普及していない状態を自社ではどう捉えるか」を検討する機会になれば幸いです。