ユーザー企業による超高速開発のニーズの背景は何か

本日の日経産業新聞5面に「業務ソフト IT13社、高速開発へ団体」の記事が掲載されました。先日発足した超高速開発コミュニティの案内です。

記事中にある関会長の発言を引用します。

"労働集約型の従来のシステム開発では日本企業の競争力は高まらない。超高速開発を浸透させて改革する"

コミュニティの意思は、企業の競争力を高めることに貢献することと明記されています。このゴールを共有するためのコミュニティであると宣言しただけでも意味があります。

ちなみにこの発想は新しいものではなく、もう1年半も前になる日経コンピュータ「超高速開発が日本を救う」特集で指摘されていたことです。記事中には「企業の競争力を左右する最大の要因はスピード」というコメントがあり、私も含め、多くのIT従事者に "このユーザー企業のニーズに、何ができるのか?" を問いかけました。この記事の末尾はこう締めくくられています。

超高速開発ツールの活用の巧拙が、日本企業の競争力を左右する時代に突入しつつある。

本記事は現在、PDFで入手することができます。
http://ec.nikkeibp.co.jp/item/backno/NC0804.html

超高速開発によって企業の競争力が左右されるようになった理由は、比較容易な社会になったためではないか

ユーザー企業による超高速開発のニーズの背景は何か。以下は私見であり、超高速開発コミュニティの公式見解ではありません。

インターネットの普及とスマートフォンの台頭によって、同じサービスを提供する企業をそれこそ数十から数百でも、簡単に存在を知る(検索できる)ようになりました。このようなメディアの発達により、海外企業やベンチャー企業であってもアイデア次第で検索の上位に位置づけることができるようになりました。サービスを利用する人にとっては選択肢が増えれば競争が働き、サービスの質も価格も良くなることが期待できます。しかしサービス提供企業にとっては、新商品・サービスを早く投入する必要がある(そうでないと類似サービスに埋もれてしまう)という課題になります。

他社が参入できない特異な技術があれば差別化できるという発想も大切です。しかし同じサービスでも、ちょっとした工夫によって差別化できる余地もまだまだ残されており、そのためには製造と販売が一体となったトライアンドエラーの繰り返しが求められます。仕様そのものを頻繁に変えながら最適解を探すわけです。そのトライアンドエラーを支えるシステム開発がボトルネックになってしまっては、せっかくのアイデアも市場に投入できず、画餅に終わります。ここにシステムを超高速で開発するというニーズがあります。

実際に、上記で触れた日経コンピュータ記事では、保険商品の開発期間を2ヶ月から3〜4週間へと半減させたことで効果を上げた韓国企業の例が紹介されています。この記事を読んで、韓国企業に負けてなるものかと発奮した担当者は多いと思います。

ユーザー企業の発注スタイルも変化せざるをえない

法律で決まった業務や、十何年も変化していない業務を IT 化することでコスト削減を図る。これはすでに過去の話です。今、IT への期待は変わっています。未知の最適解をユーザー企業と SIer が一緒になって探す時代においては、ユーザー企業内部の情報システム部の在り方と、パートナーになる SIer との関係性も大きく変わるはずです。

そして開発ツールは最適解を提示しません。これこそが人間の仕事であり、システムエンジニアの醍醐味です。

ここで求められているのは上流工程のスキルですが、業務分析や要件定義はもちろんのこと、対象企業の強みや競合他社との違い、そして対象の業界の将来動向なども把握し、半ば経営コンサルタント的な視点をもって最適解を提示できるエンジニアが重宝されることでしょう。そんな人材はいないと笑われるかも知れませんが、そこに着実なニーズがあるとわかれば、人は努力することができます。

これに開発ツールを使いこなせるエンジニアと、開発ツールでカバーできない部分を補完するエンジニア。これが揃ったとき、最大限の効果が発揮できると考えています。そして、ここには人月単価を下げることで受注するという発想はありません。超高速開発を実現できるチームそのものに価値を見出すことができれば、むしろ人月単価を上げてでもユーザー企業は必要なパートナーを求めにくる。これが私が考えるユーザー企業と SIer の関係性です。

経営陣が感謝する IT へ

これまでは「会社が改革しようとしても、システムの改変が追いつかない」と、IT が足を引っ張っているように言われたこともあったでしょう。しかし会社の改革に IT がついていけるとなったとき、今度こそ組織の実行力が試されます。そこからが本当の試練です。超高速開発の導入で会社が良くなるのではありません。真に改革できるかどうかという経営陣の力量が問われるのです。それは経営陣にとって、最良のフィールドです。そして経営陣は、そのようなフィールドを提供できる自社の IT 部門およびそれを支えるパートナーを心から誇りに思うことでしょう。そのような関係性こそが理想ではないか、と考えています。