私が超高速開発コミュニティに託しているもの

先ほどまで @yusuke さんと私、もう一社のコミュニティ幹事の方と3名で熱く議論していたところです。正直、@yusuke さんにはこちらの不手際が重なり、どうお詫びしていいのやらという厳しい状況でもあったので丁寧に説明しました。ただ、語るほどに目標としている世界観が近いと感じたので、できればコミュニティに参画していただきたいと願っています。至らない点は(図々しいのは承知の上で)一緒に改善していきましょう、と。時間はかかるかも知れませんが、あまり心配していません。同じ問題意識を持っている方がそれぞれの知見を出し合い、相互に改善するプロセスを回すことができれば、うまくいくはずです。

ところで超高速開発コミュニティは、どうしてもツールベンダーが営業するための仕掛けと勘ぐられるところがあります。それは活動実績によって明らかにするしかありませんが、少なくとも「どうしたいのか」も見えないというのはよくありません。コミュニティの参加者に明確な上下関係がないため、中の人の一人でしかない私の意見表明は全体の総意ではないという前提で、それでも発起人として何を考えているのかを綴ろうと思います。

やりたいのはソリューション提供者、SIer、利用者が同じテーブルで議論すること

超高速開発というのは、あくまでも切り口の一つです。ところが利用者(つまりエンタープライズアプリケーション開発の発注者)にとって受けが良い切り口です。すると超高速開発って何、どうすればできるの、今までと何が違うの、という疑問から始まって、(超高速開発の)ソリューション提供者 - それは具体的なツールやメソドロジーを提供する人たち - に「そのアイデアを詳しく聞かせてほしい」というチャンスが生じます。それを活用しようとするSIerや個々の技術者も集まってきます。つまり超高速開発というキーワードで、多くの関係者が同じテーブルで議論することができます。

それの何が嬉しいかといえば、これまでソリューション提供者、SIer、利用者が * 同じテーブルで * 議論するという機会がほとんどなかったという疎遠関係を改善できる可能性があることです。

利用者は丸投げ、提供者は都合のよいツールだけを切り売り、SIerは人海戦術で乗り切る、という関係性からなる開発プロジェクトを私は変えたいのです。そのきっかけとして超高速開発を掲げるのがこのコミュニティの立ち位置です。もちろん同じ目的をアジャイルやスクラム、その他、別のアプローチで捉えることも可能です。ただし超高速開発は興味を引きやすいキーワードであり、かつ従来の人海戦術ビジネスモデルを変える潜在能力を持っているため、より多くの関係者を巻き込みやすいと考えています。

では議論そのものが目的? いえ、議論を進める中で、超高速開発という果実を得るためには単にツールの良し悪しではなく、それを使うSIerも、それを利用するユーザーにさえも、これまでとは異なる認識をもっていただく必要があるということに気付くはずです。"何かを得るために、何を捨てるのか。" 実は結論は私の中で、もう明らかです。それがシステム・イニシアティブをユーザーの手に、つまり利用する人が自ら主体的にシステムの開発と運用に関わるということです。その世界を実現するために、ツールはもっと高度化する必要がある、と考えています。

この世界観は、理想的すぎると思われるかも知れません。しかし私たちには目指すべき理想、道標が必要です。それがないといつまでたってもモグラたたきのように発生する旧システムの保守だけで技術者人生を終えてしまうということになりかねません。理想とはどういうもので、どういうアプローチで、いつまでにそこに近づいていくのか。そういう議論をやってみたいと思っています。それはコミュニティをツールベンダーの営業の場にするという話ではとうていなしえない、もっと深い議論になるでしょう。

それって会費制じゃなくてもできるよ

その意見は理解しています。しかし一方で、私はコミュニティを情熱だけで回すのは最初だけであり、安定的に運営するためにはお金が必要だという考えをもっています。それは幹事が飲み食いをするためのお金ではありません。(そのような使途には一切、関わっていません。)一例をあげると、コミュニティの宣伝活動には、お金がかかります。マスメディアとタイアップするのは無料ではありません。セミナーをするにも会場費がかかります。Webサイトも無料で運営できません。今は事務局も運営委員もすべてボランティアですが、それは本来、健全な状態ではありません。コミュニティで儲けようということではないのですが、最低限の運営費は必要だという現実があります。

ですので情報を得るために、いくばくかのお金をコミュニティの活動資金として支援していただく。そういう形のやりとりはあってもいいと思っています。すべてが無料というのは永続化するのが難しいという考えですが、それが正しいのかどうかは、実はよくわかっていません。ただ、私が関わっている間は、今の(会員制という)活動方針を支持しようとしています。

ユーザー企業へもメッセージを発信したい

これは書くべきかどうか迷ったのですが、勢いに乗じて綴ります。今のところ、超高速開発コミュニティに加入しているユーザー企業はわずかしかありません。これもまた、ツールベンダーばかり集まって... と突っ込まれていることの一つなのですが、実は個人会員が増えています。どういうことかというと、超高速開発コミュニティに加入するのは社内手続きが面倒なので個人で入りますという方が少なくないのです。

私はここに負のサイクルの原点を感じています。

ユーザー企業が自分の名前を明かさず、しかし他社の情報は入手したいという状態を維持しようとする限り、ノウハウの共有は進みません。結果としてツールベンダーも情報開示できず、SIerも囲い込み戦略につながります。本当に良い情報を入手したいなら、まずユーザー企業が自ら社名を出し、そして成功・失敗も含めて事例を公開することが、現在そして未来の関係者にとって何よりの財産になります。コミュニティを育てるためには、皆が少しずつ知見を出し合うことが必要です。この壁を突破し、コミュニティ参加者が自由闊達な意見交換ができるような風土をつくること、それが当面のチャレンジです。その壁が、日本のエンタープライズアプリケーション開発分野にとって何よりも難しいことを承知の上で、チャレンジしようとしています。

disるのではなく、褒めて伸ばすコミュニティへ

最後にもう一つだけ、日本のユーザー企業による技術者の扱いで残念に感じている点を綴ります。ユーザー企業にとって、お金を出したのだから完璧なシステムが出来上がるだろうという気持ちは当然、理解できます。しかし現実には100点ではなく99点だった。そのとき「1点足りないのだから、このシステムは使えない。」という台詞が私にとっては残念でなりません。同じ事実に対して「よく99点までがんばった。あと1点、これができれば完璧だ。ここまできたのだから是非、あと1点やりとげてほしい。君ならできる。」と仰っていただければ、技術者の魂に火をつけることができるのに、と思うのです。

超高速開発コミュニティに加盟するツールベンダーにとっては、今後、自社ツールの良いところだけでなく、むしろ不備なところが明らかになるような機会にも遭遇することでしょう。そのときに周囲が断罪するのではなく、ここを良くすればもっと伸びる、というような意見をいただけるようなコミュニティにしたいと願っています。そうやってツールが改善されれば、得をするのはユーザー企業であり、SIerであり、引いては社会全体です。何を甘いことを、とおっしゃる方がいるだろうというのは承知の上で、それでもコミュニティ活動を通してツールを開発している技術者の魂の火を燃やし続けるような機会をいただけるようにと願っています。

そしていつの日か、ツールの中の人(開発者)と利用者が集まって議論できるような場を企画したいです。一社単独では(そのような会は)あったでしょうが、それがコミュニティとして、複数のツールが集まってできると、かなり盛り上がるのではないかと期待しています。

ともあれ8月の発足から、あっという間の3ヶ月でした。至らない点が多いことも認識しています。それでも超高速開発コミュニティの発展がすべてのIT関係者にとって役に立つことを願って、自分ができることをやっていきます。